【第四話 新たなる力、守るための力】

 私は自身の魔術融合を手に入れた。だがしかし、

「この魔法の使い道って……?」

「こら、エオン君……。すぐ計算式解いて」

 メイは私の頭に紙の束を乗せ、フランクに言った。

 メイとはとっくに打ち解けたと思う。

「……あの、とっくに終わってます……」

「えっ? ほんとに?」

 メイは疑り深く私の答案用紙を手に取った。

 というのも、メイと一緒にこの森の最長老オーフィンに私が強くなれるために誰かいい師匠がいないかと尋ねたところ、オーフィンに『うーん、私はこの森の業務があるので………。あっ! なら、メイとカミールが適任ですよ』と言われた。私はメイはともかく、カミールは大丈夫かとオーフィンに耳打ちしたら、『剣の扱いと模擬戦だったらこの森で一番です。あと、魔法の扱いならメイが一番です。まあ、どちらも私がいなければの話です』と言われた。しっかり自分の自慢を話すところは私の父アディアスとそっくりだと思った。さすが育ての親。うーん、と唸りながら私は頭を悩ませたが、ユアたちを守るためだ背に腹は代えられないと思い『お願いします』と頭を下げた。

 そしてー今となるのだが、なぜか今は魔法の修業ではなく今私が借りている部屋でお勉強タイムだ。

 なぜかというと、魔法では次の魔法を瞬時に判断したり、何の魔法が相手に効果的か策を練るなど、何かと魔法は頭を使うからだそうだ。

それに、勉強しておいた方が今後役に立つかもしれないと言われたからだ。

 まぁ、私は生前、高一だけど高三の範囲まで勉強したし、勉強そこそこできる高校に通ってたし、できて当然やろ。微分積分超楽勝! 物理の公式だってすべて頭に入ってる!

 と、語尾が上がりながら天狗になっていた。

「えっ、えっ……全問正解……」

 自身の持つ答えと私の答案用紙を見比べ答えがあっているか確認したメイは驚愕をあらわにした。

 ほらね。簡単すぎる……。私の端はもっと伸びた。

「数学はできるみたいだし……じゃあ、国語でもやりましょうか!」

「………!」

 突如、私の天狗の鼻はぽっきりおられる。

 国語! 国語といったかこの人! 私……国語は無理っ‼‼ だって、作者は何考えていますかとかの問題でしょ‼ そんなの知ったこっちゃねーよ、って話‼‼ お腹すいたとか! 編集者が「締め切りに間に合わせろ!」とか電話してきついとかじゃないの⁉‼

 生前の時、高校のテストでは教科書を何度も読み返すのと、先生に授業後に質問で何とか乗り切ったな…、初見文はやばかったな……。

 つらい記憶を思い出す……。

「じゃあ、これやって」

「うっ……」

 案の定そういう問題が来た。

 しっ……仕方ない……もう一度小学生ぐらいの範囲から勉強し直しますよ………。


 私は机に向かいぶっ倒れた。

「ひーーー」

「数学は満点だけど、国語は………五十点…」

 メイは私の数学と国語の答案用紙を見比べながら不思議そうに言った。

 私これでも頑張ったんだよ? 初見文頑張ったんだよ‼

「まぁ、今日は勉強はここまで、少し休憩したら魔法の特訓にでもしましょう」

 私に活力がよみがえる。

「やったーー!」


 魔法はやっぱり楽しいな♪

 私は鼻歌しながら木の的に魔法の球体をぶつけながら思う。

「命中率いいですね。なんか特訓してたんですか?」

「いや、弓道……弓を少々やってたので……」

「弓ですか……弓をしているのならば命中率はいいですよね」

 メイは納得したように頷く。

「でも、メイさんもすごいですよね。命中率はともかく魔法陣の展開と発射速度が桁違いです。もしかしたら父さんや母さんより……」

「ありがとうございます。でもエオン君もなかなかのものですよ。まぁ、エオン君は人間族なので……。それに私が魔力循環のいい羊獣人族というのもあるのですが……」

「あぁ、そういうのもあるんですね……。あのふと思ったんですけど人間でも無詠唱で魔法って発動できるんですか? そしたら、発射速度は上がらなくても詠唱の時間を短縮できるので実戦で便利になるんですけど………」

「うーん、ないこともないんですけど………」

 メイは少し思慮した。

「あのもしよかったら、教えて下さい!」

「うーん、わかった。あまり期待しないで待ってて」

 メイは私をここにとどまらさせ、自身は席を外した。

 ——数分後、メイは戻ってきた。

 ……なんか若干埃(ほこり)がついたり、煤(すす)がついてたりするんだが……。

「おまたせ、エオン君。これがあるわよ!」

 メイは私に一冊の本を見せてきた。

「これは?」

 メイが差し出してきた本を手に取る。

「これはね、魔法式と魔法の構造の本」

「あの魔法式って?」

「ごめんなさい。私もわからないの……。そもそも、その本が古代語っぽくて……私じゃ読めないの……でも題名は世界共通語で魔法の構造って書いてあったから、もしかしたらって思って……」

「参考にしてみます」

「——それに、もしそれに書いてある魔法の構造が読み解けたら無詠唱もいけるかもしれないかと思って……。それにその本数字多いから、数学得意なエオン君ならもしかしたらと思って……」

「ありがとうございます。今夜読んでみます……」

 私はお礼を言い、興味深くその本を三百六十度から眺めた。

「えぇ」

 メイは嬉しそうに頷いた。


 ——本をもらった日の夜。

 私は自身の机でその本を開いた。そこには……、

「日本語?」

 異世界転生系ではありがちな展開だった。

 古代の魔導書を開いたら日本語だった……あるある~。

 やばい、もしかしたら私、無詠唱が使えるかも⁉

 私は本を読み進める。

「……魔法式?」

 そこにはxなどyなど、数学でよく使う文字や数字が魔法式という名目の元普通の計算式、中学や高校で習うようなものになっていた。

「魔素?」

 他のページに魔素と書かれたところがあった。

 読むに、魔素は地球で言う元素とかと同じものだった。

 そして、魔法は属性がない《無》の魔素と属性がある十二個の魔素の中から一つを選択して、魔力でつなげることによって魔法を生み出すと書いてあった。

 また、魔法式は頭の中でその魔法の式を正確に覚えていれば魔法を使えるとも書いてあった。

 他にも、各種魔素の記号、使う数字や文字、そして魔法式の構造さえわかっていれば魔導書には載っていない自分だけの魔法が使えるとも書いてあった。

もしかしたら、私いけるかもしれない! ほら私、数字とか数学好きだし、数学オリンピック日本で三位だし。

今日おられたはずの天狗の鼻は生え直した。

それから、私はこの本を読みふけた。


        ×   ×   ×


私がこの『ユグドラシル』にやってきてから一週間がたった。

私は魔法式や魔法の構造、魔素、魔力の使い方を完璧に覚えた。

すると、誰かが私の部屋をノックした。

私がドアを開けると、少し息が上がっていて、走ってきたように見えるメイが立っていた。そして――、

「ねぇ、エオ君! ユアちゃんの目が覚めたって!」

「それは本当ですか?」

 私はユアがいる部屋に向かった。

「………兄さん……」

 それはまだ意識がもうろうとしているようだが、そこには私の名前を呼ぶユアの姿があった。

「ユアっ!」

 私は涙が頬を伝い、ユアに抱き着いた。

「兄さん……。お父さんとお母さんは………?」

「うっ………」

 ユアのその一言に言葉が詰まり、私の表情は曇った。

そして、私は深呼吸をした。


「死んだよ……」


「! ………」

 ユアが覚醒し、私を突き放す。

 それはそうだ。父さんと母さんを同時に失ったのだ。心に来るダメージは相当だろう。

 それに、生き残った家族が淡々とそんなことを言ったら……。

「………ユア………」


「兄さんは出てって‼ ………早く‼‼」


 ユアは一瞬目をカッと見開き、にくいものを見るかのように私を睨み、すぐに下を向いて部屋に響く大きな声で言った。

予想はしていた。——そう、私があの悪魔について行ったらこんなことには…父さんと母さんは死なずに済んだ。言い換えれば、私があの時悪魔について行けば大切な家庭を守れたのだ。大切なものを壊した奴に向けるものはそれだろう。

「エオン君、ここは私が……。今日はカミールのところに行って……今日が初めての剣の修業でしょ?」

「……分かりました」

 ………妹に出てけなんて…言われただけなのになかなか堪えるな……。

 私は重い足取りで剣の修業をする池の近くに向かった。

 そこにはカミールが仁王立ちで立っていた。

 しかし、カミールは私を見つけると、頭を掻いて少し申し訳なさそうな顔をした。

「カミールさん今日はよろしく――」

「……唯一生き残った家族に冷たい態度を取られたら堪えるよな……」

「えっ……?」

 予想外の言葉で驚いた。カミールが心配をしてくれたのだ。

「見られてたんですね……」

「いやその…覗き見するつもりはなかったんだ……本当にすまない」

 オオカミ耳がしゅんと下に下がっていた。

「いえ、全然、でも心配してくれるなんて驚きました……。最初に出会った時なんか殴ってきたし、今もなよなよしてる気持ちわりぃーって言って殴られるかと思いましたよ」

「まぁ、その…最初会ったときも悪かったな…子供のくせに妙に大人ぶってイライラしちまって、子供は子供らしくって言いたかったんだけど先に拳が出てしまった。メイにも怒られたよ『年下に手を出すなんて、大人げない!』ってな、反省してる」

「………こっちも殴ったので痛み分けです」

 私はこのオオカミ獣人カミールを勘違いしていたらしい、自分が気に入らないものは拳で片す脳筋かと思っていた。だが今の様子を見て思った。なかなか、いい人らしい……。

「さあ、切り替えていくぞ!」

「えっ⁉ もうちょっと余韻を……」

「駄目だ! 嫌なことを忘れるには剣と剣を交わすことだ! さぁやるぞ、エオン‼ はぁーーー!」

 ………嘘でしょ……。冗談じゃないって‼

 私とカミールは池を眺めて並列に並んで座っていたが、カミールは飛び起き、私に向かい木刀を振るってきた。

 訂正です。脳筋なことは変わらないらしい……。

「いった‼‼」

 私の声が森に木霊した。


        ×   ×   ×


星聖歴 1220年 12月


 私が『ユグドラシル』に来てから二年以上が経った。

「——成長したなエオン!」

「えぇ、それはもう、二年も経ちましたからっ!」

 私とカミールは金属音を鳴らし、剣を交わす。

「ちっ、さすがに一筋縄ではいかねぇーか! ……っていうかその剣ずるくね⁉」

「いや、これが俺の剣ですから!」

 そういう私は自身の大剣を剣先から柄にかけて真ん中から二つに割り、片刃の二刀流剣とその大剣の中に内蔵されていたレイピアの三つに分離する。

 というのも、私の大剣は当初扱い始めた時に大剣から変形・分離が可能な剣だと知った。

そして、この剣は、大剣。分離して片刃二刀流の剣とレイピア。また、持ち手を伸ばすことで戦斧(せんぶ)と剣先五十センチの刃を戦斧と分離してその剣先は短剣にもなる。という三つの携帯に変形できることをカミールとの修行を通して分かった。

今は二刀流の片刃剣で応戦している。

「くっ……!」

 くそ剣が重い……! 手数が多くても師匠(カミール)には敵わない! さすがにこの人と毎回戦っているから手が全てばれている!

「はぁっ!」

 二刀で師匠の剣を押し返す。そして私は距離をとる。そして走り一気に距離を詰め、

「「はあぁぁぁあーーーー‼」」

 私と師匠の剣と声が重なった。

 ………しかし、あと一歩のところなのに私の剣は師匠には届かない……師匠の剣は私の胴に数センチで止まっているというのに………。


「——あぁー、くそっ! あともうちょっとだったのにー」

「まだ、甘かったな、エ、オ、ン」

 カミールはニヤニヤしながら言う。

 本当に悔しい……。

「まぁ、流石に魔法も使われたら負けてたかもな」

「そんな慰めはいらないですよ」

 私は少し不貞腐れている。すると、

「——おーい、エオン君、カミール姉さーん、お茶が入ったわよー。今日は最長老様も遊びに来るってー」

 メイが手を振りながらこちらにやってくる。

「じゃあ、行くか」

「行きますか。少し甘いものも食べたいので」

 よっこらしょっと腰を上げ、私は土を払ってメイのもとに向かった。


「美味しいな!」

 カミールは口に茶菓子を含み、もごもごさせながら言う。

「そうね~」

 メイは子供を見るような眼差しでカミールを見る。

「——あらっ? もう始まっているのね」

 部屋の扉が開き、オーフィンが顔を出した。

「「こんにちは、最長老様」」

 メイとカミールが同時に言った。

「あっ、こんにちは……最長老様」

 あっやべ、と思い、続けて私も挨拶をする。

 なんか、見た目が若いから最長老って気がしないんだよなー。なんかしっくりこない……。

「どうしたんですか、エオン君?」

 オーフィンが聞く。

「あっ、いや……。あの、最長老様って、見た目が若いので最長老って気がしないんですよね……」

 すると、カミールがキリッと私を睨み……ゴツンッ!

「いてっ」

 頭を殴られる。

「いやいいんですよ、チラッ、チラッ……」

 オーフィンがこちらを可愛らしく頬を抑えながら言う。

「えっ? どうしたんですか?」

「いやー、照れるますね……。お世辞でも私の孫からそんなことを言われると……」

 オーフィンは照れながら体をくねくねして言う。

 孫……あそっか、父さんと母さんの育ての親だからか……納得。

「もう、仕方ない! 今度から私のことは最長老ではなくオーフィンと呼んで! それでエオン君には私をお姉ちゃんと呼ぶ権利と『ユグドラシル』の大樹の試練受けさせちゃう!」

 オーフィンが勢いよく立ち上がり言った。

「「えっ!」

「……なんですか、それ?」

「毎年一回、この森で一番強い人が大樹が出すモンスターに挑戦できる試練のことだよ。そのモンスターに勝てば何かしらの特典があるよ~」

 と、オーフィンがその試練の説明をした。

「えっ、でもそんな一年に一回しかない大切な行事を………」

 メイは驚きと戸惑い交じりで聞く。

「いいのよー、どうせ毎年あなたかカミールしか勝たないじゃない! だって! エオン君が他の森の住人と戦ったってすぐこの森の人負けちゃうと思うしー……」

 なかなかひどいなこの人………信じてあげなよ森の人たちを絶対私より強い人いるって……。

「でも、最長老様………」

 私は申し訳ないため断ろうとしたが、

「お姉ちゃんでしょ?」

 オーフィンはにこにこしながら言う……だが、彼女は怒っているように見えた……。

「はい、お姉ちゃん………」

 私は委縮しながら言った。


 ――ということで、森の中心にある大樹に来た。

「じゃあ、やるわよー!」

 オーフィンはノリノリで言った。

「……はい。……あのこれってモンスターに負けたら死ぬとかって………」

「そういうのもあるけど、君なら大丈夫!」

 えっ……そういうのあるの? えっ、てかノリが軽いなこの人……。大丈夫かな……。

「…分かりました……」


 巨体なベヒーモスのようなモンスターに、魔法式を使った無詠唱魔法を絶え間なく打ち込んで砂煙を起こし、ベヒーモスの視界から私の姿を消す。

 そして、視界から消えた瞬間、大きく跳び上がり、自身の片刃二刀流の剣を合体し、大剣にして、ベヒーモスの脳天に大剣を刺す。

 すると、ベヒーモスは倒れ、その場から消滅した。

「…よかった、モンスター普通に倒せた……」

 私は額を拭う。

 なんか図体がでかいだけのモンスターだった。でも、自分よりあんなでかいモンスターが倒せるなんて流石に二年も修行をした甲斐があった

と、私は思う。

「やっぱやるわねー、エオ君」

「やったね、エオ君!」

「さすがだな、流石私の弟子だ!」

 オーフィン、メイ、カミールが口をそろえて私を褒めた。

「あっ、出てきた。エオン君その箱のダイヤルを回して」

 オーフィンがモンスターの後ろに突如現れた………ガチャポン?……えっ、なんで異世界にガシャポンがあるの?

 私は疑問に思う。

ていうかこのガシャ絶対妖怪ウ〇ッチに出てきたガシャ……。

「これって、ガシャポンですよね?」

 私はオーフィンに質問した。

「なにそれ? ………それはアーティファクトだけど……」

「………えっ……はい」

 私は強引に納得した。

「まあ、そのダイアルを回しなさんな」

「あっ……はい」

 私はダイアルを一回転させた。すると、一つのカプセルが出てきた。

「それを開けて」

「分かりました」

 少し力を加え、私はカプセルを開けた。

すると、ボフンッ!とカプセルから煙が出た。

 煙が消えるとその開けたカプセルは消え、手のひらに一個のコンタクトレンズ?が……。

「これってコンタクトレ――」

「これは、魔眼ね」

「えっ! これがですか⁉ そんなまたまたー」

 私は冗談めかしく言う。

「いや本当なんだけど……。まあ、目に入れたらわかるわよ。じゃあ入れてみ――」

「無理です」

 コンタクトいれたことない………無理、怖い。

「入れて――」

「無理です」

「男がそんなめそめそ言ってんじゃねえ!」

 カミールが私の手からコンタクトもとい魔眼ををひょいっと取り、片目にぶち込んだ。

「痛っ!」

「どう、見えてる?」

 私は涙が出て見れない。

 涙を拭くと……あれ? これって………。

「なんか、数字や記号などがごちゃごちゃして見えます」

 そうだ。これは魔法式で使う記号や数字や文字だ。

「あー、もしかしたら外れかも……?」

「外れ?」

「あれでしょ、数字と古代文字が見えてるでしょ」

「はい……」

「うん……それは『式と記号の魔眼』、通称『外れの魔眼』」

「えっ、なんでですか?」

 外れと聞いて驚く。

「魔眼に常に変な文字が写ってるかららしいわよ……」

「……じゃあ、当たりは?」

「相手の行動に二秒先が見えるとか、未来が見えるとか、ね」

 えっ、普通にそっちの方がよかったと思った。だが、

「へぇ~、まぁ、自分にとってはまだ使い道のある魔眼なので良かったです」

「……変わってるわね、まぁ本人が言うなら」

 オーフィンが不思議そうに言った。

「てか、あの、魔眼が当たるんですか⁉ この魔道具は‼」

 私はガシャポンもとい、アーティファクトを指さして聞いた。

「いや、本人が一番欲しいものをくれるらしいわよ。ほら、カミールはその魔剣を、メイは魔道具を」

 一番欲しいもの……。当たんなかったんだけど……。私ももっと便利なものが欲しかったなー。

 と、私は心の中で吐露した。

「…ねぇ、エオン君学校行く気ない?」

 突如オーフィンが提案してきた。

「なにっ⁉」

 学校だと⁉


私たちは部屋に戻りお茶会の続きをしていた。

「学校ですかー……」

さっきオーフィンが言ってたことを口からこぼした。

「そう、学校。エオン君なら学校でいい成績が取れると思うんだけどなー」

「でもどうして急に? そんなことを?」

 オーフィンの真意が分からなかったから聞いてみた。

「いや、私の友人がね。毎年『お前の森の住人でいい奴いないのか?』ってしつこいんだよー。ほら、もしよかったら、社会勉強にもなるし……」

「社会勉強?」

「そう、その学校がね、西の大陸の人間たちが多く住む国にあって――」

 いろいろな情報が一気に流し込まれる。

「えっ? 人間たちの国? それに、西の大陸って! ここからどんだけ離れてると思ってるんですか⁉ 第一ここ東の大陸ですよね⁉ それに!——」

「ほら、ここの森から転移ポータルでひとっ飛びで行けるし……まぁ、帰りは君のそのペンダントですぐ帰れるでしょ……?」

「転移ポータルか………確かに……」

「真面目な話……その学校、世界一本がある図書館があって、今でも寝たきりのエリナリアさんとカラナさんの治療法とかが書いてある本があったりするかもしれないし、人間の国は欲望に溢れているから悪魔とかが出やすいよ……」

 最初はあまり乗り気ではなかったが、確かに今でも寝たきりのエリナリアとカラナの治療法とかが書いてある本があるというのならば、そして、あの悪魔がいるのならば……行くのもいいかもしれない。

 私の気持ちは揺れ動いた。

「確かに……それもありますね。……でも、お金が……」

「うーん、受かったら学費は無料だよ」

「受験はあるんですね。はは。……うーん、でもなんで人間の国の学校の人から、このエルフや獣人などの…言っちゃ悪いですけど亜人を人間の学校に誘うんですか?」

 私は探りを入れる。

 人間族は亜人を差別するものが多い、特に西の大陸の人間は……。

「ああ、そのことね。その学校は人間の学校ってわけではなく、どの種族でも何かに秀でているものがあればいい学校なの」

「へぇ、グローバルな学校なんですね…」

 しかし、どうしたものかな……。エリナリアとカラナの治療法を探すためにその学校に行ったとしても、その二人を置きっぱなしにしていってしまうのはいかがなものか……。

 私は頭を悩ませる。

 もし、私が学校に行っている間、目が覚めたということがあったら非常に混乱するだろう……それは避けたい。

 私がどうしようか…というのが顔に出ていたのか、オーフィンが察して。

「大丈夫、大丈夫。 エリナリアさんとカラナさんの面倒は私が見とくから~。それに、目が覚めたらすぐに連絡するから」

「………うーん。……うーん。うーん……じゃあ行ってみようかな……」

 私は頭を悩ませた結果。一応その学校に行くことにした。

「あっ、そうだ。学校の名前って……?」

「ああ、学校の名前はね『ウィズダム魔導学校』——」


        ×   ×   ×


 暖かい陽気と、快晴の空。春ですね~。

 ということで、ウィズダム魔導学校の入学試験だ。

 私は『ユグドラシル』の森のみんなとお別れの挨拶をして、メイとカミールにエリナリアとカラナを任せ、森の《転移ポータル》を使いここに来た。

 ……しかし、転移ポータルに入るとき、森のみんなは「頑張れよー」とか、「頑張ってね!」と、「応援してる!」とか笑顔で応援してくれたのに、あのオオカミ獣人……師匠だけ……「負けてべそ掻くんじゃねーぞ」とケラケラ笑いながら言ってきた。

 絶対ここであんたより強くなって、今度戻った時、模擬戦でぼこぼこにしてやる!

 と、強く心に誓い歩いていると、

「!」

 私の前に西洋風の作りでいかにも海外…ヨーロッパあたりにありそうな、そして、相当なお金が掛かってそうな学校の校舎が見えた。しかし、やっぱ……、

「学校でか‼」

 校舎の迫力に声が出てしまった。また、

「受験者数多っ!」

 と、このウィズダム魔導学校の受験者が自分が考えていた数よりはるかに多いことを驚いていると、

「……ねえ、兄さんうるさい……」

 ユアが後ろから冷ややかな声で言われた。

「……ごめん」

 ――あの日、ユアが『ユグドラシル』で目覚めてから彼女は私に冷たく当たるようになった。

そして、私も距離をとるようにその日からユアとは全くと言っていいほど話さなくなってしまった。

 しかし、私がこの学校に行くと決意した時、ユアが部屋の扉を開けて『私も行く』と言ってきた。私は駄目だ、と言いたかったが二年も話していない妹にどう話せばいいのかわからず、断ろうにも断れなかった私は、メイとカミールが「いいじゃない、連れてってあげても。ちゃんと兄妹で話すチャンスだよ」と念を押して言われたため、一緒に連れてくることにした。

「……じゃあ入学試験頑張ってな。俺こっちだから」

「うん……」

 私とユアはそんな淡泊な会話をして、案内人に従って校舎に入った。

 そして、校舎を少し歩き私は案内された教室の席に座った。

 入学試験はテスト、面接。そして、剣と魔法を使ったトーナメント形式の模擬戦の三つで評価される。

模擬戦では真剣と真剣のぶつかり合い、魔法での攻撃がありとなっていて、どちらか片方がギブアップをするか、戦っている舞台から落ちるか、それか審判が戦闘続行不可と判断した場合にその試合の勝者が決まる。またこの模擬戦は勝てば勝つほど評価や点数がもらえるシステムで、トーナメントでいい結果を残すと確実に行きたいコースに入れたり、はたまた待遇が良くなるとも噂されている。

 そして、この学校には四つのコースがある。まず一つ目は超エリートコースの魔導剣士コース、そして次にエリートな魔法士コースと剣士コース。そして、この四つの中で一番下のコースが魔導機械コースだ………。

しかし……。

紙に羽ペンで文字を書く音、単語を呪文のようにぶつぶつ唱える声が、うざいぐらいに聞こえてくる。

 テストかぁ~。と私は少し弱気になっていた……。——でもまぁ、小学生ぐらいの範囲でしょ! いける!

と開き直った私は、

しかし……ユアは大丈夫だろうか?

ふと、我が妹のことが心配になった。

一応剣と魔法の練習は二年前からしてたってメイが言ってたし、師匠も腕がいいと言ってたし……。と思い出す。ユアは私を除いた『ユグドラシル』のみんなとは仲がいいのだ。

……いや、人の心配してる場合じゃない……ここで受かって、エリナリアとカラナの治療法を探さなくちゃいけないんだ……!

 ――そして、テスト開始の鐘がなり、みんな一斉に答案用紙をめくった。


 テスト、面接ともに上手くいった! 模擬戦もまぁ師匠(カミール)みたいな強さの奴はいないだろ!

 と思い、私は頭の中はサンバ状態、そして心は有頂天かつ天狗状態で三つ目の試験が行われる(おこなわれる)闘技場へと赴いた。


        ×   ×   ×


星聖歴 1221年 4月


 やはり、私は合格できた………だが、魔導機械コースに……。

「は~い、ショートホームルーム始めるぞ~」

 かったるそうにショートホームルームを始める女性の声…担任の声が聞こえた。

 なんで⁉ こんなんじゃなかったはずなのに……! 私は魔導剣士コースで他の女生徒からちやほやされるはずだったのに……!

 というのも、三つ目の試験……トーナメント形式の模擬戦の一回戦目に……妹、ユアと当たってしまった。

 どうしよう、本気で戦った方がいいのかな?……でも傷つけちゃうかも、でも手を抜いていたら………。

 と剣や魔法を構えないで塾考していた時に、容赦なくぼこぼこにされてしまった。

 あえなく見せ場がなかった私は一応筆記のテストの点数は上位に食い込んでいたため、合格はできた。

 はぁ~、第一希望の魔導剣士コースか第二希望の魔法士コースが良かった……。

 すると、頭に直径一センチの白い円柱………チョークが当たった。

「うへっ」

 私が変な声を上げ、チョークの当たったところを手でこすっていると、

「おい聞いているのか? 出席番号五番。エオン」

 チョークを投げたのは茶髪のポニーテールで長身の白衣の着た担任の女教師だった。そのせいで一気にクラスメイトの視線が私に集まった。

「あっ、はい……すいません」

「じゃあ、今配っているこれを両手首につけろー」

「なにこれ?」

 クラスメイトの一人が呟く。

 機械のような……いや魔道具……。

 それが、前の人から配られ、自身の両手首に装着した。

「なに? 知らないのか……。これはな、二年生進級までに外せないと両腕が吹っ飛ぶ魔道具だ!」

 担任が目を見開きながら言った。

 えっ?

「なに、一年間もこの魔道具を外すための時間があるんだ、十分だろ? ………あと、これは君たちが自分の剣や魔法を発動しようとし手も吹っ飛ぶからー」

 このサイコパス教師は不敵な笑みを浮かべる。

「では、この魔道具を取り外すために皆の衆、努力したまえー! この魔道具が取り外せるかは皆(みな)の知恵、腕、技術にかかってるー。では、ショートホームルーム終わりっ」

 担任がぴしゃりと教室のドアを閉め、廊下に出て言った瞬間——、

「えぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!‼‼‼」

 とんでもない数の大きな声がクラスから響いた。


 ——私の異世界生活、終わった……。




 私は机に突っ伏した。

【現在のこの世界の情報】

《エオンのペンダント》

 アイラ専用の魔道具。(ハンドスピナーみたいな形)青色と緑色と赤色の結晶が入っている。青色の結晶にエオかアイラが触れると転移できる穴が出現する。転移ポータルに行きたいところを考えながら入るとその場所にすぐ行ける。行ったことがないところは行けない。赤と緑の結晶にも他の効果があるのか……?

《世界共通語》

 この世界で一番使われている公用語、地球で言うところの英語と似ている。他にもエルフ語や、悪魔語なんてものも存在する。

《魔法の構造》

魔法は属性がない《無》の魔素と他の属性がある十二個の魔素の一つ、計二つを何個も何個も魔力で組み合わせ、つなげることによって魔法を生み出す。水素と酸素が組み合わって水ができるのと同じ。

《魔法式》

 魔法が構成されている式。(化学の構造式や中学や高校で出てくるxやyを使った計算式と似ている)

 魔法式は頭の中でその魔法の式を正確に覚えていれば魔法を使える。

 また、各種魔素の記号、使う数字文字、そして魔法式の構造さえわかっていれば魔導書には載っていない自分だけの魔法が使える。

(これは記憶力と演算力、計算力がないと使えない)

《魔素》

 魔法を使う時に必要なもの、魔法の元となるもの。元素と同じ考え。水が酸素と水素でできているのと同じ原理。

《エオンの魔剣(黒い大剣)》

 エオン黒い大剣(通常モード)は変形と分離をすることによって、分離して片刃二刀流の剣とレイピア。また、剣先五十センチの刃を分離し、持ち手を伸ばすことで戦斧(せんぶ)とそしてその剣先は短剣にもなる。三形態ある特殊な剣。

 詳しいことは調査中……。

《大樹の試練》

 『ユグドラシル』で毎年一回行われる試練。その日はお祭りも兼ねている。『大樹の試練』ではこの森の中で一番強いものが大樹から召喚される巨大なモンスターと戦い、勝ったらガシャポンのようなアーティファクトからなにかしらその挑戦者に必要になるであろう物がもらえる。(最悪、死ぬ場合もある)

《モンスター》

 理性がない本能のままに生きる異形の生き物。

《ベヒーモス》

 巨大な牛にライオンのようなたてがみとトリケラトプスのような逞しい角を付けたブラウンのモンスター。

《ガシャポンのようなアーティファクト》

 どこかの妖怪ウ〇ッチに出てきたような石像。回すとその人が必要になるであろう物がもらえる。

《魔眼》

 装着者の瞳に特殊な能力を付与するレンズ(コンタクト)

 エオンが手に入れた魔眼は『式と記号の魔眼』通称『外れの魔眼』。膨大な量の数字や記号が装着者の瞳に写されるため、装着者を混乱させる。エオンなどの魔法式を知っている者が使うと効果を発揮する。

《ウィズダム魔導学校》

 毎年凄腕の魔法士や剣士を輩出するエリート校。その学校の入学試験の倍率はなんと十倍!

 ここで優秀な成績を残したら国からお声がかかり貴族になることも………。

 種族は何でもOK他者より秀でているものがあるのならば。

 しかし、種族やコース、地位によっていじめられることも………。

《魔導書》

 この世界の全ての魔法が載ってる本。世界に本物は一冊しか存在しない。コピー版や劣化版はこの世界に無数に存在する。



【キャラクタープロフィール】


エオン(愛称 エオ) 


 年齢 12歳(仮) 誕生日 不明 仮誕生日 

 身体的特徴 身長が十歳の時から十数センチ伸びた。身長以外はそんな変わっていない。

 性格    また少し暗くなり、みんなの前では笑顔で元気を装っている。だが、すべての笑顔が嘘ではない。だが、心にできた穴はそう簡単にふさがらない。

補足    エオンは二年経ち、剣の腕も上達、魔力が二倍以上。そして、魔法の強さの

階級、魔法級も《木星級》魔法まで使えるようになった。魔眼や魔剣は完璧には扱いこなせていない。

また、毎日欠かさずユアやエリナリアやカラナの見舞いと看病を、ユアが目覚めた今でもエリナリアやカラナの見舞いに毎日行っている。入学してからは流石に行けていない。

前世は数学オリンピック三位、弓道の全国大会に出てた。

    

 ユア(エオンの妹) ハーフエルフ族


 年齢 10歳    誕生日 3月1日

 身体的特徴 身長は成長期のため十五センチぐらい伸びた。エオンと同じぐらいの身長になった。髪型はロングから後頭部の髪を三つ編みハーフアップが追加された。

 性格    優しさもあるが冷たさも併せ持つようになった。大人びた雰囲気になった。

 補足    父と母を亡くしてから、勉学も剣も魔法もユグドラシルの住人たちに教えてもらい、自主鍛錬もかかさない努力家になった。

兄の後ろに隠れた妹ではなくなった。

エオンには冷たくなり、話さなくなった。だが、ユグドラシルの住人とは仲良やっている。



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