夜の静寂

義龍 顎

夜の静寂

夜の帳が降りる頃

空から

黒く ただ黒く つうっと地面に向かって落ちてゆく

地面に到達する前にそれは止まった

瞬く間にするするとそれは足の形を取り

そのまま上に伸びて足を形作り そのまま上に伸びて上半身のような形になった

しゅるしゅると両脇から黒が伸びて 羽ばたくように両腕が現れた

更に上に黒は固まっていく

楕円形の黒の形を取ると 遠くで爆音が聞こえた

バイクや車の集団が暴走して向かってくる

「ハッハァーーーー!!オラオラ進め進めぇええ!!」

道の真ん中に、それがいることに気が付いた

「なんだありゃぁ?」

訝しむこと一瞬、にやりと笑うと

「オラァ!!そのまま進めぇ!!俺達の走りを邪魔するやつは潰しちまえ!!」

集団はそのままそいつに向かった

黒いそれは 右腕を伸ばすとそこからまたするーっと伸びて黒い棒になった

コンッと棒を地面につけると 徐に集団に向かって走り出した


救急車と消防が到着した頃、刑事が現場検証にあたっていた

「こんな酷い現場見たことないぞ、何があったんだ‥?」

バイクも車も全て元の形が分からないくらいに壊され、まだ火を噴いている

乗っていた全員が命があるだけマシな状態だった

そんな中、もう一人の刑事が

「生き残りに話せるのがいましたよ!」

急いでそいつの所にいくと、高校生くらいだろうか少年が震えていた

「おい、何があった?」

少年はがたがたと震えて頭を抱えている

「おい!!話してくれ、何があったんだ?この惨状は誰がやったんだ!?」

びくっと少年は焦点の合ってない目をどこかに向けて、ぼそぼそと話し出した

「あれは‥あんなの人間じゃない‥」

「おい、しっかりしろ!人間じゃないって何なんだ!?」

少年は狂ったように叫び始めた

「黒いやつがやったんだ!!黒いやつが車もバイクも全部壊して仲間を全部壊した!!

俺‥俺怖くて急いで隠れて‥でも見てたんだ!!あいつがやったことを‥」

そして虚ろな目を空へ見上げて叫んだ

「あいつには目も鼻も口も‥顔も無かった!!なのに‥あいつ最後に笑ってた‥

笑ってたんだよ!!」


朝の陽ざしが窓から照って眩しい

いきなり布団が剝がされた

「こーた!!いつまで寝てんだ!!学校遅刻すっぞ!!」

眠い目をこすりながら晃太は大あくびした

下から母親が呼ぶ

「早くしないと本当に遅刻しちゃうわよ!!」

「今行くよぅ・・」

とててと下に降りて洗面台に向かい、顔を洗う

「いつもありがとね、けんちゃん。晃太が遅刻しないで行けてるのはけんちゃんのおかげよ。」

けんちゃんもリビングに降りて晃太を待つ

TVではニュースでバイパスでの事故が流れていた

晃太は着替えて食パンをかじりながら、カバンを背負う

「お待たせ、いこかー」

にこにこと玄関に向かう晃太を見て

呆れ顔のけんちゃんが

「のんきだよなぁ、でもなんか楽しい事でもあったんか?」

「んー、なんとなく夢見が良かったような気がする?」

「なんだよ、女の子の夢でも見てたんかよ?」

「わかんないけど、なんだかいい夢見たような気がするんだ」

晃太はけんちゃんに笑って、学校に向かって走る

その後ろに うっすら黒い影があることに気が付かずに






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