第38話
「……」
部屋の静寂の中、俺は目を覚ました。
……あのマスコミどもめ。
毎日、どこからともなくやってくるマスコミ。朝から晩まで俺を追いかけて、何もかも詰め寄られる。
マジでうざい。
なんでこんなことになってんだか。
お前らが散々望んでた降格だろ? だったらもうそれで終わりでいいだろうが!
三好さんじゃないけど、マジで全員ぶん殴って終わりにしたいくらいだ。
でも、それで終わらせられないのが現代人の悲しいところだ。
力こそ正義の時代が来てほしいもんだぜ。
今は実家から離れた。家族の皆は大丈夫だと言ってくれているが、どこで誰に何を聞かれるか分からないからな。
俺の問題に、皆を巻き込むわけにはいかない。
人目を避け、アパートに逃げ込んだ。三好さんの知り合いが用意してくれたアパートだ。現在俺は、自宅、アパート×3を日ごとに別の場所で生活している。
なのでまあ、マスコミたちも俺を完全には追えていない。そもそも、町の人たちも俺について一切語らないよう守ってくれているしな。
一番厄介なのが、学校で待ち伏せされているときだが、それだって持ち前の身体能力でいくらでも逃げられる。
なので、マスコミはいいんだけど……スマホを開けば、叩きの嵐。
俺の名前と「無能」「クズ」「サボり魔」「落ちこぼれ」という言葉が飛び交っている。
俺のことはいいのだが、家族に対して酷い発言を見ると、コメントをした奴ら全員八つ裂きにしてやりたくなる。
とりあえず、全員開示請求してやる。一段落ついたら、弁護士に相談だ。
赤字になろうが、俺の家族に悪口いう奴らは全員痛い目見させてやる!
俺は頬を叩き、気合を入れなおしたときだった。スマホが震えた。
最初は無視しようと思った。最近は、どこから漏れたのか分からないが俺の番号に悪戯電話がかかってくることがあった。
知り合い以外だと、知っているのは協会の人間たちくらいだ。
……どうせ、その辺から漏れたんだろう。
一言二言だけ、罵倒があったり、無言電話だったりな。
どうせまた、知らない番号からの罵倒か何かだと思っていたのだが、表示された名前は「霧島」だった。
久しぶりだ。……優しかった霧島さんも態度が変わっているかもしれないと思うと、ちょっと怖くて出るのに一瞬迷う。
でも、俺は勇気を振り絞って電話に出た。
「……はい、天草です」
『天草さん……連絡遅れてしまい、申し訳ありません。……今、大丈夫ですか?』
「ええ、大丈夫ですよ。何ですか?」
実のところ、あまり大丈夫ではない。もう毎日のようにアンチたちの書き込みをスクショしているので、スマホの容量が心配になっていたところだ。
『実は、良いニュースがあるんです。もしかしたら、ダンジョン内で映像の撮影や配信が可能になるかもしれないんですよ!』
「……え? ほ、本当ですか?」
ダンジョンの攻略はいつになるか分からない。
501階層まで行って、それでもまだゴールは見えていなかった。
撮影などができるのであれば、それを探索者協会に提出できれば……これまで俺がサボっていなかったことが発覚するはずだ。
それで、ひとまずこの騒動は治まるはず。
……まあ、どこまで探索者協会がそれを信じてくれるかは分からないけどな。
『はい。今、早乙女という私の知り合いの研究員がこちらに来て、ダンジョンの調査を行ってくれているんです。今は調整中ですので、そちらが安定化しましたら、また連絡しますね!』
「……分かりました。ありがとうございます」
『……ですから、無理はしないでください』
「はい……分かってます」
電話を切ると、俺は深く息を吐いた。
どれだけ周りが俺を否定しようと、俺には守るべきものがある。
俺を信じてくれている人たちもいるんだしな。
そんなことを考えていると、またスマホが震えた。
今度は、神崎からだ。
「……神崎? どうした?」
『……助けて』
「な、なんだ? 何かあったのか?」
まさか、またやばい魔物に襲われているのか!?
心配してすぐに装備を整えようとしたときだった。
『……SNSとかチャンネルの作り方とか、うまく分からなくて……』
急に何!? 脈絡なさすぎですよ神崎さん!
「えーと……どういうことだ?」
『と、とにかく……教えて、ほしい……』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ああもう、とりあえず後で神野町に来れるか?」
『う、うん。分かった……行く』
とりあえず、どこに集合するかは迷ったけど、今日帰る予定だったアパートの住所をメッセージで送っておいた。
アパートの外を見て、マスコミたちがいないのを確認した俺は念のために人目を避けるよう、家を離れた。
その日の放課後。我が家のアパートには、色々と来客者が来ることになっていた。
まず、霧島さんとその友人である早乙女さんだ。何でも、今回の101階層の魔石などについて調査してくれているのが早乙女さんという人らしい。
そして、次に神崎。
……彼女がなぜ俺にSNSの作り方とかチャンネルの作り方を聞きに来たのかは分からないけど、ひとまず彼女も今日なら予定が合うから来ることになった。
最後は、由奈。まあ彼女はいつも通り、夕食を作りに行く、とのことだった。
………………女性四人も部屋に集めることになることを特に深く考えなかったけど、別日にするべきだったのでは?
ま、まあ大丈夫か。
由奈以外は皆仕事の関係なんだしな。
そんなこんなで、俺がアパートで待機していると……最初にやってきたのは由奈だった。
「良かった、元気そうね」
「学校でも会ってるだろ?」
「そうね。でも、とにかく美咲さんとお父さんが心配しているのよ。……別に何もこっちは気にしないから家に戻ってきたらいいんじゃないの?」
「俺が気にするんだ」
マスコミどもは、俺を犯罪者か何かと勘違いしているかのように追い詰めてくるからな。それを家族にまでやられたら、俺の怒りが治まらない。
「……まあ、とりあえず、夕食作るわね。カレーでいいのよね?」
「ああ。……ちょっと大目に作ってもらってもいいか?」
「なんでよ?」
「神崎が今日ここに来ることになってるんだけど、夕食の話したらそっちで食べたいって言っててな」
「……神崎? ふーん、あそう」
あれ? 由奈がなんだか警戒モードに入っている?
と、とりあえず他にも来ることを伝えておいた方がいいだろう。
「あと、探索者協会の職員である霧島さんとその友人が来ることになってるんだ」
「……探索者協会!? 敵じゃない!」
「い、いや霧島さんは敵じゃないぞ!? 色々と協力してくれてるんだって! 今の俺の状況を打破するための方法も持ってきてくれるってことになってるんだよ!」
「……それ、本当?」
「ああ、本当だ」
「ちなみに性別は?」
「女性だ」
「ハニートラップよ! マスコミとか引き連れて来るわよ絶対!」
「しねぇよ! もしも来たら、お前と一緒に逃げるから安心しろ」
……霧島さんはそんなことしないはずだ。
こ、この思考こそ、ハニートラップにかかっているからなのだろうか?
由奈が変なことを言ったせいで、ちょっと心配になってきてしまった。
そんなことを考えていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。玄関へと向かってみると、そこには神崎がいた。
……一応、彼女は有名人だからか、帽子やマスク、サングラスをつけている。とてもとても、変質者である。
手には何やら分厚い雑誌が握られている。……地図、のようだ。今時、スマホのナビがあるのだから、それを使えばいいのにと思った。
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