第14話グレン
フレアと話をした後、何度か手紙のやり取りで細かいことを決めていった。
子どもたちの学費や寮費は俺が全て支払うことにした。
そして、俺は騎士団長のもとへ行って異動願を出した。
妻が出て行ったこと、自分が長い間不倫していたこと、夫婦関係が終わったことを団長に正直に話した。
「仕事を辞めるわけではないのだな」
「……はい。俺の不貞による離婚です。それが原因で首になるのならそれも受け入れます。自分のしでかしたことですから」
「10年は長すぎるぞ。一番大事なのはフレアの気持ちだ。お前のじゃない」
団長もフレアとは顔見知りだ。
彼女は控えめだが、細かな気遣いができ美人だ。騎士の皆が彼女を気に入っていた。
誰にでも丁寧に接するフレアは、騎士の妻として優秀だといわれた。結婚当初は良い嫁を選んだなと褒められた
「はい」
「たかが浮気だと思うな。仕方がない、皆やっているで、片を付けようとするな。フレアがいたから、お前はここまでやってこれたんだ」
その通りで、なにも言い訳できない。
「騎士を辞めるつもりでしたが、妻が……元妻ですが。フレアが反対しました」
団長は眉を上げて話の続きを促した。
「ゼノは騎士を目指し、騎士学園に入学しました。それは父親である俺の背中を見ていた証拠だと。俺が騎士を辞めてしまったら、あの子の将来に傷がつくだろうから、ゼノの道を閉ざさないでと言われました」
「ゼノか……」
団長は頷いた。
「フレアは俺達が離婚しても、俺が子どもたちの父親であることに変わりはないと言いました。彼女は今まで騎士の婦人会で俺の愛人について話したことはないと。だから不貞は表沙汰にはならないだろうと言われました。あくまで性格の不一致で離婚だと言うようにと」
「そう言われて、お前はどう感じた」
「もし、許されるのならこれからも騎士としてやっていきたいと思いました。ただ、団長には嘘は言えないので、俺の不貞のことは正直に話します。それで首になるのならそれは仕方がない。全て俺の責任です」
「浮気で首にはならない。離婚も騎士にはよくある話だ。そして、俺はフレアの望みならお前は一生騎士として国に尽くすべきだと思う」
グレンはハッとして顔を上げた。
「ありがとうございます」
「離婚原因については、いろいろ噂が出るだろう。フレアの気持ちを汲んで善処しよう。だが、お前のこの異動願は認めるわけにいかない」
「俺は、今自分が持っている物すべてをフレアに渡して、身一つで騎士として最前線へ行きたいと思います」
「あそこは、国の軍の管轄ではあるが、一般の傭兵たちが大勢いる。お前がやっていけるとは思えない。命の危険があるぞ」
「承知しています」
「一度行けば、数年は帰ってこれない」
「覚悟の上です」
団長は俺の目をまっすぐ見た。
了承以外の言葉を寄せつけない決意を俺から感じ取ったようだった。
団長はなにかを吹っ切るように、はあっと短い息をついた。
「一生騎士として働いて、子どもたちが誇れるような父親になれ」
団長はそう言ってゆっくりと頷いた。
***
今、我が国の最西端の未開拓地域に、新種の魔物が増殖している。
人が住む村や町に侵入する可能性が出てきているらしい。
誰も行きたがらない危険な場所で、多くの報奨金が得られるが、志願する者はまずいない。
軍直属の騎士団の中でも特殊な仕事で任期は3年だった。
俺は身辺を整理し始めた。
この家を慰謝料としてフレアと子どもたちに残し、この家を出て行く。
今ある預貯金は全てフレアに渡すつもりだ。俺が持っていてもこの先使う予定はない。
そして、養育費として毎月、騎士団の給料から一定額をフレアの口座に振り込むことにした。
生きて帰れないかもしれないが、王都にいたとしても俺の傍にもうフレアはいない。
せめて子どもに誇れる仕事を成し遂げたい。
俺はフレアに手紙を書いた。
『騎士団に異動願を出した。来月から王都を離れ、別の騎士団に行く。子どもたちに財産分与をしたい。時間を作って欲しい』
彼女には魔物多発地帯に行くことを伏せておこうと思っている。
今更俺の心配などするとは思わないが、もし俺に何かあった時に彼女に責任を感じてほしくない。
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