第3話 楽観的な客


 

「いえーい。俺にかかれば、こんなもんよ」


 俺の構えるカメラの向こう側で、コウモリに似たモンスターを倒した男がガッツポーズを取った。


 このコウモリは、どこの階層にもいるモンスター

 だ。素早いが攻撃力はさほどではなく、初心者がモンスター狩りの練習をするような相手である。


 けれども、素早い動きのモンスターを刈り取ったのは見事だった。しかし、女の子たちからは不満の声がもれる。


「さっきから弱そうなモンスターばかりじゃないの。もっとミノタウルスとか派手な奴を倒してよ」


 女の子たちはダンジョンにあまり詳しくはないらしい。想像通りで、俺は思わず脱力する。


 ミノタウルスなんて巨大なモンスターは第四階層にいるものだし、今日の装備ではとてもではないが潜ることはできない。


 たしかに、第四階層を冒険する動画もある。


 しかし、あれは強い冒険者だけではなくて準備も万全に出来ているのだ。


 今回の遊びできているような冒険者たちでは、とてもではないが挑戦はできない。第四階層まで行ってしまったら、確実に死者が出るだろう。


「ちょっと、第四階層は……」


 俺の言葉が届く前に、女子の甲高い声が響き渡る。なにかお喋りしていて、笑っていたのである。ダンジョンなのに、遊園地にきたような雰囲気だ。俺は、深くため息を付いた。


「ミノタウルスを倒せなかったら、全員で罰ゲームね」


 女の子が無茶なことを言いだした。コメントでは


『なに言っているのコイツ』

『その装備では、第四階層はキツイだろう』

『全滅フラグー』


 と言った意見が飛び交っている。

 

 コメントは、第四階層の危険性を必死に訴えてくれている。善意しかない視聴者には感謝するしかない。このコメントで考えを改めてくれればいいのだが。


『女の子がいるんだから、男を見せろよ』

『今どきは第四階層なんて普通だって』

『第三階層までって、見どころないよな。男なら第四階層だろ』


 先ほどの意見とは反対に、第四階層まで行くように煽るコメントも多かった。無責任なコメントは本当に止めて欲しい。そういうふうな無責任なコメントが、時には死に直結したりするのだ。


「じゃあ、第四階層までいっちゃうか」


 パーティのまとめ役の男は声を上げた。どうみてもコメントに感化されているようだった


 女の子はノリノリだった。彼女たちはダンジョンの恐ろしさが分かっていないからだ。一方で、男のなかには、明らかに不満を抱いた者たちもいた。


「今回は第三階層までって、話だから乗ったんだぞ。第四階層まで行くなら、俺は帰る」


 これ以上の参加は無理だと判断した男子が一人でれば、「俺も」「俺も」と三名もの脱落者が出た。俺も断ろうと思ったが、まとめ役の男「給料分は仕事をしろ」と怒鳴り散らす。


 パーティのまとめ役であった男の怒りと焦りに、女の子たちも不安を感じ始めたようだ。何人か疑心暗鬼になっている様子である。それでも辞退をするようなことはなかったが。


 男性陣が次々と離脱している事実に、まとめ役の男は全く納得していない。怒りちらしており、このままでは単騎でも第四階層に行ってしまいそうである。


 なお、ダンジョンで人が死んだら、すぐに運び出さないと死体は消えてしまう。死体も残らない死など、俺は御免である。それに、どうみたって彼には、第四階層を生き抜く技量はなかった。


「なんだよ。第四階層って言ってもモンスターがちょっと強くなるだけだろ。ビビりやがって」


 これは頃合い見計らって、俺も第四階層は無理だともう一度伝えなければならないだろう。いくら料金を値切られたとは言えども、客が全滅というのは目覚めが悪い。


 幸いにも、ここは第二階層だ。


 第四階層までは遠くて、説得できる時間は山ほどあった。ゆっくりと客を説得して外に出ればいい、と俺も少し油断していたのである。


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