第50話 閑話 モーヴ・ビィエスエス
僕の名前はモーヴ。
物心ついた頃から戦争孤児で教会に預けられていた。
鈍臭くてパッとしないけど一つだけ自慢できることがある。
それは…
「モーヴ!一緒に遊ぼう!」
幼馴染のセーソがとびきりの美少女で性格までいい女の子で、僕に気がある……はずな事だ。
彼女を守るために将来強くなって、お互いに愛を確かめあって家庭をもって…。
そのためには強力なスキルを洗礼式で授からなければ…
「ねぇ、怖い顔してどうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「へんなのー」
僕がこの笑顔を守るんだ!
そう思っていたのに…
「モーヴ・ビィエスエス。スキル【保存】」
ショックだった。
戦闘系でも補助でもないゴミスキル【保存】。
これはただ品質を保つと言うだけのお荷物スキル。
「セーソ・マタユル。スキル【感知】」
セーソは斥候に役立つ【感知】という有能スキルを得ていた。
敵の位置や罠の位置を知ることの出来る便利な補助スキルだ。
「モーヴ、落ち込まないで。一緒に頑張ろう!」
「うん、ありがとうセーソ!」
僕達は冒険者でパーティーを組んで、慎ましながらも幸せな生活だった。
だけど半年前のあの日全てが狂ってしまった。
「よぉ、俺はD級冒険者・剣士のムノー・ネトリッチだ。よろしく頼むぜぇ(にちゃり)」
「あーしはE級の魔道士アゲポヨ。ホントはパーティーなんか組みたくないけどギルマスが言うから組んだげる」
このムノーとの出会いが僕らの関係を大きく変えてしまった。
変化に気づいたのは3ヶ月後だった。
「あれー、セーソっちなんか綺麗になってなくない?」
「そうかな…ねぇモーヴはどう?」
「き、綺麗だよ」
本心だった。
最近妙に大人びて色気が出てきたセーソ。
更にどこからか化粧も覚えていつもドギマキさせられる。
でもなんでだろう…この違和感は…
セーソが綺麗になってきた頃からだろうか、リーダーのムノーの態度が厳しくなってきたのが…
「おい、まだ荷物の準備もできねぇのかよ!この無能が!!」
「ご、ごめんなさいリーダー」
「やめてよリーダー。大丈夫よ?モーヴはいつも頑張ってるもん」
「ありがとう、セーソ」
「……あほくさ」
そうだ!僕にはセーソがいる。
僕はもっと頑張れる。
そう思っていた。
でも、ムノーがメンバー入りして半年。
その日はセーソ15歳の誕生日であった。
僕の薄給でかったペンダントだけどセーソは喜んでくれるだろうか?
サプライズのためにこっそりセーソの宿の私室に行って驚かせるつもりだった。
でもそこで見て聞いたのは僕にとって最悪の地獄であった。
「やぁん♡リーダー激しいよぉ♡」
「……え゛」
ソレを見た僕は声を押し殺し唖然と見つめる。
「へへへ5ヶ月前まで生娘とは思えない乱れっぷりだなセーソ?」
「あん♡だってこんなこと覚えちゃったらもう止められないもん!ムノーがこんな風にしたくせにぃ♡」
「おいおい、幼馴染君はいいのか?へへへ」
「アイツといると私ね安心するの!だって私にすがる姿が子犬みたいで。でも男としては…ありえないもん!あんな奴の話しないでもっと集中しよ〜あん♡」
足音を押し殺し、ふらふらと宿を後にする。
その時の僕は笑っていたのか泣いていたのかわからない。
ただ、あの二人に復讐をしたい!
時間が経つに連れ憎悪が膨れ上がっていく!
「クソックソッ!許さない!アイツら僕を…僕を…おええええっ!」
道端に胃液を撒き散らすと、次第に乾いた笑いが腹の底から出てきた。
「誰でもいい!悪魔でもいい!僕に―――力を寄越せ―――」
“くくく、良いではないか。ここまでされて他人にすがる…気に入った”
「だ、誰だ?」
“貴様に大いなる力も権力もくれてやろう。精々楽しめ―――【スピリットシャッフル】”
「う、うあああああ!!」
謎の声がしたら、次第に意識を失ってしまった……。
――――――――――――
「ぶえっくしゅっ!!うぅさみぃ…さみい?あれ、俺の筋肉ってそんな貧弱だっけ?」
口の中が何故か胃酸の味がしてどうにも気分が悪い。
そして体が重い…。
近くの建物のガラスを除くと、なんとも地味な髪型の男が写っていた。
「誰だよ…俺?」
どうなってんだよコレ?
まぁゲームの世界だしこんな事もあるか。
しっかし腹が減ったな、飯がねぇかな。
「いた!モーヴ!どこに行ってたの、わざわざアーシ心配してやったのよ!」
「うっす(そっかモーヴっていうのかこいつ)」
「うっす?アンタそんなキャラだっけ?まぁいっか。とにかく宿に帰るわよ」
「うっす。宿で何してるんすか?」
「アンタ、大丈夫?頭打った?アタシら冒険者なんだから宿に泊まるでしょ!」
「冒険者!?マ!?」
「マ!…ほんと、大丈夫?」
「そっか、こりゃあラッキーだぜ」
父上に無理やり通わされた退屈な学園生活からおさらばできたどころか、冒険まで出来るなんて!
しかし、こいつの身体は貧弱だし鍛え直さないとな…ワクワクするぜぇ!
こうして俺の、モーヴとしての生活が始まった。
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