第4話
俺もほっと安堵の息を吐いてから、皆とともに外を移動していく。
突き刺すような視線が痛いぜ。桐生さんと口論したから、俺へのヘイトが溜まりまくりだ。俺ってもしかしてタンクがお似合いかもな。
……スタジオの外には、凄まじいくらいの人が集まっていた。
ここに隕石でも落ちたら、大惨事間違いなしという規模。
今の時代SNSとかですぐ居場所が特定されてしまうからな。
生放送なんてしたら人が集まるのは当然だ。
そして、それを見越していたように警備員たちが人を押さえてくれているが、それでも熱狂的なファンたちの声が響く。
「桐生さん!」
「桐生さんこっち見て!」
「神崎さん……!」
もう完全にアイドルのよう扱いである。
耳を澄ませてみるが、俺を呼ぶ声が聞こえてこないぞ? きっと俺のファンたちは皆体調不良なんだろう。それか恥ずかしがり屋だ。うん、きっとそうなんだろう。
俺が一人悲しんでいた時だった。
「え!?」
「きゃあ!?」
「え? 何!? 魔物!?」
突如として外から大きな悲鳴が響いた。見れば、道路のところに大きなイノシシのような魔物――ナイトボアが出現している。
鎧のようなものを身に纏ったそいつの体には黒い魔石が体に三つ埋め込まれている。……黒い魔石が埋め込まれた魔物は異常種であることを示すものだ。
「な、なんということでしょうか!? い、異常種の魔物がこんな街中に――!?」
司会やカメラマンが慌てていたが、桐生さんはすっとカメラに向けて人差し指を立てた。
「ノープロブレム。ここには誰がいると思う?」
桐生さん、その言い方でいつもしてるんですか? ダサいからやめた方がいいですよ、という感覚はどうやら俺らしい。黄色い歓声あがってるよ、マジかよこの人たち。
「……! なんと! これから桐生さんがあの異常種の討伐を行うそうです!!」
「オレたちだ。行くぞ、凛ちゃん」
「名前で呼ばないでください」
俺は? どうやら、桐生さんには俺は見えていないようだ。
感動した様子で司会が声を張り上げると、桐生さんが声を張り上げ、地面を蹴った。
……一応俺も行くとするかね。何もしなかったら、また叩かれちまうしな。
俺もすぐに続こうとしたその時だった。ナイトボアがその鋭い牙を振り上げ、近くにあった車を打ち上げた。
その車は真っすぐに近くを歩いていた子どもたちの方へと向かっていき――。
あの魔物め! 子どもたちを狙いやがって!
桐生さんはまったく子どもの方は見ず、まっすぐにナイトボアへ向かう。
あんたはいつもそうだよな! 苛立ちながら、俺は即座に子どもを助けるために走り出す。
一瞬、神崎と目があった。
「俺あっちいくから」
「……」
俺の言葉にすぐ神崎は頷き、彼女は桐生さんの援護のため魔物の方へと向かう。
……まあ、魔物をさっさと倒した方が被害は押さえられるからな。あっちはあの二人に任せよう。
跳ね飛ばされた車が子どもに当たるより前に、俺は車と子どもたちの間に割り込み、その車を片手で受け止めた。
「大丈夫か?」
「……え?」
車の衝撃を完全に殺した俺は、それを地面に置いた。……車の持ち主さんは運が悪かったな。さすがに、これを修復することは俺にはできん。まあ、魔物関係の被害に関しての保険に入っていればなんとかなるだろう。
そんなことを考えながら、今にも泣きそうな子ども二人を見る。
……お兄ちゃんと思われる子が、妹を守るように抱きかかえていた。
「怪我してないな?」
「……う、うん」
がたがたと震えていて、今にも泣きそうだった子どもの頭を撫でる。
「よく妹を守ろうとしたな。偉い偉い。もう大丈夫だからな」
「……う、うん……っ。ありがとう、おじちゃん!」
「お兄ちゃんだからな?」
まったく。子どもは冗談がうまいぜ。
子どもを元気づけながらナイトボアの方がどうなったかと見てみれば、ありゃりゃ、ナイトボアが可哀想なほどにボコられてる。
神崎の生み出した氷がナイトボアの動きを止め、桐生さん雷がまさにその体を射抜いていた。
凄まじい歓声が上がり、その場は熱狂していた。
……早く戻らないとまた何か言われるだろうしない。
「それじゃあ、気を付けてな」
「……あ、ありがとう、お兄ちゃん!」
俺は子どもに笑顔を返してから、すぐに桐生さんたちの方へと戻っていく。
近づくと、司会の方の興奮しきった様子の声が聞こえてきた。
「すごい! さすが桐生さん、見事な討伐です!」
カメラはナイトボアとの戦いをばっちりとおさめていたようだ。
そのナイトボアはというと、完全に討伐されたのかその死体は霧のようになって消えている。後には、黒い魔石が残っていて、それを桐生さんが回収し、掲げていた。
「桐生さんが、また一つ異常種の討伐数を伸ばしました! 新年早々、素晴らしいスタートですね!」
「ありがとう。今回に関しては、オレと凛ちゃんの討伐数ってことにしておいてほしいね」
おいこら、俺だって子どもの救助したんだから0.5くらいはくれないかな……。
さっき助けた子どもを抱えて、助けましたよー! ……なんて言ってもなぁ。
それって凄いダサい気がする。
「それがいいのではないでしょうか!」
カメラはぐいっと桐生さんへと寄っていき、歓声が場を包んでいる。
……なんかもう、たぶんこれ神社に行く時間の余裕ないだろうなぁ。
そんなことを考えていると、神崎がこちらへとやってきた。
「カメラに映っておかなくていいのか?」
「別に。それより、さっきの子どもたち、大丈夫だった?」
「ああ、特には」
「……それなら良かった」
神崎がそう言って、カメラの方を見ていた。
……とりあえず、怪我人が出なくてよかった。
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