第27話 高橋の乱入
「このダンジョンの封鎖が決定しました」
ギルドの職員は、ダンジョンに入ろうとする冒険者を止めた。止められた冒険者は高橋であった。
高橋には、もはや後がなかった
薬を使っていることが警察にバレてしまったのだ。ただの高校生が、警察から逃げ切れるはずがない。高橋は、すぐに捕まるだろう。
高橋は薬物に走ったよくある不良少年として、報道されることであろう。人々に記憶に残ることもなく、そのくせに記録には残って高橋の人生を台無しにするのである。
高橋は、こんなふうに自分の人生が終わることを許せなかった。どうせ捕まって自分の人生がぐちゃぐちゃなるのならば、最後に大きな花火を打ち上げたかった。
どうすれば、無名の高橋が鮮明に人々の記憶に残るのか。
高橋は、それはダンジョンではないかと思った。
薬の力を使ったとしても、S級冒険者以外が単騎でボスに勝ったことはない。
もしも、それが達成されたら高橋は冒険者のなかでは記憶に残るであろう。
そうやって、高橋は伝説になる。
高橋は薬の副作用により、単純な思考しか出来なくなっていた。
ボスを単騎で倒すことなど無理な話だ。
だが、不幸にも高橋は、浅黄のボスとの戦いを見ている。小さな浅黄でも出来るのならば、自分も出来るはずだと考えてしまったのである。
しかし、ダンジョンは封鎖されるという。
すでにギルド職員はダンジョンの内部に入っており、内部で戦っている冒険者たちを外に連れ出している。新たにダンジョンに入るような冒険者いなかった。
「封鎖だって……。なんでだよ!!」
それに対して噛み付いたのは、目を血走らせた高橋である。ギルド職員に対して荒々しい態度で近づいた高橋は、その胸ぐらをつかんだ。
「し……しょうさいは、教えられていない。ダンジョンがより一層危険な場所になる可能性があると上から報告があっただけで」
より一層危険な場所になる。
ギルド職員の言葉に、高橋は舌なめずりをした。
ダンジョンが強力になるのは、自分の力を誇示したい高橋にとっては丁度良いことだった。
「おい、入るなって言っているだろう!」
高橋は、ダンジョンに向かっていく。それをギルド職員が止めようとするが、気が高ぶっている高橋は聞こうともしなかった。
薬を服用した高橋の心には、危険があるもないも関係ない。
戦いたい。
そして、戦いを通して世間に自分の強さを世間に知らしめたいだけなのだ。
高橋が思うのは、その一つだった。
「話を聞け!!」
ギルドの職員は、高橋の肩を掴んだ。高橋は、その職員をぎろりとに睨んだ。
「俺の邪魔をするな……」
高橋は、ギルド職員の手を捻り上げる。
ギルド職員は、痛みに悲鳴をあげた。
他の職員たちが悲鳴に気が付き、本来ならばダンジョンで使う剣を高橋に向けた。
「俺の邪魔をするなぁ!!」
高橋も自分の剣を抜いて、ギルド職員たちに切りかかった。技巧もなにもない力技だけの剣技であった。
けれども、その気迫にギルドの職員は一瞬ではあったが震えた。
ギルド職員は、モンスターとの戦いには備えてはいる。だからこそ、人間に剣を向けることは初めてだった。
自分が対面している相手を殺すかもしれないという恐怖。その当たり前の感覚が、ギルド職員の動きを鈍くさせる。
「何をうだうだと考えているんだよ」
ギルドの職員の前には、高橋がいた。素早い動きにギルド職員は瞠目するが、それと共に高橋の状態を観察する
異常な興奮状態や目の血走り方。
そして、高まっている運動能力。
ギルドの職員は、確信した。
冒険者の間で近頃流行っているドラック。
高橋は、それを間違いなく服用している。となれば、これは警察の案件である。モンスターを相手にしてきたギルドの仕事ではない。
かきーん、と甲高い音が響いた。
ギルド職員の剣が、弾かれたのである。
高橋は、にやりと笑った。
「誰も俺のことを止められないぜ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます