第22話 試験会場での再会
今日はついにランクアップ試験の当日がやってきた……!
できる準備はしてきた、と思う。試験のための特訓配信はもちろんだし、それ以外の配信外でも当然特訓や調整はやってきた。周りと比較ができないから今の自分の実力がどんなものかは分からないけど、そん時はそん時だっ!
当たって砕ければいい!……やっぱり砕けるのはいやっ!? どうせならここでしっかり合格して両親や視聴者の皆にいい報告がしたい!
……なんか受験みたいなこと言ってる?
まあいいや。ともかく今日は今の私が持てる力の全てを出し切って、きっちりDランクシーカーになること。それが目標なのだから!
「それで何で私が呼ばれた訳だ?」
若干ジト目気味にそんな風に聞いてくるのは、私の付き添いで来てもらったさっちゃんである。
「だ、だって観戦オーケーだって書いてあったし。それに1人だと緊張して試験どころじゃないんだもん!」
「まあ気持ちは分かるけど……まあいいや。どうせ今日は暇だったしね! せっかくの機会だし小花のカッコいい姿でも拝ませて貰っちゃおうかな」
「余計緊張すること言わないでよぉ〜」
「あはは、応援してるからねぇ?」
今私達はランクアップ試験が行われる会場に移動するバスの中にいる。
試験会場は都内にあるので家から電車とバスを乗り継いでざっと一時間とちょっとぐらいの距離だ。
最寄り駅に着いた時も思ったし同じバスに乗ってる人達を見ても思うけど……きっとこの人達もランクアップ試験を受けにきたシーカーさんなんだろうなぁ、と。
ほとんどの人はシーカーの格好はしていない。でも装備品が入ったと思わしき袋を持っている人だったり、明らかに堅気じゃないだろって雰囲気の人がいたりして何というか覇気みたいなのが伝わってきた。
家を出るときはそんなでも無かったのに、会場が近づくにつれてそういう人達が増えていきそれと比例して私の緊張も高まってしまった……
でもさっちゃんが付き添ってくれてるお陰でかなり緊張が解れている。
こんな時でも付き合ってくれたさっちゃんには後で何かお礼をしなくちゃね。何がいいかな?
「それで。私はシーカーについて詳しくは知らないんだけど、ランクアップ試験でどんなことするの? なんかの資格試験みたいな感じで筆記試験と実技試験みたいな?」
「えっとね筆記試験は無いんだよ。シーカーになる時に結構厳しめ難しめの筆記があったんだけど、その代わり?なのか分からないけどそれ以降のランクアップ試験では基本的に筆記試験はないんだよね。で、その代わりに実技試験みたいなのがある感じ」
「ふ~ん実技だけか。じゃあ小花なら心配いらないね。配信見ててもめっちゃ強いし、見てる人達も実力だけならDとかCとか間違いなしだっ!って言ってたし」
「え~そ、そんなことないと思うけどぉ~……でも頑張るっ!」
「そうそう、その意気だよ!」
そうしてバスは私達と他にシーカーらしき人達を乗せて走っていきいよいよ試験会場に到着した。
「ここが会場……」
着いた先は周りに家とかが無い場所。あるのはギルドの建物とそして――ダンジョンだけ。
「会場っていうかダンジョンじゃんっ!? え、試験ってダンジョンでやるの?」
「そうそう」
私が受けるランクアップ試験の内容、それは試験会場となるダンジョンに入り指定されたモンスターのドロップアイテムを指定の時間内に指定の個数を集めることなのだ。
「――なるほどね。でもそれって一度に沢山の人が入ったら色々大変じゃない? モンスターだって無限にいる訳じゃ無いだろうし、時間制限があるんならもう運ゲーになっちゃう気がするけど」
「そうなんだよねぇ。だからそこら辺はちょっと心配かなぁ。私って素早く動くの得意じゃないから横から全部持っていかれそうかも……」
と、そんなことを言ったときだった。
「その心配は大丈夫だと思いますよ」
私達の会話に割り込んでくる声が聞こえた。
声のした方に視線を向けるとそこにいたのは――
「あ、楠木さん!」
「お久しぶりです、宮内さん!」
少し前、一緒に二型ダンジョンを攻略して凄い剣術でモンスターをバッタバッタと倒していた楠木さんがそこに立っていた。
「先日はお世話になりました。今日は会えるか心配だったのですが、こうしてまた会えて嬉しいです」
「そうそう、私も帰った後で会場が同じかも分からないし一緒だったとして人が一杯だろうから会えるか分からないな~って思ってたんですよ。結構な人混みなのによく見つけられましたね~」
「そうですか、案外すぐに見つかりましたよ? 私結構目が良い方なので」
「なるほど~」
すると今度は横からさっちゃんに脇腹をちょんちょんとつつかれる。
「ちょいちょい小花。あの凛々しい感じの美少女だれ? 小花の知り合いなの?」
「あそっか、さっちゃんは会うの初めてなんだよね。えっとこちら前に一緒にダンジョンを攻略したことがある楠木舞さん。で、楠木さん。こっちが私の友達で今日付き添いで一緒に来てくれた中川幸ちゃんです」
「「よろしくお願いします(よろしくね~!)」」
自己紹介も済んだところで楠木さんも一緒にギルドに行ってランクアップ試験の受付を済ませる。
試験開始までもうちょっとぐらいの時間だったので私と楠木さんは探索装備に着替えに、さっちゃんはギルド内にある観戦室に別れた。
私も楠木さんも端末登録の装備なので着替えはすぐ終わって、それから簡単に準備運動をしながら試験開始を待つ。
「そういえば楠木さん、さっき言ってた心配無いってどういう意味?」
「それは二つ理由があってですね。一つ目は全員が同じモンスターを狙う訳じゃないということです。後で説明があると思いますがグループ分けされて狙うモンスターも分けられるらしいです。それから二つ目は、このダンジョンは管理局が直接管理していてモンスターの数が調整されているそうなんです。二つ目に関しては私も詳しいことは分からないんですけど、兄からはそう聞いています」
「なるほど、それなら何とかなりそうかも? 教えてくれてありがとね楠木さん」
「いえいえ全然大丈夫ですよ……そ、それよりも宮内さん。もし、出来ればでいいんですけど、私のことは楠木ではなく舞と呼んでくれませんか? せ、せっかく仲良くなったのにちょっとよそよそしいなと思って」
「え、それぐらい全然いいですよ~! あそれなら楠木――舞ちゃんも私のこと宮内じゃなくて小花って呼んでよ。ついでに敬語も無くしちゃおっか」
「い、いいんですか!? そ、それじゃあ小花さんと。でも敬語は私の癖みたいなものなので。家族の前以外だといっつもこんな感じになっちゃうんです」
「もしかして舞ちゃんって結構お嬢様だったりする……?」
「え? そんなことないと思いますよ? どこにでもある普通の家ですし。いえもしかしたら一般的な家よりも少し広いかもしれませんけど」
「はえ~」
一緒にいるといいとこのお嬢さんみたいな雰囲気を感じることがあったけど私の気のせいだったかな?
「それでですね、小花さん。小花さんって剣術などに興味ってありますか?」
「剣術? あ~、確かに私そういうの習ったこと無いんだよねぇ。やっぱり剣術とか習ってるとモンスターとも戦いやすいのかな。舞ちゃんって多分そういうの習ってる感じだよね?」
「そうですね。ただ私の場合は逆に剣術が無い状態でモンスターと戦ったことが無いので比較出来ないんですが、でも戦い方であったり攻撃や防御の手段が増えるのは間違いないと思いますよ」
「そうだよね~。やっぱり習っておいた方がいいのかなぁー……」
「そ、それなら是非うちの――」
舞ちゃんが何かを言おうとしたのに被せるようにランクアップ試験の受験者はダンジョンの前に集合するようにと館内アナウンスが流れた。
「あ、もう時間みたいだよ。行こっか!」
「はい、行きましょうか……」
「そういえばさっき何か言おうとしてた?」
「いえ、何でもありませんっ……もぅ~どうしてあのタイミングでぇ――」
「?」
まあ伝えたいことだったらまた聞いてくるよね?
私達はそそくさと準備をすませるとちょっと急ぎ目にダンジョン前に向かった。
行ってみるともうほとんどの受験者が集まっているようで凄い人数が集合していた。ざっと見た感じだけど100人以上いるんじゃないか?
「わぁ~結構人いるんだねぇ」
「そうですね。Dランク試験は最も多くの受験者が受ける試験ですけど、それにしても実際に見ると本当に多いですね。年代も幅広くいるみたいですし、年々シーカーの数が増えているというのも頷ける規模です」
「うんうん。それに私達と同年代ぐらいの人達も思ったより多いし」
「確かにそうですね」
そうして待っていると少しして管理局の人と思わしき人が前に出て拡声器を使って今回の試験ルールについて説明を始めた。
と言っても事前に聞いていた内容と大差なくて制限時間内にモンスターを倒して必要数のドロップアイテムを集めてくること。
それから舞ちゃんに聞いてた通りいくつかのグループに分かれてグループごとに狙うモンスターを分けるというのもここで説明された。
「私はAグループだからアントが標的だね。うわぁ、虫系のモンスターとはあんまり戦闘経験無いんだよなぁ。舞ちゃんはどうだった?」
「私の方はEグループなのでホブゴブリンです。人型モンスターなので私にとっては戦いやすい相手ですね」
「そっかいいなあ。くじ運が無かったか~」
「確かに昆虫系のモンスターは固くて倒し難い相手が多いと聞きます。でも小花さんならどんなに硬いモンスターでも倒しちゃいそうですけどね」
「まあ硬いだけならどうにか出来るかも。お互い頑張ろうね、舞ちゃん!」
「はい! 頑張りましょう小花さん!」
アント、つまり蟻をモチーフにしたモンスターだよね。
実際に戦ったことはないけどギルドが発信してる資料で見たことはある。硬い外骨格と虫特有のしぶとさが特徴だったはずだけど……うん。倒せない相手じゃないはず。頑張ろう!
『それではグループ毎に時間をずらしてダンジョンに入っていただきます。まずはAグループからスタート地点に集まって下さい』
「それじゃあまた後でね」
「頑張ってきてください!」
管理局の人に呼ばれてダンジョンの入り口前に行く。すると私と同じAグループの人達も同じように集まって来る。
このグループの人たちは言わば同じ標的を狙うライバルでもある。
だからか集まて来た人達の間にはピリついた空気が流れているような気がする。
ちょっと気圧されそうになるけど、私だって負ける訳にはいかないんだからっ。頬っぺを叩いて気合いを入れる。
『それではAグループの受験者の皆さん、ダンジョンに入場してください。試験スタートです』
その宣言と同時に私と周りの人たちはダンジョンに向かって駆け出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お待たせしました!
いよいよ始まるランクアップ試験。いやぁ試験内容を考えるのって大変ですね~。色々矛盾とか疑問があるかもしれませんが、こんな感じで進めていきたいと思います!
さあこのランクアップ試験ではどんなことが待ち受けているのか、次回の更新をお楽しみに!!
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