第100話

「あれ…もしかして?」

 

高校生の噂は、あっという間に広がる。学校までの1時間、何度もそんな囁きが聞こえてきた。

 

まったく関係ない他校の生徒ですらこんなに知っているのなら、自分の学校ではどうなんだろうと、シンは不安で仕方がなかった。

 

緊張と不安とで心臓は爆発寸前だった。何度も、帰りたいと思った。

 

ユウの写真を胸のポケットに入れ、心のなかで必死に助けを求めた。


「これでいいのか? いいんだよな、間違ってないよな」

 

何度も、心のなかで叫んでいた。

 

もう、隣に頼りになるユウはいない。

 

そんな現実が、さらにシンを弱気にさせていた。

学校に近づくにつれ、シンを知っている人間はどんどん増えていった。

 

今にも逃げ出したい気持ちを抑え、シンは学校に到着した。学校に来るだけで、シンは疲れきってしまった。

 

下駄箱の前に着くと、ほぼ全員がシンを見ていた。

 

自然と生まれた、シンとみんなのあいだの空間。

 

それが、シンの学校での立場を表していた。

 

シンは、逃げるように職員室に向かった。

 

職員室にシンが入ると、一瞬時が止まった。

何か手続きでもあるのかと思ったが、ただ挨拶をするだけだった。

 

教室にはまだシンの机は残っている、とのことだった。

 

始業ギリギリに、シンは教室の前の廊下に立った。

 

どちらかと言えば真面目な学校で、ほとんどの生徒が教室に入っていた。

 

深呼吸をして、シンはゆっくりドアを開けた。

 

騒がしかった教室が、嘘のように静まりかえった。

 

前にも味わった空気。何度味わっても慣れるもんじゃない。

 

シンはゆっくり席に着き、窓際の席で外を眺めていた。

 

中学のときよりも、数倍重たい空気が流れていた。


 

気がつけば、終わらないと思った夏も終わり、シンは16歳になった。

 

教室から見える景色は、すっかり秋になっていた。

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