第10話
殺してやる、そう彼は屈託のない笑顔で言った。
私は今、殺人犯を目の当たりにしていることを再確認して、急に体が震え出した。
捕まれた手から逃げ出すなんてもう無理なんだ。
この家にいればいいだけ、あなたにメリットがないなんて、嘘だ。
私には、デメリットしかない。
彼がいないと、何も行動を起こせないことを教えられているのだから。
あなたは私をずっと監視できる。
最後に聞いたお母さんの声と、お姉ちゃんの声。
顔すら見れずに家を出てきたことを後悔した。殺されてでもいいから、顔を見ておけば良かった。
「っ…百合、泣いてるの。」
絨毯すら挽いていない白いフローリングに私の涙がぽつ、と落ちた。
とめどなく溢れてくる涙をもう止められなかった。
泣かせている張本人が目の前にいるのに、彼が1番悲しそうな顔をして、私の肩を抱き寄せ、背中をさすっている。
彼の肩がどんどん濡れるのが分かった。
「家に、返してっ…嫌、こんなとこ、嫌だ、…」
「ごめんね、それは出来ないよ。百合はもう、俺のものになったの。帰りたいなんて、」
もう二度と言うな。
急に低くどすの利いた声で耳元で囁かれて、溢れていた涙でさえ引っ込んでしまう。彼のシャツを掴んだ手をぱっと放した。
百合、朝食を食べておいで、と彼はさっきのことなんてなかったように背中をポンポンと二回たたいて言った。
さっきの運転手が私を部屋に招くから、彼から逃げるように、私はその部屋へ飛び込んだ。
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