タイムリープが終わったけど、全周回分の好感度がヒロインにインプットされました

カラスバ

第1話

 死。

 それは絶対的な終わりであり、人間は必ずそれに抗う術がない。

 それは唐突に始まり唐突に終わる。

 いきなりやって来たかと思えば、物語とも言える人の人生に終止符を打ち、そして人々を悲しみの縁に追いやる。

 人はだからそれを克服しようと研究を行ってきたし、しかしやはり「そこ」に至る事は現状出来ていない。


 だから、思う。

 あるいは思った。

 もし仮に俺。

 そして俺達がその絶対的な終焉と出くわしてしまったとして、果たして俺はそれを受け入れられる事は出来るのか、と。

 友達、彼女達。

 仲が良い隣人がある日突然その刃に胸を貫かれたとして、俺は果たしてその現実を受け入れられる事が出来るのか。

 ……多分、出来ないだろう。

 きっとその現実を受け入れられないだろうし、しかし世界はそんな俺を置いて動き続けていく事もまた事実。

 だから、人は例え受け入れられなかったとしてもいずれ顔を上げて隣人を置いて先に進まなくてはならないのだろう。 

 それが、世界の理。

 世界のルール。

 

 しかし。

 ……例えば。


 そう、例えばの話なのだ。

 まず仮定としてその隣人が不幸にも死に、亡くなってしまったとして。

 そして俺にはその終焉に抗う術があったとしよう。

 仮定の話であり、これは現実的な話ではないけど、でも。


 例えば、それが可能だったとして、俺は果たしてどのような行動と判断をその時下すのだろうか……?


 ………………


 …………


 ……


 彼女達を守るために始めたこの輪廻は一体どれほど繰り返されただろうか?

 少なくとも100回を超えたあたりから数えていないし、そもそも周回数は大切ではなく、あくまで重要なのは周回によって彼女達を日常に返す事だ。

 ……四人の女の子。

 そのうち、最初に死んだのは俺の幼馴染の草木まことだった。

 偶然の事故……車に轢かれた彼女。

 臓腑が漏れて血が溢れるその様を、今でも鮮明に思い出す事が出来る。

 もはや救う手立てはない。

 そう思った時に、……その輪廻は始まった。

 

 一ヶ月前の今日。

 全てはここに辿り着く。


 最初、幼馴染を救うためにした事と言えば徹底的に周囲を警戒して彼女の隣に居続ける事だった。

 その甲斐もあってか、彼女はその時まで死ぬ事はなかった。


 しかし、今度は後輩の今井なこが死んだ。

 ……自動車事故ではなく、転落。

 窓の外から見えた、降ってきた彼女。

 その影は如何にしてその道を辿ったのかは分からない。

  

 そして……時はまた巻き戻る。

 

 今井なこ、そして草木まこと。

 二人を守ろうとして、奔走して。


 次に死んだのは義妹の高田ゆかり。

 

 ……次に死んだのは、先輩の氷室まどか。



 誰かが死ぬ。

 どうやっても、彼女のうち誰かが死ぬ。

 

 その謎を解き明かすために努力して、果たしてどれほどの年月が経っただろうか?

 分からない。

 ……やはり、時間は関係ない。

 俺にとって重要なのは、彼女達を救ってこの輪廻を脱する事なのだから。


 そして、ついに俺は最期のチャンスを手にする事となる。


 四人達を学校に引き止め、安全な場所にい続けさせる。

 四人のうち誰も欠けてはならないが、運命は必ずしも一人の命を奪うとは限らない。

 複数人死んだ時もあった。

 油断は出来ず、一部に集まる事も危険。

 

 ……あとは、時間の経過を待ち「その時」がやって来て、そして過ぎるのを待つのみ。

 一秒、また一秒と時が過ぎていき。


 そして。











「は?」


 突っ込んでくる車の突進をその身で受けた。

 くるくると、まるでメリーゴーランドのように回る視界の中でふと思う。


 ああ、そう言えば傍観者たる俺が死んだ場合どうなるかを検証してなかったな、と。




  ○



 そして、目を覚ましたら俺は空き教室の机で眠っていた。


「ぇ」


 斜陽に染まった教室。

 起き上がってスマホで時間を確認すると……あの時、その時間。


 誰かが死ぬ時間。


「……っ」


 俺は慌ててそこから離れ、四人の姿を探す。

 やばい、もうじき誰かが死ぬ。

 でも、みんな一体どこに……?


「あ、侑くん」

「先輩」

「お兄ちゃん」

「侑さん?」


 そこには。


 四人の姿があって。

 視界のうちにあった時計は「その時」が過ぎている事を教えて。

 一体、何がと脱力する俺の身体を、四人が支えてくれる。

 そして、言う。


「侑くん、大丈夫だよ? これからは全て私達がなんとかするから」

「先輩はただ、私達に任せてください」

「お兄ちゃんはもう休んで?」

「侑さん、おやすみなさい」


「みん、な?」


 様子のおかしい四人は笑う。




 その意図を尋ねようとし、しかし。

 途端、何故か猛烈な睡魔が俺を襲って来て……

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