第23話フレア
あれから一年が過ぎ、私の生活も落ち着いた。
子ども達も楽しんで学園生活を送っている。
グレンとはあれ以来連絡を取っていない。
毎月振り込まれる騎士団の給料は、かつてないほど多く、入金された額に驚いて目を丸くした。
ゼノ曰く魔物討伐は報奨金が出るから、国からの支給金が上乗せされるという。
子どもたちはグレンと手紙で連絡を取っているようだった。
彼は数カ月に一度、仕事関係で王都に帰っているようだ。子どもたちとは面会しているのかもしれない。
私には二度と会わないという約束だったため、私が彼の姿を見ることはなかった。
もうグレンの話は聞きたくなかったので、子どもたちには父親の話は兄妹の中でだけにしてねと頼んだ。
漏れ聞こえてくる彼の情報は、騎士団の夫人たちからだった。
騎士団の噂話に、グレンがメリンダ様と再婚したというものはなかった。
男女関係のゴシップではなく、魔物討伐で功績を挙げたとか、戦地で活躍したという話が多かった。
私は独身に戻り、自分の時間に余裕が出てきたため、仕事に専念した。
工房では、親身になって相談にのってくれる工房主任のマイクが私の力になってくれた。
彼は現場を纏める能力に優れていて、仕事面では的確に指示を出し、プライベートでも面倒見の良い上司だ。
リーダーシップがあり自ら率先して行動できる主任だった。
彼の勧めもあって、私は仕事内容を絞った。
そして念願の王室担当の彫金師として名を揚げた。
王室からの受注が多くなり、私は手の込んだ高価なジュエリーのみを作成するようになった。
それにより私の作品に付加価値が出て、高値で取引されるようになった。
せわしなく働かなくても、十分生活できるようになり、今は自分の時間を楽しんでいる。
子どもたちと一緒に旅行へ行くことも出来た。
休みの日にはゼノと贅沢なレストランで食事したり、ルナと人気の美容サロンに行ったりした。
貴族のような暮らしを望んでいた訳ではないが、自分が働いた分の給料は自分の為にすべて使えるという贅沢を味わっている。
***
今日、子どもたちが学園を卒業する。
三年間、いろいろなことがあった。
私にとっては、激動の三年だったと言っても過言ではない。
子どもたちの入学から入寮。私の離婚と引っ越し。
仕事に忙殺されながら、子どもたちの学園行事への参加。
私よりもしっかりしている我が子は、できるだけ親に心配をかけないように、学業も頑張った。
私の負担にならないように、進路や就職を自分たちでちゃんと決めてきた。
私もよく頑張った。子どもたちもよく頑張った。
立派に成長した子どもたちの姿に、私は感無量で涙ぐんでいた。
ルナは、魔法学研究所の職員となり、非常勤で週に一度、学園で教鞭を執るらしい。
ゼノは、アシスト魔力が使えることで、王太子の側近として殿下をサポートするという。王太子付きの護衛騎士ではなく、あくまで王太子の魔力をアシストする役目だそうだ。
どちらの子どもも優秀で、ルナは特待生として最後まで学園に通い、ゼノは卒業生総代となった。
私にとっては二人とも自慢の子どもだった。
双子で別々の学園を卒業する場合、式に出席できるのは、どちらか片方の子どもの学園だけになる。
卒業式が同じ日に重なってしまうから仕方がない。
私の体が二つあるわけではないので、申し訳ないが今回はルナの式に行くことにした。
ゼノがルナの式へ行くように私に言ったからだ。
詳しくは言わなかったが、もしかしたらグレンがゼノの卒業式に来るのかもしれないと思った。
私は何も聞かずに、分かったわ、とだけ息子に告げた。
「卒業式の後、家族でお祝いをすることにしたわ」
胸にコサージュを着け、美しく成長したルナが私にそう言った。
謝恩会に参加する為、食事はいらないと言っていた気がするけど違ったかしら。
「ええ。アパートに来るでしょう?ちゃんと片付けておいたから大丈夫よ。今日はそのまま泊まっていくのよね?」
「レストランの予約を取ったの。お父さんも呼んで4人で食事をしよう」
「そうね、みんな……えっ?」
お父さん?
「卒業したんだよ?家族で祝いたい」
私はもう一度ルナの顔を見て、娘が言ったことに眉をしかめた。
「やめてよ、何を言っているの」
「お母さん。もう私たちは成人したんだから、親としての役目も卒業したのよ。ん……と、今まで、お父さんが養育費を支払っていたでしょう?それも、もう最後だからいろいろ確認が必要かと思ったの」
なんだか、取って付けたような理由だと思った。
けれど、養育費の支払い義務は終わったことを、グレンに告げなければならないのも確かだ。
グレンは、赴任して3年が経ち、今回王都へ帰ってくるらしい話は聞いていた。
彼は魔物討伐での功績を評価され、今度の異動で王都騎士団の団長に就任するらしい。
騎士団の婦人会の会合にはもう参加していないが、友人は沢山いる。
いろんな噂が私の耳にも入ってきていた。
「グレンに会ったからといって、何か特別なことが起こるわけではないわよ」
「ええ。分かっているわ」
グレンは赴任先に、メリンダ様を連れて行った。
離婚後、彼が誰と何をしようが関係ない。メリンダ様と駆け落ちするならそれでも構わないと思っていた。
払うものさえ支払ってくれれば、謝罪や言い訳などは聞かなくてもいいはずだった。
けれど、私は決していい気持ちはしなかった。
それは離婚したばかりで早速だったからなのかもしれない。
彼女と別れないとしても、私に配慮して、少しくらい時間を空けてくれればいいのにと感じた。
私たちはあっさり捨てられるくらい、全く大事にされていなかったんだと悔しく思った。
赴任地へ連れて行ったはいいものの、彼女は数カ月でグレンの元から姿を消したという。
風の噂ではメリンダ様は娼婦になり、病気の感染で亡くなったと聞いた。
真実は分からないけど、彼女の軽い行動や甘い考えがその結果に結びついたのだとすれば、因果応報なのだろうと感じた。
グレンとメリンダ様の間に何があったのかは知らない。
グレンとの仲が拗れて別れたのかもしれないけど、あの時私が味わった屈辱は許せるものではない。
彼に対して、一度失った信頼は二度と元には戻らない。
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