第13話 一件落着

 正直、あの様子を見る限りまともに会話が成立するとは思えない。結界を破ろうとして遂には武器を取り出して喚いているんだから、落ち着いて話が出来る状態じゃないよね。

 

 さて、どうしよう……


 さすがに目に余る言動だったから偶然使えるようになった結界に閉じ込めたまではいい。

 でもここからどうやってあの人達を外まで連れて行こうか。

 出来れば管理局かギルドに突き出して何らかの罰則を受けて欲しいところ。でもあの人達が素直にそれに応じるとは思えないし、かといって無理矢理連れて行くのは私一人じゃ難しい。


「う~ん……皆さん。あれ、どうしましょう?」


:リスナーの誰かが管理局に通報してるなら、ここで逃がしても後で呼び出しがあるはず。もしそれを無視したら十中八九シーカーの資格剥奪になるから、アイツ等もそこまで馬鹿じゃないと思われ

:さすがに連れ帰るのは難しいか

:でも連中、結界を解いた瞬間に襲い掛かって来そうな勢いじゃないか?

:いやさすがにそれは無いだろ。それやったら一発逮捕だぞ

:あの様子見てみろよ。そんな理性的な判断が出来る状態に見えるか?

:……ごめん無理かも


「えぇ~、それじゃあ安易に結界を解くのも無しですよね~。でもいつまでもここにいる訳にもいかないですし……」


 一人、こういう時に頼りになりそうな人物に心当たりがあるけど、こんなことで簡単に連絡をしてもいいのか逡巡してしまう。


 そんな風に悩んでいた時だった。


 向こうから何人かの人影がこっちに走って来るのが見えた。


「ん?」


:どうした?

:お?

:あれ、誰かこっちに来てる?

:あホントだ。野次馬か?

:さすがにこの状況で野次馬に来るほど馬鹿な奴がいるとは思いたくないが

:いや、普通にギルドの人達じゃねえか? さっき誰か通報したんだろ?

:あ、そうかも


「あ~なるほど! それで見覚えのある顔だったんだ!」


 遠目に先頭を走っている人の顔を見て、どこかで見覚えがあるな~と思ってたんだけど流れたコメントを見て思い出したっ! 前に管理局に行ったときに道案内をしてくれた職員のお兄さんだ!


「通報を受けて駆け付けました。ダンジョン管理局職員の烏丸からすまと申します。ダンジョン配信者の田中花子さんで間違いありませんね」


「は、はい!お久しぶりです! この間も管理局でお世話になったばかりなのに、今日もすみません……」


「いえいえ、ちょうど手が空いていたので面識のある私が来た方が何かとスムーズに進むと思って自分から来たんです。それよりも――あの連中が通報にあった者達ですね」


 そう言って職員のお兄さん――烏丸さんの視線が五人組に向けられる。あの結界は攻撃とかは通さないけど音とかは普通に聞こえるようで、烏丸さん達が管理局の人だと名乗ると途端に静かになっていた。

 あと本名の方ではなく配信者ネームの方で呼ばれたから少し驚いたけど、すぐに私に身バレに配慮してくれてるんだと理解した。


「田中さん。あの連中の結界を解除していただけますか?」


「え、大丈夫なんですか?」


「はい。ずっと結界を使い続けるのも負担でしょうし、こちらでも拘束の手段は用意しているのでご安心ください」


「……それじゃあ――」


 負担か負担じゃないかでいえば、全然負担にはなっていない。だって普通に結界を使いながらトレントと戦えたしね。

 とはいえここはお任せすべきだと思ったので、若干心配する気持ちがありつつも五人組を囲んでいた結界を解除した。そういえば今更だけど、始めて使ったはずの結界(かどうかも分からないけど)を自由に使えていることにひっそりと驚く。やっぱりこの剣にはまだまだ私の知らないことが沢山あるのかもしれない……


 結界を解除すると五人組は襲い掛かって来ることこそしなかったものの、口々に自分たちは被害者だ!とか私に獲物を横取りされた!だとか、理由も無いのに拘束してきたんだ!とか言い募る。


 私がその言葉に眉がピクピクしていると、黙って男達の主張を聞いていた烏丸さんが怒鳴っている訳でもないのに迫力のある声で口を開いた。


「お前たちは以前にも同様の迷惑行為で管理局から注意を受けているはずだ。その時は証拠不十分として厳重注意だけで済ませたようだが、今回はお前たちの言動が田中さんの配信として記録されている。言い逃れが出来るとは思わないことだ。それにお前たちが行っている配信内容についても、複数の越界者からの苦情が管理局に寄せられている。この機会にしっかりと罰を受けて貰うぞ」


「ふ、ふざけんなっ!! 俺達が何をしたってんだよ!!」


「それを分かっていないから、しっかりと自分が何をしたのか自覚させる為の罰則だ。本来ならこれまでのこともあり越界者の資格停止処分とするところだが……お前たちには管理局で無期限の奉仕活動を行ってもらう予定だ――全員拘束しろ」


「「「了解っ」」」


 烏丸さんの号令で五人組を囲んでいた職員の人達が取り出した縄で一人一人縛り上げる。何とか抵抗しようと足掻いている場面もあったけど、職員さんたちの方がよっぽど強いのかあっという間に全員が文字通りお縄になってしまった。


「え、縄……?」


「勿論ただの縄ではありません。スキル、魔法の使用を禁じる効果が付与された特製です。それに並のシーカーの身体能力では振りほどけないほど頑丈に作られています」


「おぉ~……」


 前時代的な拘束の仕方を見て思わず声に出してしまうと解説が返って来る。

 スキルも魔法も使えなくなるとか、そんなものがあったのか……


「では我々はこれで。あの連中にはきちんとした罰則を与えるので、田中さんも視聴者の皆さまもその点は今の管理局を信用していただきたく思います。それでは、配信中に失礼しました」


「こ、こちらこそありがとうございましたっ! 後はよろしくお願いします!」


:対応早い管理局ナイス~

:よろしくお願いします!

:俺もあの連中にダル絡みされたんやっ。ちゃんと締めといてくれっ!!

:やっぱ体制変わってから管理局も良い感じよな

:サンキュー烏丸さん!

:ざまぁですわ。せめて反省するぐらい矯正されるまで戻ってくんな

:ありがとう管理局の人~


「では――」


 そう言うと烏丸さんたち管理局の人たちは迷惑五人組を連れて足早に去っていった。


「えっと、色々ありましたけど――取り合えずトレントへのリベンジ達成あんど剣の鞘をゲットしました~!!」


:おめでとうっ

:おめでとう~~!!

:よかったじゃん!!

:本当に色々あったけどなww

:それにしても本当にトレントを倒せるなんてなぁ。正直何回かチャレンジするんじゃないかとは思ってた

:花子ちゃんの成長が凄いっ!!

:とりま無事に終わって良かったで~


「それじゃあ最後にあの木の鞘に聖剣を納めてみて今日の配信は終わりにしますっ……ドキドキしてきました」


 私は両手に聖剣とさっき手に入れた木の鞘を持つ。

 鞘の方の見た目は、塗装とか何もされていない木目剥き出しの状態で一目見て木製だって分かる感じ。装飾も特に施されてなくて見ようによっては皮の鞘よりも貧相に見えるかも? 

 で、でも!トレントを倒して手に入るぐらいなんだし皮の鞘よりも丈夫なはず――だよね……?


「よし……いきますっ!――」


:ドキドキの瞬間

:爆発しませんようにっ

:でもちょっと期待してる自分もいる……!

:木の鞘なんてアイテムあったっけ?

:シーカーじゃないから知らん

:わくわく……!


 これにもサイズ自動調整がついているのか剣先を入れると、すっと鞘のサイズが大きくなる。そしてゆっくりと聖剣を納めていき、鍔のあたりまで完全に収まりきる。


 すると次の瞬間、鞘が黄金色に光り出したっ。


「ま、また~~!?」


 私は爆発すると思って、思わず聖剣を投げ捨てて両手で頭を隠す。


 でも……待てども待てども破裂音は聞こえないし衝撃もこない。それにいつの間にか光も収まっている。


 おそるおそる顔を上げて放り投げてしまった聖剣と鞘に近づいてみると――


「お? おぉ!」


 そこにはさっきまでの見るからに木製と分かる鞘は無く、聖剣に合わせた黄金色に変化し表面には植物の蔦を模したような意匠が彫られたデザインの綺麗な鞘があった。


「凄いっ!」


:だいぶ豪華な見た目になった!?

:皮から木に変わるだけでこんな機能が増えるのか!?

:うわぁ~、カッコイイ! ちょっと俺もこれ欲しくなってきたかも

:アイテムの詳細が知りたいな。変化したのが本当に見た目だけなのか気になる:

:自分で取りに行ってみたいけど相手がトレントなのはな~


「いいですね~。皮の鞘よりもこっちの方が見た目にもマッチしてますし違和感が無いです! それに破裂しませんでしたからね! むしろ皮の鞘で満足しなくてよかったかもしれません!」


 色んな角度から眺めてみるけど、まるで最初から聖剣の為に作られていたかのように馴染んでいる。デザインもそうだけど、鞘に収まっている姿に全く違和感が感じられないのだ。

 もしかするとコレにはサイズ調整機能の他にも、見た目とかも自動で合わせてくれる効果があったのかもしれない。


「皆さん応援ありがとうございましたっ! という訳で今日はこんな感じで閉めようかなと思います! 次の配信はー……そろそろ学校が始まるので、その前にもう一つぐらい別のダンジョンに行きたいですね。今回みたいに間は空かないと思うので、その時はまたよろしくお願いします!」


:おっけ~~

:そういえば花子ちゃんって学生なんだっけ

:次も楽しみにしてますっ!

:それまではアーカイブを楽しませてもらいます

:また配信告知待っとるで!


「それではまた今度~。お疲れさまでした~!」


 そうして私は配信を終了して、烏丸さんたちに追いついてしまうのもちょっと気まずいので気持ちのんびり出口を目指して進んだ。そんな帰り道では徐々に自分の配信を見てくれる人が増えてきたことににやにやしつつ、次はどこのダンジョンで配信をしようか考える。


 いくつか目星をつけているダンジョンはあるけど、どれも難易度的に丁度いいって感じで決め手に欠けるところ。とすればやっぱり遠くにあるダンジョンを優先した方がいいかな? 学校が始まったら休日はともかく、近場のダンジョンが活動中心になるだろうし。

 だったらあっちのダンジョンかこっちのダンジョンか――あ。そういえばそろそろランクアップ試験が受けられるかも? あとでギルドで確認してそれから選んでみてもいっか。


 そんな風に次へと想像を膨らませつつ、面倒事はあったもののトレントに勝利した喜びと共にダンジョンを後にした。





 小花がトレントとの再戦配信をちょうど終えたその頃――


 とある場所にて一人のシーカーが配信が終わったのに合わせて動画の視聴画面を閉じる。それから背もたれに体重を預けて暫く天井を眺めた後、ぽつりと呟いた。


「聖剣、か……」

 

 その言葉の真意は男にしか分からない。聖剣女子高生と呼ばれる小花の存在そのものを指した言葉なのか、それとも彼女の使っている剣を見ていった言葉なのか。それとも……


 男は年の頃で言えば現管理局局長である権藤と同じぐらいの見た目をしていた。その一方で髭が伸び放題でまさに無精ひげといった状態であり、そうした点で言えばビシッとスーツを着込んでいた権藤とは真逆だろう。

 しかし、さぞだらしがないのかと思えば天井を仰ぐ目には別人のように鋭い眼光が宿っていた。


「戦ってみてえなぁー……だが、まだ早い」


 何が楽しみなのか口の端を釣り上げて獰猛に笑う。


「あいや、でもちょっとぐらいなら……いやでももう少し成長してからの方が面白いよな……だけどちょっとだけ、味見ぐらいならっ――」


 自分の中で何かしらの葛藤があるのかうんうん唸りながら頭を左右に振って悩んでいる様子。それから少しして男の動きが止まる。


「……ここは我慢だな。はぁー……」


 聖剣女子高生として少しずつ日の目を浴び始めた小花。

 そんな小花の存在に気付き始めている者達もいるのである……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

昨日は更新できなくてすみません<m(__)m>

この分は本調子に戻ってから、どこかで二話投稿するかSSを投稿する形で補おうと考えています! そんな感じでよろしくお願いします!


という訳で、無事にトレントを倒し迷惑五人組を片付けたお話でした!

小花は次に何をするのか、もしくは何に巻き込まれるのか。次の更新をお楽しみに!

(またいつの間にか総PVが4,000を超えてました!ありがとうございます!)


また読んでいて面白い、続きが読みたいと思って下さったら★評価やいいね、感想を送ってくれると嬉しいです! よろしくお願いします!

 

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