ノルス
@Chamisuke
第1話 魔族との遭遇
1479年、テオフィロス人の探検家ダリルがアルカ大陸の寒冷地帯を目指していた。彼らは地質学の研究チームで世界各地を探検して珍しい鉱石等を集めていた。今回のアルカ大陸の探検は鉱石好きのスポンサーから出資を受けた仕事で、アルカ大陸に存在するとされる美しい宝石を探すために出発した。
ダリルの父親は商人で交易の発展した国家であるベルトリクス王国で少なからず財を得ていた人物である。父親の商才は目覚ましく、ダリルも連れて世界各地を転々としていた。父親がどのような仕事をしていたのかは分からないが、落ち着いて生活ができないことに不満を持ち続けていた。しかし12歳の頃、彼の運命を決定づける物と出会う。アルタ帝国南側にある高山地帯、父親に連れてかれた鍾乳洞のレクリエーションをしていた時に眩いほど美しい鉱石に出会った。クリスタルと呼ばれるその鉱石に目を奪われ、美しさに息を呑んだ。
彼はその頃から世界各地を旅することに不満を持つことはなく、美しい鉱石の謎に迫るために勉学と経験に励んだ。
年齢を重ねるにつれて世界の成り立ちを理解したいという欲求が生まれた。未知を知る過程の苦しさを知りながら、未知を知った瞬間の幸福を求め続けたのである。
ダリルは現在孫を持ち、過酷な環境に身を投じるには限界ぎりぎりの年齢だ。最後に最も未知な世界に身を投じたいと考え、アルカ大陸を探検したいと渇望していた。今回のアルカ大陸の探検もスポンサーは見つけたものの自費で賄った部分は多く、彼と彼の仲間自身が希望したために実現したものであった。
アルカ大陸に渡るにはカヤ王国最南端の港から海を渡る必要がある。通常は荒波が立って航海などできるはずもないが、6月~7月の暖期は比較的波が落ち着ている。この時期にダリルは5人の仲間と共に海を越えてアルカ大陸に渡った。
波は比較的落ち着いていたものの、南側と比べれば荒波が立っていたために危険な旅路となったが、なんとか船をアルカ大陸の沖につけることができた。幸いにも晴天で、日は十分すぎるほど出ていた。そしてそこには、一面雪に覆われた真っ白な世界があり、生物は自分たち以外存在しないのではないかと思うほどの神秘的な光景が広がっていた。
北東に山を見つけたので、そこに鉱石があるのではないかと考え、山に向けて歩き出した。雪に足を取られながらも進んでいき、7km程歩いた時には日が陰り始めていた。
暗がりの中で、遠くの森林に奇妙な存在を見つけたので目を凝らした。そこには猿のように体毛が濃く、背の低い動物がいたのである。全ての毛が白く、凡そ人間とは思えないが顔だけは皺だらけの老人のようであったために、奇妙なおぞましさを感じた。周りに同種は存在しないようで、1体のみである。その謎の存在は動きが遅いために、こちらから少しずつ近づくことにした。”彼”は我々の動きには興味が無いようではあるが、こちらと正対した。10m程近寄った所で、”彼”は手をこちらに向けてきた。
その瞬間、恐らく攻撃を受けた。何が起きたのかは分からないが私の腕が吹き飛んで消えていたのだ。血があふれ出し激痛に襲われて蹲った。私のもとに駆け寄ろうとした仲間は胴体を吹き飛ばされて一瞬の内に息絶えた。痛みと恐怖に支配されそうになりながらもダリルは立ち上がり、叫んだ。「とにかく逃げろ!」
ダリル一行は振り返らずに走り続けた。猿のような動物は動くことはなく、逃げ切ることは容易であった。ある程度距離を取れて問題ないと感じた所で、夜営して次の日に帰国した。
帰国までの航海でも荒波が立っており、ダリルは応急処置をして止血はできているものの凍傷にも苛まれ生死をさまよい続けた。何とか寄港して本国に戻った後すぐに病院で治療を受けた。意識は回復したものの症状がいつ悪化するのか分からない状況であり、見舞いのために家族全員がダリルの部屋に入った。
一番に入ってきたのは孫息子レベリオである。年に数回会っては探検した話を聞かせ、目を輝かせて自分を見ていたかわいい孫息子が顔をくしゃくしゃにして泣きながら抱き着いた。常に存在する痛みに苛まれながらもかわいらしい孫息子を肌に感じて幸福な気持ちとなった。
ダリルの孫息子ゼリルはこの時に何を話したか詳細は覚えていない。ただ、唯一はっきりと覚えている祖父の言葉があった。
「未知を知ることは生きることより幸福だ」
この言葉が終生レベリオの生き方を運命づける言葉となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます