第105話
「…こんばんは」
なかには数人の生徒がいた。
シンに驚いたのか、みんなが目を丸くしていた。
「もしかして…シン君」
前に立って教えていた人が、シンに話しかけてきた。
「あ…はい」
シンは、自分の名前を呼ばれて少し戸惑った。
ユウを迎えには来ていたが、学校の人の顔は知らないし、会ったこともなかった。
「立ってないで、どうぞ、入って」
シンは軽く会釈して、なかに入った。
「そこに座って。で、今日はどうしたの?」
声をかけてくれた人が、シンの前に座り話しかけてきた。
「…あのぅ、洋裁やってみようかと」
ここにいるみんなは、ユウがどうなったかを知っているようだった。
あえて、シンに深く理由を聞くことはなかった。
「そう…じゃあ通ってみる?」
笑顔でシンに聞いてきた。
「はい…お願いします」
シンは座ったまま、深くお辞儀をした。
「私はここで教えている小林です。よろしくね」
年は40歳ぐらい。怖そうな顔だが、雰囲気からは優しさがすごく伝わってきた。
「はい。シンです、お願いします」
さすがに洋裁学校だけあって女性しかいなかったが、みんな笑顔で迎えてくれた。
「じゃあ、あれを出さないと」
小林先生は、奥の棚から何かを出してきた。
「シン君、これなんだけど」
シンは、机に置かれたものを覗き込んだ。
教科書とたくさんの道具、そしてスケッチブックだった。
「…これは?」
「…これはね、本来通う人には全員買ってもらうんだけど、シン君にはこれを使ってほしいの」
シンは、少しだけ使われた跡のある道具をじっと見ていた。
「小林先生…少し見ていいですか?」
「もちろん」
シンは、スケッチブックを手に取った。
「…あっ」
『シンのステージ衣装~ユウの愛の結晶~』
スケッチブックの1ページ目には、見慣れた字でそう書いてあった。
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