第19話


「ど、どうしたんですか急に? そ、そんなに怖かったですか? 切るとかなんとか言ったのは、半分ジョークですよ? だから切るとしても半分くらいですよ?」


 半分切られた時点で大事件だよ!


「違います……それじゃなくてですね。……地元の人以外で初めて信じてくれる人がいて、嬉しかったんです」

「……そうでしたか。……辛かったですね」


 霧島さんが俺のことを抱きかかえるようにして、そっと頭を撫でてくれた。

 胸のある人が包容力のある人だと、俺は思っていた。

 しかし、違うようだ。


「……何か今変なこと考えていませんでしたか?」

「いえ……そんなことないですよ」


 ……情けない姿をいつまでも見せているわけにはいかない。俺は、すぐに涙をこらえ、ぐっと顔をあげる。


「すみません……その……ありがとうございます」

「いえ、気にしないでください。泣かせてしまったのは私ですからね」


 そんなことを彼女が言ったときだった。

 近くに魔物が出現した。

 視線をそちらに向けると……全長三メートルはありそうな鬼の魔物が立っていた。

 デーモンオーガだ。


 そいつの右腕には、その魔物の強さを示すような魔石が埋め込まれており、


「ま、魔石……6個!? そ、それにデーモン種って……へ、ヘル種のさらに上があるなんて……!」


 霧島さんが驚愕の声を漏らしていた。


 魔物については、いくつかの種類がある。

 俺が今までに確認しているのは、ノーマル種、ナイト種、ジェネラル種、シャドウ種、デビル種、ヘル種、デーモン種、ブラッド種、ナイトメア種……そしてアビス種までだ。

 ノーマル種以外の魔物は、前か後にこれらがついていることから、そのように分類されている。


 俺はデーモンオーガをしっかりと見据え、剣を握りしめた。


「まあ、ここからはこういう奴らが出てくるんですよ。まだまだ先がありますよ?」

「……協会への報告は?」

「証拠を持ってこい、でした」

「ですよねー。……大丈夫なんですか?」

「はい――Sランク探索者なので」


 霧島さんが言ってくれた、Sランク探索者として、俺は全力を出す。。

 地面を蹴ってから、デーモンオーガへと突っ込む。


 腰に差していたバレットソードを握りしめると、デーモンオーガが斧を振りぬいてきた。

 だが、遅い。

 すでに俺はその側面へと移動し、デーモンオーガの体を一刀両断した。さらに、空中から飛びかかってきたデーモンワイバーンを銃撃で仕留めた。


 こんなところだ。

 ドロップした魔石を確認してみたが、白色の小さな魔石だ。

 ……一階層でドロップするものとまるで変わらない。やっぱり、不安である。


「……凄いですね、本当に」

「とりあえず、この魔石を持ち帰りましょうか」

「……そうですね。あとは、この階層で収穫できるものがないか、探してみましょう」


 俺はこくりと頷き、そこからはお互いに歩いての移動となる。

 ……この101階層は見晴らしのいい崖がある。そちらへと霧島さんを案内すると、彼女はひえっと声をあげた。


「……な、なんですかこの階層……滅茶苦茶広くないですか?」

「ここからあそこまで飛び降りれば、301階層ですよ」

「……え? 階段以外でも移動できるんですね……飛び降りれば?」

「はい」

「……飛び降りたんですか?」

「もちろん、途中崖を足場に、衝撃を殺しながらですよ?」

「……そこまでは、さすがについていきませんからね」


 顔を青ざめている霧島さんに、俺は苦笑しながら頷いた。


 ひとまず、俺たちは101階層に実っていた果物や石、それに木の枝など、持ち帰れそうなものを色々と回収してから、地上へと戻っていった。





 次の日。


 101階層で回収した素材については、霧島さんが知り合いの研究所に送ってくれるということになった。

 あとは検査結果を待つばかりだ。

 もし、何か新しい発見があれば、それが俺の評価を変えるきっかけになるかもしれない。

 頼むぞ、マジで。

 俺はそう期待しつつ、この1月7日を迎えた。


 母さんと約束した再婚相手の人とそのお子さんに会う日だ。


 会うのはお昼ということになっていて、俺はそれまでダンジョンに潜り続けた。

 今日は大事な用事があるんだから大人しくしていろ、という意味でな。


 ある程度構ってあげたので、半日くらいはもってくれるはずだ。

 そんなこんなで母さんとともに待ち合わせしていたファミレスへと入る。

 先に店内へと入り、しばらく待っていると、


「美咲さん」


 俺の母の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 視線を向けると、そちらには男性がいた。


 年齢は母同じか、少し上くらいだろうか? 眼鏡をかけた穏やかそうな笑顔が印象的な人だった。

 ……少し幸薄そうにも見えるけど、優しそうな笑顔をしている。

 第一印象としては、悪い人ではなさそうだと


「貴志さん、こんにちは」

「こんにちは。久しぶりだね」


 母さんも笑顔を浮かべ、軽く手を振っている。こうやって笑う母さんを見たのは初めてかもしれない。

 そんなことを考えながら、ドリンクバーでもらってきたコーラを口に運ぶ。


 俺たちの目の前の席に座った貴志さんとその隣に座る女性――一応、名前は由奈、と聞いていた。


 ……やべぇ、滅茶苦茶可愛い人だ。ちょっとギャルっぽい派手さはあるけど。

 由奈はにこにこと明るい笑顔を浮かべていた。

 貴志さんの視線がこちらに向いた。


「……初めまして、春風貴志、と申します」


 とりあえず、第一印象は大事だよな。


「どうもです! 天草晴人っていいます。一応、母さんの息子やらせてもらってます! よろしくお願いします!」


 外行きの、明るい笑顔を浮かべ、声を張る。

 ……テレビとかに呼ばれることが多かったからか、こういうところは何か自然と身についてしまっていた。

 これから家族になるんだし、いつまでも愛想笑いを浮かべるわけにはいかないんだけど。

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