Ungeheuerer Ungeziefer

ポンコツ二世

俺にはわからない

 朝が来た。青空に太陽という名の独裁者が浮かんでいる。朝の定義ってそれであっているよね?青空は太陽の支配下にはいる。そこには星はない。だからこそ太陽は好きなだけ暑さを振りまくことができる。そして、人々からは恐れられ嫌われる。彼はそう思いながら、ベッドの上に仰向けで寝転んでいる。天井を見つめながら、昨日何が起こったのかを思い出す。ああ、そうだ。昨日、先生と喧嘩したんだ。喧嘩したというよりも、俺が一方的に敵に怒られただけだったけど。


 原因は分かっている。俺は授業を受けるような態度じゃなかった。別に騒いでいたとかそういうことじゃない。ずっと、静かだった。だけど、一番後ろの席って先生からはとても見えやすいんだって。それが俺の欠点だった。俺はばれないだろうと、小説を書いていた。SF小説だ。とにかく、書きたい衝動が洪水のようにあふれ出したんだ。お分かりのように、それはばれて俺は職員室に連行された。まだ救いようのある話があるとしたら、それは宇屋には連絡は言っていないということだ。だけど、いずれは来るんだろうな。面談かそこらで。


 俺は教師というものが嫌いだ。だって、教師にはろくなやつがいない。まるで、どこかの欠陥品みたいなのが教師になっていく。まともな人間は教師という呪わしき存在にはならない。そう思うとまたイライラしてきた。でも、それは頭の中であの先生の顔を思いっきり殴るにとどめた。俺には実行しようとする覚悟なんてそもそもないんだよ。


 とにかくベッドから起きよう。じゃないと、何も始まらないからな。ったく、起きやがるのも苦痛極まりない。ベッドから起き上がり、視線は天井から壁に移り変わった。目の前には海辺で笑顔で茶髪の水色の水着をきたグラビアアイドルのポスターが貼られていた。親に黙ったまま、欲望のままに買ったポスター。高校生なんだからしょうがないだろう。だけど、もう何も興奮しなくなった。もう見慣れたし、そのグラビアアイドルは俺の部屋の一部となってしまったかのようだ。床には紺色の制服が脱ぎ捨てられていた。昨日の自分がいら立っていた証拠だ。


 俺は飯を食おうと、下に行った。階段のところからはもう朝食のにおいが漂っている。母はいつも、早起きで飯を作るという朝の儀式をする。この匂いはシチューだ。そのあとにかすかに聞こえるのはパソコンを打つ音だ。これは父が作り上げている音だ。父は小説家だ。歴史小説を書いている。ノーベル賞有力候補ほどではないけど、売れている小説家の類には入る。


 俺が階段を下り終えて、リビングに入ると、母が微笑みながら「おはよう」といった。俺も挨拶をする。「今日も学校は六時間まで?」「うん。でも、六時間までいるのかはわからない」と俺は答える。「別に無理はしなくていいからできるだけは通いなさいよ」と母は答えた。これはもう何千回も繰り返された会話だ。俺と母はもう反射的にこたえられるようになった。


 俺は父と向かい側に座るようにテーブルに座った。父は、たぶんアイディアがあふれ出しているんだろうな。俺が目の前に座っても挨拶一つしない。ずっと、パソコンをカタカタやっている。俺は何とも思わないけど、こうして挨拶一つされないといい気分にはなれない。だけど、こっちから挨拶する気にはなれないんだ。分かるかい?この気持ちが。


 シチューはもう俺の前に置かれている。俺はそれをおいしいとは感じずにただ食欲に従うがままに口に放り込んだ。スプーンの手は止まらない。喉には甘辛い固形物が入った液体が流れ込む。ちょうどよい暖かさが体の中に広がる。いつだって母は料理がうまい。


 父は相変わらずパソコンと向き合っている。今父が書いている歴史小説は真珠湾攻撃に出撃することに決めたとある一人の戦闘機乗りの話だ。あの戦いは日本軍がアメリカ軍に大きな一撃を加えた瞬間だった。俺は歴史のことが好きで、そういう専門書みたいなものをたくさん読んで、写真もネットや本に掲載されているので見た。燃え上がる戦艦、鳥の群れのように集団の規則に従う戦闘機、負傷したアメリカ兵や大本営発表の様子…。ざっとこんな感じのものが俺の脳裏では刻み込まれている。


 だからこそ、歴史についてはクラスではいい順位に入るが三位以内に入ったことはない。本当に勉強ができる人たちの脳内がどうなっているか俺に未だにわからない。言っていることはそこら辺の学校の奴らと変わらないのに黒板を前にすると豹変するんだよな。


 俺はシチューを食べを得ると、食器を水につけて、あとは母に任せることにした。「はあ」俺はため息をついた。生まれてこの方16年、これ以上に憂鬱な時間を体験したことを俺はなかった。今から学校に行くんだ。だけど、俺は学校にはなじめていない。今年入学したけど、クラスの雰囲気からもう無理だと思った。中学ではくそみたいな学校生活だったから高校になったら青春を満喫してやると思ったが、現実はそううまくいくことはない。いや、本当の話。


 だって、どう振舞えばいいのわからないんだぞ。相手と向き合ったときどんな態度をすればいいんだ?政界などないのは知っているけどどうしても正解な振舞い方をしたくなっちまうんだよ。正解なんてないのに。学校にいるとどうしても自分はこの学校で何をしているのかがわからなくなる。勉強しに来てるのは知っているけど、俺は勉強はあまり得意なほうじゃない。数字の話なんてさっぱりだ。俺は先生が好きじゃない。むしろ嫌いだ。異常者は先生となって、女子生徒をどうやって落とそうか考えるんだ。これは思い込みじゃなくて、本当の話。君は同感してくれるかな?


 俺はベランダに干してある白シャツを取り出し、自分の部屋に戻ってブレザーとズボンをはいて最後にはネクタイをまいた。この制服は呪われている。この制服を着ることにより俺はあの悪夢へと突き落とされるんだ。机に向かいながら壁に体を持たれかけて、本を読む毎日。先生は始めは気にして話しかけてくれたけど、先生には相談する気にはなれない。何度も言うことになるけど、俺は先生という生き物が嫌いだからだ。


 「死がすべてを解決する。人間がいなければ、問題など存在しなのだ」俺はそうつぶやいた。この言葉を吐くとなんだか気持ちが楽になる。ソ連の独裁者で、一千万人以上を粛清しさらにドイツの侵攻をはねのけたスターリンの言葉だ。ネットでは「粛清おじさん」とか言ってネタにされているけど、俺は尊敬している。日本の総理大臣もそういう人物に任せたい。無償で死を提供してくれる強権的な人物のほうが支持しやすい。人生に終止符を打てる。そして、その死はみんなに迷惑をかけたような死じゃなくて望まれたことだからだ。俺が自殺をしない理由にはもし自殺すればだれかに迷惑がかかるのではないかと考えちまうからだ。もう死ぬんだからそんなことを問題じゃないんだけどさ、どうしても気になっちまう。本当の話。


 俺は完ぺきに「地獄の戦闘服」を着て、家を出た。もちろん「行って来ます」とは言った。母は「いってらっしゃい」といった。そのほほえみは自分の母ながらきれいだ。だって、母は32歳なんだぜ。16歳の時に俺を生んだんだ。でも、父は知らない。父は俺が生まれたと知った時に逃げたんだ。そして、俺が5歳の時に歴史小説家である父と結婚した。何はともあれこれで母は何とかな人生の山場を切り抜けたということだ。いや、これはガチの話。


 俺は玄関に出た。さあ、ここからだ。俺はこの時になるとどうにかしてさぼる言い訳を考えるんだ。無意味だと分かっているのに。俺は空を見上げながら、道を出た。目の前の美容院はまだ開いていないが、中では美容師たちが何かを話し合っているのが見える。きっと、今日の目標とかそういうのを話しているんだろう。子供だろうが大人になろうが、朝の会から逃げ出すことは不可能だ。はあ、そう思うと生きることに対する感謝の念がなくなってくる。君はどうかな?まあ、どうでもいいか。


 そう思いながら歩いていたら、はるか前に同じ制服の集団がいることに気づいた。俺は一瞬、びっくりした。文字通り心臓が飛びぬけそうだった。もう少しでぶつかりそうだったから。それぐらい物思いにふけっていたということだ。


 俺は立ち止まり、その集団と距離を取ろうとした。集団には男子もいるし女子もいる。どちらの性別も俺は嫌いだ。救いがあるとしたら、その集団の誰一人として俺には気づかなかったということだ。俺は影が薄いどころか影すらもないからな。もし、君が教室に入ったとしても俺のことを見つけられっることは不可能だろう。確かにいるといえばいる。でお同時に存在もしていない。そういう存在だ。


 俺は十分距離を取ったが、それで思いずれは学校に行けば、彼らには会うことになる。なんやかんやあって、毎日この苦しみは乗り越えているが今日はどうしても体が拒否反応を起こす。脳が俺に「今日はもうやめろ。明日があるじゃないか。明日がだめなら明後日だ。その日も無理なら以週間後、二週間後もあるじゃないか。」


 俺はその声に従った。今日ばかしは誘惑に負けたんだ。でも、いつもはこんなんじゃないんだぜ。今回はたまたまだ。俺は集団とは反対方向に歩き出した。つまり学校とは反対側のことだ。今日は学校には行かない。親に怒られようが、先生に指導という名の拷問にふされてもいかない。何なら退学にしてくれてもいい。「Catcher ㏌ the Rye」のホールデン・コールフィールドみたいにさ。


 最初こそはさぼったことに罪悪感や不安に心を支配されていたけどその独裁体制はすぐに倒された。もうどうなってもいいという自暴自棄と自分は学校にいる奴は違うという優越感により。俺の思考はひねくれているんだ。だから友達はできないけど、どうしても性格を直すことはできないんだよな。マジの話さ。何でなのかは俺にもわからない。


 俺は反対の道を続けた。そのためには自分の家をもう一度横切らないといけなかったけど、何も罪悪感は感じなかった。感じたといえば、玄関を出た母とばったり会わないかという不安だったがそれは杞憂だった。家の前には誰もいない。きっと、母はソファーに座りながらユーチューブを見ているか、父の小説をちょっとばかしのぞき込んでいるのだろう。あの二人は割と仲がいいからな。それとも…。いや、このような想像はやめよう。なにはともあれ親だからな。


 俺は家を通り過ぎながら、反対の道を歩き続けた。道の両側には様々な店が開く準備をしている。誰も制服を着ている俺のことを気にかけない。そんなことを気にしたって何ともならないというのは店の人間も知っていることだ。


 俺は空をもう一度見上げる。空には数匹の鳥が戦闘機に編隊のように飛んでいる。あの鳥は俺のこの悲惨な人生を知っているだろうか?それとも地上を隙間なくひしめき歩く猿の進化系の悲惨な生態系を知って言うだろうか?空を飛んでいるお前たちのはわからないいだろうな。いいさ。俺も輪廻転生があるのなら取りに生まれ変わってやる。空気読めよ。神様。もう二度とに人間なんて御免だね。俺は何の悩みもなく虫や魚といった獲物を狩って、気にとどまりながら気が合いそうな雌鳥と会うんだ。


 なんやかんやって、奇跡的に同級生とは会わなかった。大人たちからも、なんでこの道を歩いているの?学校は反対方向じゃなかったっけ?とも言われなかった。素晴らしい。細かい点ではあっていたけど、相手はあえて何にも言わなかっただけなのかもしれないけど、きょう一日はあいつらとはかかわらなくていいと思えば今日は最高の日だ。俺は今日一日をどうして過ごそうか考えた。コンビニでも行こうか、それとも総合施設に行って、何かしらの買い物をするか、いや、あえての図書館に行って静かな日々を過ごすか?いずれせよ何で君はここにいるのとかいう悪魔の質問はないはずだ。だって、みんな俺なんかに興味はないはずだからさ。


 俺は歩いた。軽くステップを踏んだように歩いていたかもしれないけど、よくわからない。そうやって、近所の商店街を通り抜けた。


 すると、俺は本能か何かの力で立ち止まった。何で立ち止まったかはわからない。でも、そこはどこか違う気がした。いや、もう近所じゃないというのは分かっているけど、それでも何かが違っていたんだ。言葉で表すことはできない。だけど、確実に違う世界。自分が知らない世界。


             俺にはわからない。


 


 


 

 

 


 


 


 

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