【第六話 ドキドキッ‼ 好きなあの人と距離を縮めよう大作戦‼】

 先生の恋愛相談を受けてから一日が経った。今は絶賛部活動中だ。

「で、具体的には何をすればいいんですか……?」

 私は魔導機械研究部室の部屋にある日本とかの学校の図工室にある四角い椅子に乗り、前後に体をグワングワンと揺らし、乗り気ではないため、気だるげに聞いた。

「そんなん、お前が考えてくれ」

 先生は目元に装着したアイマスクのような布を片眼だけずらして開けて、こちらをちらっと見て、投げやりに答えた。

 そして、答えると黒板の下に置いてある自前のリクライニング可能の椅子に寝っ転がり、またアイマスクを装着した。

「うーん……」

 なんも思いつかない……。

 ぶっちゃけたことを言うと、その魔導剣士コースのグラス先生とは面識がない。

 え~、今から接点創るか? でも、あのエリートコースの先生が劣等生の私を相手にするか?いい感じにあしらわれる気がする……。

 う~ん……。

 私が黙り込みながら考えていると、先生がふと口を開いた。

「お前の妹、魔導剣士コースでグラス先生が担任じゃなかったか?」

「あ~、確かにそうですね」

 ……うん? まさか‼ 

 私は先生の言いたいことがなんとなく分かってしまい、顔をハッとさせる。

「そうだ、妹にコンタクトを取ってくれ」

 は~い、予想通り! 終わった!

 私はもはやどうすることもできなくなり、ニコッと顔の口角を上げることしかできなかった。


「先生、自分、今妹に嫌われてるんですよ? 無理ですって…」

 私は意気消沈しながら先生に言った。

「いやいや~、でも別の案なんてないだろ」

「いや、普通に先生がグラス先生に「好きですっ! 私と付き合ってください」と、言えばいいんですよ」

 私は真顔で答える。

「むっ、無理だ~。……なぁ?」

 先生は神妙な顔つきで私の顔を見る。

「はい?」

「こう見えて私はシャイなんだ」

「そうですね」

 先生が言い終わった瞬間に間髪入れずに真顔で答える。

「あっ、あれ~」

 ちょっと拍子抜けだったのか呆けた顔で素っ頓狂な声を出す。

 先生は意を決して言ったのだろうが、もともと恋に関してはシャイな感じだろうということはこの私ですら察していた。

「告白、すればいいんですよ。そうすれば今の恋心に吉と出る凶と出るか分からないけど、決着はつきますよ」

「………。そんなこと言ったって告白なんてできないよ!」

 先生は語彙を強めた。

「はぁ~、分かりました。妹にコンタクトを取ればいいんですね?」

 先生は無言でコクッと頷く。

 仕方ないとため息をつき、部室の時計を見た。時刻は午後六時部活終了の時間だ。

「もう、部活って終わりの時間ですよね?」

「ん? ああ、もうそんな時間か。よし、部活終わり! ——ってことでよろしく頼んだ!」

「……はい」

 すっごい気乗りはしないんだけども……、まぁ妹と久しぶりに話す機会だと思えば……。

「行ってきま~す」


        ×   ×   ×


 魔導剣士コースの寮の前にやってきた。寮は庭に囲まれていて東京ドーム一個分のサイズでその庭を三メートルぐらいのコンクリート製の壁で覆われている。唯一開いているところは鉄格子の門が構えられており、その前には二人、警備員の役割だろうか、剣を携えた騎士が立っている。

「ここがユアの……、魔導剣士コースの寮……」

 なんて立派な建物なんだ。真っ白で西洋風な豪邸が門のサキで見える。私と同じぐらいの金額で入学しているはずなのに……。

 入試で筆記・実技のテスト、面接の点数で高得点を叩き出したユアは特待生制度の入試が認められ、特待生制度で入学すると一番下の魔道機械コースと同じ金額で授業、設備などこの学校の全てものを使うことができる。

「何ようだ貴様」

 警備員の騎士の一人が言ってきた。

 えっ、貴様って、この学校の生徒ですけど~、確かに制服のデザインが少し違うけどこの学校の生徒なんですけど~

 って言いたかったが、流石にこんなこと言ったら怒られそうな気がしたので、

「えっと、魔導剣士コースに所属してる私の妹ユアに会いたいんですけど、会うことって可能ですか?」

 警備員の騎士が私を下から上まで眉間にしわを寄せて見てきた。そんなに疑いますかね?

「分かった少し待ってろ」

「はーい。……」

 あたりが強いったらありゃしない。


 数分すると警備員の騎士の一人が帰ってきた。

「魔導剣士コース一年ユア様と会うことが許可された。今門を開ける」

 おぉ、よかった。

 巨大な鉄格子の門がギギギギと金属音を立ててゆっくりと開く。

「ユア様の部屋番号は203だ」

「分かりました。ありがとうございます」

 寮の中に入ると床全てに赤いマットが敷かれていたり、高そうな絵画や置物、綺麗なステンドグラス、シャンデリアのような大きな照明など、まぁいい暮らしができそうなものが無数に置いてある。

 そんなものを眺めながら歩く明らかに場違いそうな感じがする私‼

 美女と野獣のような豪邸にある幅広な階段を上るとすぐにユアの部屋の203号室があった。

 ここ、か……。

 その部屋のドアの前に立って、呼び鈴を押すだけなのに、呼び鈴を押すことを躊躇してしまって、立ったままでいると、

「いでっ!」

 頭に固い金属のようなものとぶつかった衝撃を受け、その痛みで地面に座り込んでいると、

「………。えっ! 兄さん⁉」

 ドアを開けて部屋から出てきたユアがびっくりして声を上げた。

「やっ、やぁ……」

「兄さんどうしたの? そんな頭抱えて」

 悪気はないのか本当に疑問そうな顔で私を見てきた。

「お前が急にドアを開けたからじゃん……」

 まだ頭が痛くじんじんするため、うずくまったまま答えた。

「………」

「………」

 二人の間に数秒間の沈黙が起きる。

 その間に廊下を歩く他の魔導剣士コースの生徒に変な目で見られる。

「まっ……まあ、廊下で話すのもなんだし、部屋入る?」

 部屋に入ると私が住んでるアパートみたいな部屋の二倍? いや三倍以上ある部屋だった。

「じゃあ適当なところに座ってて」

 ユアが簡易的な台所のような場所で紅茶を淹れてくれながら言った。

 座るって言っても……。

 イスやテーブルがこの部屋を見渡す限りでも三か所ぐらいある。

 私は悩んで悩んだ挙句ここに座った。

 すると、紅茶を淹れ終わったユアがトレーにティーカップ二つとポット乗せて私の方を見るに、

「何で兄さんそんなところチョイスしてんの?」

 ユアがむっちゃ呆れたような顔でこっちを見てきた。

 そう、私が腰かけたのは窓際にあるゆりかごのように前後するロッキングチェアだ。

「考えた結果がここだったんだよ……」

 超恥ずかしくて私はぼそぼそと言う。

「普通このテーブルの近くにある椅子でしょ……」

 さらに呆れながらもここに座れと言うようにティーカップを置き、テーブル近くの椅子を指さす。

 座って、紅茶を一口飲む。

 ユアも座って紅茶を一口、

「………」「………」

 さらに私は紅茶をもう一口。

 ユアもさらに一口。

「………」「………」

 そうこうしているうちにカップに入った紅茶が無くなった。

 ユアがてしーカップをのぞき込むのを見るにユアの紅茶も空になったらしい。

 ………。

「あのね!」「あのさ!」

 話を切り出すタイミングが被った。

「あっ、ごめん。ユアなに?」

「ご、ごめんなさい。兄さんは?」

「あっ、いやいやユアからでいいよ」

「いや兄さんから」

「いやいや」

「いやいや」

 ………。

 また二人の中で沈黙が生まれる。

 流石にこれ以上沈黙はつらいと思い、ここは私から切り出すことにした。

「あのさ、ユア、ごめんなさい」

 私は座りながらも深く頭を下げた。

「えっ? 何で兄さんが謝るの! 私だよ! 謝らなくちゃいけないのは……。兄さんあの時、兄さんにひどいこと言ってしまってごめんなさい」

「えっ、違っ、謝るのは俺の…、私の方だよ! ごめん、なさい、俺のせいで父さんと母さんがっ……」

 なぜか目に涙が溜まる。私が涙を流しちゃいけないのに……。

 涙が溜まりぼやけた目でユアの方を見る。

 ユアは涙を流していた。

「私っ、あの時からずっと後悔してたの。兄さんだってつらかったはずなのにっ……、あの悪魔から私を守ってくれたはずなのにっ……、突き放すようなことしちゃって……。だからっ! 謝るのは私の方なの……ごめんなさい……」

 何故かに余計に涙が溢れてくる。別にユアに謝らせたかったわけじゃない、わけじゃないんだ……。でも、なんで、なんで、こんな救われた気持ちになるんだろう……。


        ×   ×   ×


 ようやく二人とも涙が止まった。

 その後から私たちは雑談などをして時間を過ごした。

そんなことしていると、日が沈んで辺りはすっかり夜になっていた。

「あっ、もうこんな時間だ。じゃあおれはそろそろ家に帰るよ」

 そう言い、私は座っていた席から立ち上がった。

「えっ? もうそんな時間?」

 ユアも窓の外がすっかり暗くなっているのを確認し、結構な時間が過ぎてることに驚いた。

「流石に二年ぐらいも話さないとこのぐらいの時間になるまで話しちゃうもんか」

 どれだけ私はユアに聞いてほしいことがあったのかと少し苦笑いをしてしまう。

「じゃあ、また来るよ」

 私はユアの部屋のドアのドアノブを握った。

 すると、ユアもついてきて、

「もう帰っちゃうんだ兄さん……ご飯でも食べてけばいいのに、それか泊まっていくとか……。」

「今日はこの後バイトだから、無理だよ」

 優しめの口調でユアをなだめた。

「バイト? 何それ?」

「ん? あっ、あ~。(この世界ではバイトって言葉は存在しないのか!)え~っと、ちょっとお金が足らなくて働いてんだ」

 私は反射的に『バイト』と言う言葉を濁した。

「えっ、だって、兄さんまだ十二歳でしょ? しかもオーフィンさんから毎月お金もらってるでしょ」

 ユアが心配そうな顔でこっちを見る。

 んっ、ん~……。魔道具製作の魔石や素材を買いすぎたせいでお金がかつかつだから働いてるとか意地でも言えない。そこで私はこう答えることにした。

「あ~え~と、将来のための貯金と社会勉強?」

「なに言ってんの兄さん。十二歳で社会勉強なんて、そんなの十五歳(成人)してからでいいでしょ」

 ユアは険しい視線で至極まっとうなことを私に言った。

「はい……」

「まあ、兄さんはあれでしょ、オーフィンさんに学費払ってるもらってるのが申し訳ないからそのお金を返すために働いてるんでしょ」

 ユアがあきれたように言った。

 おぉ! なんて都合のいい解釈をしてくれてるんでしょうか! そう解釈してくれるのであればそういうことにしておこう。

「でも――」

「?」

「でも兄さんが別のためにお金を貯めてたら、ね」

「貯めてたら?」

「ちょっと痛い目見るけどね」

 軽蔑するような眼差しのユアの右手に魔法で風が発生する。

 や、やばい……。

 私はこの時、お金を貯めてオーフィンさんに学費を返済することを心に決めたのであった。

 あれなんか忘れてることがあったけどなんだっけ? 何か大切なことを忘れているような気がしたが、すぐにバイトなのでそんなことまたすぐ忘れてしまった。


        ×   ×   ×


 妹と和解した次の日の放課後、魔導機械研究部にて……。私はナナミ先生ににらまれながら床に正座していた。

「……それで、私の頼みを忘れてきたと……」

「はい……」

 昨日、ナナミ先生とユウキ先生をくっつける作戦のためユアに協力を求めに行ったが、そのことをド忘れしたことについて叱責されている。

「確かに、結構な時間話してなかった妹と話せたとなると……、だ・が・な、お前はな・ん・の・た・め・に妹のところに行ったんだっていう話なんだがな」

 うわ~、むっちゃ一言一句強調して言ってくるじゃん……、しかもむっちゃ睨んでくるし~、目がもともと怖いから余計に怖いんだが~……。まぁ、私が悪いから仕方ないような気もするが……。

「じゃあ、今度こそ、や・る・こ・と、分かるよな?」

 先生の表情が鬼だ。こんな顔女性がやる顔じゃない、ギャグアニメぐらいの顔面だ。


        ×   ×   ×


 ということで、二日連続の訪問だ。

「それにしても、あそこの警備員のところで待たされる時間と言ったら、長いったらありゃしない」

 三十分だ、一日の四十八分の一消費されている。あ~あ~地球だったらスマホがあってこういう時間も暇じゃないのに……。

 そんなことを思いながら、またユアの部屋の前に来る。

 昨日の今日で妹の部屋に来るって周りから見たら結構なシスコンではないのか?

 だけど、『兄さんまた来てね』って言ってたし、〈言ってない〉。

 でもでも~、そういうのって社交辞令なものが多いし、気持ちが悪がられるかも。

 う~ん、う~ん、う~n——ぐへっ!

 熟考していると、頭に固い金属のようなものとぶつかった衝撃が……この衝撃は……。

「いった~」

 うずくまって頭を押さえていると、

「えっ! え~! 兄さん⁉」

 ものすごい驚いた表情でユアがこっちを見ている。

「やっ、やぁ、あは――」


「で、兄さんはその担任の先生と私の担任の先生をくっつけるために私のところに来たの?」

 ユアは私と目を合わせてくれず少し頬を膨らませている。

 やはり二日連続で来た私は結構引かれてるらしい。

「はい、左様でございます」

 肩身が狭い私は床できっちり正座している。

「で、なんで、兄さんはその先生の手伝いしてるの? なんか弱みでも握られてるの?」

 ユアは不思議そうにきょとんとしている。

「兄さんはそんなペコペコするほど弱くないぞ~」

「えっ、でも魔導機械コースの人たちなんて一番コースが下で一般家庭出の人が多いから他コースの生徒が歩くときなんて一礼してるよ魔導剣士コースは貴族の子たちが多いから、私が通る時でもペコペコされたし」

「えっ? 俺もペコペコしないといけないのかな?」

「う~ん、波風立てたくなかったらするのがいいんじゃない?」

「……。分かった」

「今度から私、兄さんのクラスとか前に来て兄さんをペコペコさせるね」

 ユアはいたずらっぽく笑った。

「勘弁してくれ」


「で、話戻るけど俺は弱みは握られてはないんだが、一度先生に貸しを作っちゃたからな」

「えっ? 兄さん先生にお金借りたの?」

「借りてないから! 先生に図書館の道教えてもらって、勉強する用の本を教えてもらっただけだから!」

 あれ? 先生におすすめの本って教えてもらったっけ? 図書館の司書さんに教えてもらったし、先生には図書館までの案内しかしてもらってなくない?

「そんなちっぽけなことで兄さんは先生を手伝ってるの?」

「い~や…、そんなことじゃ手伝わないよ」

「じゃあなんで?」

「うん? それはね、ほらこの腕輪」

 ユアに両腕についてる《魔封じの腕輪》を見せる。

「最初から気になってたけどこれ何? 兄さんの趣味?」

「違うわ、これはね《魔封じの腕輪》って言って魔力出すのを封じられている腕輪」

「えっ、てことは兄さん今魔力使えないの?」

「そうみたいなんだ。この腕輪に魔力流し込むと腕がボンッ!しちゃうらしい。しかも一年生の最後までに取れないとボンッ+退学なんだって」

「えっ! やばいよ兄さん! どうすんの?」

 ユアは慌てだし、私の両腕についてる《魔封じの腕輪》を力づくで取ろうとした。

 おっ、おい、やめろ? 兄さん今ボンッ!しても知らないぞ。

「まぁ、落ち着いて。そのための担任のナナミ先生だ」

 ユアの肩をつかみ少し私と距離を取らせた。

「と、言うと?」

「先生がユアの担任のユウキ先生とくっつくだろ」

「うん」

「そしたら、俺はナナミ先生に恩を着せることができるんだ」

「うっ? うん」

「恩を着せることでこの腕輪を外す方法を教えてもらうんだ。どうだ完璧だろ、ドヤッ」

「兄さんここ二年で変わったよね」

ユアが苦笑いのような微妙そうな顔でこっちを見る。

「なぜに?」

「なんか、考えがゲスくなった」

「………」

 ガーン、妹に言われるとすごいショックを受ける。まぁ、先生に恩を着せるのは半分は本当で半分は嘘かな、《魔封じの腕輪》もあと半分ぐらい研究すれば解除できるし。本当の理由は『恋してる女の子』を応援したかったからかな……。彼方だった時、未来の恋を手伝うことができなかった、だからその罪の意識とこの世界では後悔しないで生きるとアイラと誓ったから。


        ×   ×   ×


 ユアとあの後、小一時間と作戦会議をした後こんな感じになった。

① ユアが先生に話があると呼ぶ。

② ナナミ先生が廊下の角で待機。

③ 廊下の角でぶつかる。

④ 謝って、お詫びに昼食に誘う。ここで料理できるアピールをする。

⑤ 昼食の時に色々ユウキ先生の話を聞く。

⑥ 「良かったら、今度一緒に夕食でも……」と顎に指当てて上目遣いで。

⑦ 夕食を食べ告白。

 我ながら名案……。決まったぜ……。

 ここまでの完成度に我ながらにやけてしまう。

「兄さんご飯に誘うってのはいいと思うけど、きっかけの角でぶつかるってのは必要?」

「必要だよ!」

 私は語気を強め、バッと勢い良く立ち上がる。

「なぜかと言うとな、恋愛に関して何が一番必要なのはきっかけかだ! そしてそのきっかけは強ければ強いほどいい! そこで、普段は起こるはずのない出来事だ! その代表と言えば、角でぶつかるイベント! 角ドンは日本のアニメ、マンガで様々な作品で用いられるほど筆頭のイベントで大体このイベントが起こった二人は結ばれる傾向が高い。しかも、ここでパンツが見えるほどいいんだ! これで恥ずかしがって、スカートでパンツを隠せば、ぐへへ……おっほん、だからこのイベントはやらなくてはいけないのだ」

「うっ……うん、はは」

 ユアはに笑った表情で固まり、頬の筋肉がぴくぴくしている。

 うわ~、やばい、むっちゃユア引いてるじゃん。やっちゃった……、パンツとか男が女子の前で言ったら結構きもいよな……。多分兄妹じゃなかったら何回かビンタされて一生話してくれないと思う。まぁ、私はもともと女子だからセーフ。多分絶対。

「で、でもさ、兄さん。どちらにしろ告白するならストレートにすぐ告白すればいいんじゃない?」

 ユアが不思議そうな顔できょとんしている。

「確かにそれなら手っ取り早い。だけどな、人には好感度メーターなるものがあるはずなんだ。そのメーターを上昇させることによって告白成功率が上がる、だから、そのメーターを上げるために少し回り道をしなくちゃいけないんだ」

 私はユアに真剣な表情で諭した。

「うっ、うん、わかった」

 ようやくユアも分かってくれたらしい。

「よし、じゃあ明日先生に作戦を説明して、作戦決行だ! えいえいおー!」

「おー…」


        ×   ×   ×


翌日 魔導機械研究部部室にて

 

「先生これでいいですか?」

「分かった今から決行しよう」

「じゃあ先生はさっき指示した角で」

「了解だ」

 そう言って、部室を出てった先生を見送って。

「じゃあ頼む」

 廊下で待機していたユアに作戦決行を促す。

「分かった。……兄さんこの協力は高くつくよ」

「分かってる。——さぁ、任務開始だ」


 私は先生が角ドンをする予定の場所がはっきり見える中庭の室外の窓ガラス吹きで待機していると、

「兄さん、準備できた」

「了解」

 私はそわそわしながらこっちをちらちら見ている先生に、両腕で丸の形を作った。

 先生は両手でこぶしを握り、「うん」と頷いた。なぜかアドレナリンでも出ているのかふー、ふー、と少し鼻息が荒い。

 おっと、ユウキ先生が向こうの廊下から来た。

 私はユウキ先生が来たのを先生に合図するために右腕を上に上げ、両者がぶつかるタイミングを合わせるために腕をキープし、先生がまだか?まだか?とこちらをちらちら見るが私はまだと言う意味を込めて首を振る。

「(まだ?)」

 まだ

「(まだ?)」

まだまだ

「(まだ?)」

 今だ!

 私は腕を勢いよく振り下ろした。

 その合図を見て先生は走り始め、——そしてジャストタイミングでぶつかり、先生はプリントを散らばらせながら転び、ユウキ先生も尻もちをついた。

 よし!

 私は心の中でガッツポーズを決める。

「やったなユア!」

「うん!」

 私たちが喜びあってると、ユアが、

「あれ? ナナミ先生がお姫様抱っこされてるよ?」

「えっ?」

 なんで?


 私たちも静かに二人を追っていくと、そこは保健室だった。

「何で保健室?」

 素直な疑問が頭をよぎる。

「えっ? なに? エロいことでも始めるんですか?」

「エロいことって何、兄さん?」

 あっやば、ユアがいることを忘れていた。

 流石に10歳の少女に下ネタを教えるのはよくない。父さんと母さんに呪われる

「あっ、う~ん、うぇーいこと? 遊んでることを言うんだよ~?」

「ふ~ん、そうなんだ」

 すると、保健室から、ユウキ先生が出てきた。

「あっ、兄さん、隠れて!」

「無茶言うな!」

 とわちゃわちゃしていると、

「なにしているんだ君たち」

 ユウキ先生が私たちを見かけて聞いてきた。

「兄さんやばいよ、魔導剣士コースの生徒と魔導機械コースの生徒が二人でいるところ見られたら!」

「まじ?」

 ユアが慌てふためいている。珍しくとても焦っているユアを見て相当まずいのか自分自身も実感する。

「ここは兄さんに任せろ」

「えっ?」

 私はやり慣れてないウィンクをユアにした。

「あっ~、えっと~、ちょっとこの生徒さんに助けてもらってたところなんです」

 ユウキ先生が私を下から上へと全身を見た。

「で、どうして魔導機械コースの君が魔導剣士コースのこの子と二人でいるんだ」

「ちょっと虫が俺の周りに飛んでて……」

「そういうことか」

「そういうことなんです」

「じゃあ、俺がその虫とやらを叩いて(はたいて)やろう」

「いやもうどっかいk——」

 先生の腕が伸びて、私の頬に向けて、振り下ろされそうになる。——それを危機一髪後ろに下がって避けた。

 ………。この先生私に手を出そうとしてきた。やっぱりこの学校にコースで差別的なのもの、ひいては身分格差というものがしっかり存在しているのか。

「……先生、もう虫いないって言ったじゃないですか」

 私はにこにこしながら言う。

 ユウキ先生は少し驚いた顔をしたが、コロッと表情を変え、

「いや~、すまない。先生まだ虫がいると思ってな、もういなかったようだ」

 と、何事もなかったようにニコニコ笑う。

「兄さっ――」

「ユア君、さっき私を呼び出したが、何か用かな?」

「あっ、ああ~、えっと、今日の授業で分からないところがあって」

 肩がびくっとして、少しユアがおびえているように見える。

「じゃあここではなんだ、職員室で教えてやろう」

「あっ、はい」

 ユウキ先生はユアの肩に手を回し、去り際に、

「身分をわきまえな、劣等生」

 そう言ってユアと共に私の前からいなくなった。

「あっ、そうだ、先生」

 私はすっかり先生のことを忘れていたことに気付き保健室に入る。

「先生大丈夫ですか?」

 ベッドで布団に全身くるんだおちゃめな先生に聞く。

「ああ、一応大丈夫だ。やばいぞエオ、お姫様抱っこされちゃったっ」

 布団から顔をひょっこり出した先生嬉しそうに言う。

「……。そうですか、よかったですね」

「ん? どうしたエオ? なんか元気がないじゃないか?」

「えっ、いや。別に」

「そっ、そっか」

「で、お姫様抱っこされるまでの経緯を教えてくれますか?」

「あっああ、まあ、あそこの廊下の角でユウキ先生とぶつかるまでは大丈夫だったんだ。転んだ後にユウキ先生の顔を見てしまってな、照れて顔が赤くなってしまったため、保健室まで運ばれたんだ」

「他の生徒がいるところではいい先生を装うタイプの先生か……」

「んっ? どうしたエオ?」

「いやなんでもないです。これで先生が次にユウキ先生に会った時、「この前は申し訳ない、よかったら今度昼食でも奢らせてくれ」とでもい言えばいいんじゃないんですか?」

「あっ、ああ、そうだな。く~っ!」

 また布団にくるまり悶絶している先生を傍目に微笑んだ。

 私と先生は違う。身分も学校の地位も、だからあのユウキ先生も先生に対しては優しく、親切にしてくれるはずだ。むしろユウキ先生が普通なのだ。私にやさしくしてくれる先生がおかしいのだ。

「じゃあこれからも頑張っていきましょう!」

 私は笑いながら先生を応援した。


        ×   ×   ×


星聖歴 1221年 6月下旬


 授業の6時間目を終わらせ、部活のために部室棟に移動中だ。

 最近はすっかりじめじめとした雨続きの日々を送っていた。この季節と天気を見ると日本の梅雨を思い出す。

 私はこの季節はそんなに好きではなかった。頭痛で頭は痛くなるし、じめじめして汗かくし、それになぜか体調を崩すのもこの季節だ。強いていい点を挙げるというのならば、外体育が中体育になる頻度が上がることだろうか。——しかも、体験談だがこの季節は悪いことが起こりやすい。

 私は部室前に着き、ガラガラと部室の引き戸を開け、

「先生、今日って蛇口に水の魔法陣を込める実験ですよね? っていうかまたこの部屋汚したんですか? 入部以来ですね」

 と、言いながら入ると、そこには汚い部室の端っこで毛布をかぶった先生がいた。

「どっ、どうしたんですか?」

 私は慌てて先生のもとに駆け寄った。

「あっ、ああ、振られたんだよ………」

「えっ?」

 私はその言葉に衝撃を受けた。

「だって、先生この前までずっとユウキ先生と話して楽しそうにお昼食べてたじゃないですか?」

「そうだったんだ。そしてこの前勇気出して夕食を高めのレストランでどうかと誘って、一緒に食べるところまでいったんだ。だけど、いざ『好き』だと告げると急に態度を一変させてきてさ、『お前、ふざけんなよ、身分をわきまえろ』とか、『他の魔導剣士コースの生徒や先生に良い人に見せるためにさほどうまくないお前の弁当を食ってやってたのに勘違いしやがって』とか、『誰がお前みたいな没落貴族と付き合うか』とか、『お前と付き合うだけで我が家の恥』とか、ぼろくそ言われた。はは、やっぱり駄目だったか」

 先生は全然大丈夫だと強がってヘニャッとした笑みを見せた。

「先生……」

「まだ、私の家が没落してなかったらワンチャンあったかもな、あはは」

「………。先生の家って貴族じゃなかったんですか?」

「ああ、お前がこの部活に入るちょっと前に没落しちまったんだ」

「最近じゃないですか、どうしてか聞いても?」

「いやな、この前、父さんがぽっくり逝っちまってな。カリスマ力と財政に精通している父さんがいなくなると、跡取りもいない、やりくりするお金も徐々に減り続けて、没落してしまったてわけよ」

「そうですか……」

「だからお前が入部した直後の部室があんな汚くなってしまったんだ」

「じゃあ先生、片づけられないタイプの人じゃないんですね」

「当たり前だ。あんなんにさ流石にならない」

「あんなんには流石に? っていうことはやっぱり片付けられないタイプじゃないか!」

「いや、そんなことはない! 外ではしっかりしているんだ! 家ではちょっとあれだが……!」

 先生は豪快に毛布を取り、全力で否定してくる。先生の瞼はたくさん泣いたのだろう赤く腫れている。

「先生、そんなにユウキ先生のこと好きだったんですね」

私はニヤニヤ口角を上げながら先生の瞼あたりを見る

「くっ……! お前! ……。……好き、だった。だけどな、あんな嫌な奴だったらこっちから願い下げだっちゅうの! 私の時間と純情を返せ! あ~あ~、ま~た婚期逃したよ。おいエオ今度新しい男を紹介してくれ!」

 先生は瞼に残った涙をぬぐい、かっこよく笑った。

「無茶言わないでくださいよ、俺結構知り合い少ないんですよ~」

 私はこんな先生が嫌いじゃない。気だるそうに他人のことをどうでもいいとか思ってるかもしれないけど実は生徒思いで優しくで、恋愛興味ないかと思ったら興味あって、恥ずかしがり屋で、ピュアで、掃除ができなくて、いつも適当で、それでもかわいい一面があって、そして、前を向き続ける、そんな先生が大好きだ。

「先せ~い、瞼が腫れてなかったらかっこよく決められたのにね、かっわい~」

 あと、煽りがいがあるところも。


 あと、うちの可愛い先生をいじめてくれたお礼にユウキ先生にはちょっとやり返しをしてやろう……。


 そう決心した。

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