第23話 始まった試験と多すぎるモンスター
試験開始の合図と共に私達Aグループはダンジョンに突入した。
するとダンジョンに入ってすぐにモンスターと遭遇した。しかも一体や二体とかじゃなくてもっと沢山の群れだ。
やっぱり最初のグループだからモンスターの数が多い……
色々なモンスターがいるけどその中にちらほらとアントの姿も見える。
手近なアントは私よりも早く入った受験者がもう戦い始めちゃってる。私みたいに一歩出遅れた人は少し離れたアントを狙ったり、それすら無視してさらに奥に向かって走っている人もいる。
奥に走って行った人たちは他の邪魔が入らない場所でアントを狙おうと考えてるんだろうな。
私はどうするか……いや! 悩んでるより一体でも多くアントを倒そう!
まずはまだ誰も手を付けてない――アイツからっ!
私はモンスターの群れの中でもけっこう外れの方にいるアントに目を付けて、身体強化を発動してから一気に近づく。
「もらうよっ!」
「ッ!?」
あっちが私の存在に気付いたのはもう聖剣を振り下ろした後だった。
さすがにそこから避けることは出来なかったみたいで、聖剣の腹と地面にサンドイッチされたアントの頭が潰れる。
うわっ、ちょっと倒し方間違えたかもっ!?
斬る攻撃は効き辛いかもと思って打撃で攻撃してみたけど思ったよりあっさり潰れたし倒した後がグロすぎるよぉ……
「ま、まあ一先ず一匹っと。次は斬る方向で試してみよう――わぁ!?」
突然、頭を潰したはずのアントの身体が暴れ出した。
それに驚いて慌てて距離を取る。
「……そうだった。虫系のモンスターは生命力が強いから頭を潰しても動く場合があるって書いてあったじゃん!? もぅ~ダンジョンに入る前までは頭にあったのに何で土壇場で忘れてるんだよ。これじゃバカみたいじゃんっ」
ただそれも10秒ほどで落ち着いて、完全に倒した証拠としてアントの死体が消えてドロップアイテムだけが残った。
「次からは気を付けよう、うんそうしよう。よし反省したら次を探さなきゃっ。時間は有限なんだから!」
アントの落としたドロップアイテムを回収して次のアントを探す。
でも……近くにいるのは他のモンスターばっかりで肝心のアントの姿が見えない。
他の受験者の人達が狩り尽くしちゃったのかなあ。
「てことはもっと奥の方にいかないとか。ていうか関係無いモンスターは近寄って来ないでよぉ!? 君達には用が無いんだってぇ!!」
少し立ち止まっているとすぐに他のモンスターが集まって来る。
他のモンスターを倒したところで合否には関係無いし、むしろ次から入って来る別グループの受験者さんの迷惑になるかもしれないしっ。
「逃げるが勝ちっ! 目指すはアントっ! という訳でおさらばっ!!」
聖剣の身体強化をMAXにしてモンスターの群れを抜け出す。
道すがら襲い掛かって来たモンスターを何体か聖剣でぶっ叩いて弾き飛ばしたけど、多分死んで無いはず……数体ぐらいなら大丈夫だよね?
それにしてもモンスターの数が多い。こんなの普通に探索するだけでも大変だよ……やっぱりランクアップ試験だけあって一筋縄じゃいかないようになってるのかなぁ?
でも入り口前の広場が一際モンスターの密度が濃かったみたいで、奥に進んでいくとその数もかなり落ち着いていった。
後ろのモンスターが追いかけてこないか心配だったけど追ってくる気配は無さそう。
そういえば広場を抜ける時に入り口から別グループが入って来るのが見えたからそっちに集中してるのかな。何にしても他のモンスターに用が無い私には好都合だ。
道中でアントを倒してドロップアイテムを回収しながら進んでいくけどあんまり数がいない。
さすがにもう品切れってことはないと思うんだけど――と思い始めた時だった。
「――ッ」
「……あっちかな?」
アントがいる方に向かって奥へ進んでいくと、離れた所からキンキンという甲高い戦闘音が聞こえてくるようになった。
誰かに抜かされた覚えは無いからこの先にいるのは私と同じAグループの人たちだけのはず。てことはこの戦闘音はAグループの人とアントが戦っている音に違いないっ!
音の聞こえる方に進んでいくと……見えてきたのは私と同じAグループの受験者たちが凄い数のアントの群れと戦っている姿だった。
「ボーナスステージッ!?」
見渡す限りアントの姿しか見えなくてまるでアントの巣にでも迷い込んだような感じ。というかほんとにアントの巣なんじゃないの、ここ!?
ていうかさすがにあれだけ虫系モンスターが群れると、見ててその、気持ち悪いというか……い、いやこんなことで尻込みしてられないっ!
「私もっ!!」
覚悟を決めてアントの群れに突撃する。
「そいっ!!」
少し離れた場所から飛ぶ斬撃を飛ばしてその延長線上にいたアントを二、三体まとめて倒す。
「おいっ! 危ないだろっっ!!」
「す、すみませんっ!! 気を付けます!!」
飛ばした斬撃がアントと戦っていた他の受験者の近くを通り過ぎてしまった。
この技はこういう乱戦だと不向きだね。威力を考えないともし直線上に他の受験者がいたら今度こそ当たっちゃうかもしれない。
効率は少し下がるけど接近戦で一体一体倒していこう。
安全にね!
「おりゃあ!!」
「「「ッ!!」」」
群れの中に飛び込んでとにかく手近にいたアントを斬りまくる。
今回の目標は30匹のアントを倒してそのドロップアイテムを回収すること。
ここにいるアントを全て倒しきればAグループ全員分でも何とか足りるかな? いやさすがに足りないか?
でも軽く見た感じ100匹以上はいるっぽいしなぁ。
……ていうかドロップを拾ってる暇が無いぐらいアントが湧いてくるんだけどっ!?
「さすがに湧き過ぎじゃない!?」
「お嬢ちゃんもそう思うか?」
「えっ!?」
独り言のつもりで叫んだんだけど、思わぬところから返事が返って来て思わず剣を向けてしまった。
「うわっと悪い悪いっ!? いきなり話しかけて驚いたよな。いや俺もちょっと気になったもんでな」
「あ、私こそすみませんっ! えっとどうも初めまして。ランクアップ試験っていつもこんな感じじゃないんですか?」
「ああ。まあ気のせいだって言われれば気のせいかもしれないんだけどよ。だがちょっとばかし多い気がしてな……」
「ということはおじさんはこれが初めてじゃないんですか、ランクアップ試験受けるの」
「ああ、今回で三回目だな。だからはっきりと言える訳じゃないんだよなぁ……いや試験中に話しかけて悪かったな。まあそんな感じだから、お互い気を付けて頑張ろうぜ!」
「あ、はい。おじさんも頑張ってください!」
手をひらひらさせながらアント討伐に戻っていく受験者のおじさん。
「……それにしても凄い恰好の人だったなぁ」
腰蓑一つでダンジョンに入ってる人とか初めてみたよ……
あいや腰蓑一つって言うと語弊があるけど、上半身はほぼ裸だし下半身は裾が長めの腰蓑とインナーにブーツだけ。しかも武器が手斧って……いっちゃ悪いけどほぼ蛮族みたいな恰好だよね。
あれで動物の骨みたいな被り物か兜でもしてたら完全にそれだったよ。もしくは顔面ペイントとか?
まぁでも気のいいおじさんだった。私が剣を向けちゃっても笑って流してくれたし。
いわゆるダンジョンエンジョイ勢の人なのかな……?
――というか普通に手斧一撃でアントの頭を粉砕してるんだけど、あのおじさんでも一回じゃ合格しなかったの!?
ランクアップ試験って私が思ってるよりも難しいのかもしれない。
それにしても今少し喋っている間にも減らしたはずのアントがまた補充されてる。
「これは……とっととドロップ回収して戻らないとキリが無いな。私も早く30匹倒して戻ろうっと」
アントを倒してその隙間を縫いながらドロップアイテムを集め続けるとようやく30体分が集まった。
「――よし、目標達成っ! ちょっと人数も減ってる。さすがに一番とはいかなかったかぁ。まあでも試験は順番じゃないし大丈夫だよね」
あ、さっきの腰蓑のおじさんはまだ戦ってるみたい。
こっそり頑張れ~と心の中で応援しておく。
そうして戻ろうとした時だった。
「ぐわぁーーーー!!!」
「「「っ!?」」」
誰かのつんざくような悲鳴が聞こえた。
この場にいた全員がその声に反応して悲鳴が聞こえた方を振り向く。
「や、止めろっ!! 離せぇぇぇ!!?」
受験者の一人がアント、ううん普通のアントよりももっと大きいアントに捕まっているのが見えた。大型犬どころか軽自動車ぐらいのサイズがありそう。
受験者が前足で地面に縫い留められていてその上から大きなアントが顎をガチガチと鳴らしている。
「た、助けてくれぇぇ!!!?」
「っ!」
自力での脱出はたぶん無理そう。このままじゃあの人が危ない!
そう思って急いで助けに行こうとするけどその途中にいるアント達が邪魔をする。
「もう邪魔っ!! どいてっ!!!」
一体一体の強さはさほどじゃないけどこれだけ数が纏まってると身動きがとり難くくてしょうがないっ!!
このままじゃあの人がっ!!
「おらぁぁぁ!!!」
「ッッ!!?」
だけど私が辿り着くよりも早く駆け付けた人がいた。
あの腰蓑のおじさんがいつの間に近づいたのか大きいアントの近くにいて、男の人に圧し掛かってる巨体を手斧一閃でぶっ飛ばしたのだ。
「おいっ!立てるか!!?」
「あ、ああ。助かった、ありがとう……」
「そんなことより早く撤退するぞ。小物が次々湧いて来る上に、アーミーアントまで出てこられたんじゃさすがにヤバい。まったく、面倒なことになりやがった……!」
正直、助けられた男の人が唖然としているのが大きいアントに襲われたことが原因なのか助けに来たおじさんの格好が原因なのか分からないんだけど……
私も少し遅れて邪魔していたアントたちを押しのけてそこに駆け付ける。
「おじさん! その人大丈夫そう!?」
「さっきの嬢ちゃんか。歩けるみたいだから問題ねえよ。それより上位種が出るかもしれねえと思ってはいたが、まさか本当に出てくるとはな。アーミーアントまで出てきたってことはひょっとすると他も……」
「アーミーアント?」
「まあ簡単に言えば1匹みたら30匹はいると思え系のモンスターだな。その点で言えば普通のアントと変わんねえんだが、見ての通り図体もデカけりゃアントよりも強い。そんなのがわらわら湧いてきたら溜まっちゃもんじゃねえってことなんだが――ほら、出てきやがった!」
「え? あ、うわぁ……」
おじさんの視線を追っていくと、ダンジョンの奥の方からわらわらと出て来る大きいアント、アーミーアントの姿があった。
「……これってもしかして、結構不味い状況ですか?」
「不味いっちゃ不味いか? アント系のモンスターがああして群れることも、上位種が発生するのもおかしなことじゃない。問題なのはアーミーアントがそこそこ強いモインスターで、あんだけの数が出てこられるとDランク試験を受けるようなシーカーじゃ間違いなく戦力が足んないってことだ。まあ嬢ちゃんぐらい強いならともかく他の連中だと囲まれると下手すりゃ死ぬな」
「そ、それってめちゃくちゃ不味いじゃないですかぁ!? は、早く逃げないと!!」
「そうだな――全員聞けっ!! アントの上位種が出てきやがった!! これ以上ここに残って戦うのは危険だ!! 一旦下がった方がいい!!」
腰蓑おじさんがそう声を上げると、この場に残っていた受験者の反応は三通りに分かれた。
一つはアーミーアントの姿を確認した途端に我先にと来た道を戻っていく人。
それからアントを倒しながらこっちに来る人と、おじさんの言葉なんて関係ねぇとそのまま戦い続ける人。
「ちっ。まともな判断が出来ねぇような奴がDランクに上がれる訳ないだろうがっ。嬢ちゃん悪いんだがこっちに集まって来る連中と一緒に先に撤退しててくれ。前と後ろはしっかり警戒して動けよ。アントにばかり気を取られんな!――」
「あ、ちょっとおじさん!」
止める間も無く腰蓑おじさんは未だにアントと戦い続けて逃げる気配が無い人のところに走って行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すっかりお休みを頂いてしましましたが健在でございます!
また次回の更新をお楽しみに気長に待っていてくれると嬉しいです。それではまたっ!
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