朔Side

第30話

目から涙を流しながら、もっと愛して欲しいと懇願する百合の姿を見て、やっとだと、そう思った。

普通の高校に通う女子高校生をさらって、屋敷に連れ込んだ誘拐犯。

それも普通の誘拐犯じゃなくて、世間を騒がせる連続殺人犯。

そんな犯罪だらけの俺の事を好きになるなんて有り得ないと思っていた。

俺だけがずっと、百合を好きでいると、そう思っていた。

「朔くん?」

「嬉しい。俺の事、好きになっちゃったの?」

そう聞けば、顔を赤く染めて百合は下を向く。


「また泣いてるの?ほら、顔上げて」

両手を頬に添えて顔を持ち上げれば、大きな瞳から大粒の涙を流し続ける百合の顔があった。

「朔くんは、犯罪者で、人を殺すなんてっ、最低なんだよ。」

「うん。」

「でも、好きなの。私が、おかしいの?」

細い腕がこちらに伸びてくるから、そのまま腕を引いて自分の胸の中に百合の体を連れ込んだ。

初めて感じる早い鼓動に、俺まで持っていかれそうになる。


「百合はおかしくなんかないよ。大丈夫、おかしくなんかない。」

おかしいのは俺。

それを言葉にすることは出来なくて、目の前の消えてしまいそうな小さな体を抱きしめることしか出来なかった。

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