神的禍疵
我社保
針屋敷
1st BLACK「はじめまして」
「…………」
国は日本。東北地方の沿岸部。宮城県気仙沼市。
時刻はちょうど10時に入った頃。所はある民家。2階建て。
そこは10畳ほどの和室。壁は3面本棚。床にも本が積まれていて、それはなにやら「神」だの「妖怪」だのと言う怪しげな題字から、民俗学やらなにやらと真面目な物までひと通り。
民家の玄関に遡ってみる。引き戸の横には「かし屋」と縦書きの木製看板。
ところで、部屋に戻る。
男がいる。数はふたつ。
ひとりは金髪をミディアムウルフのセンターパート、柄物のシャツを着ている人相の悪い男。背は190程の大男。
職業は不動産屋。名は
もうひとりは腰のあたりまである黒い長髪を頭の後ろでひとまとめにして馬の尻尾の様にぶら下げている細身の男。背は175程。
職業は心的瑕疵の解消人。名は
「てめぇ……」
伊達は言う。
「なんで事務所が本で溢れ返ってんだ?」
「そこに本があるからでは? 伊達クン、君は本のない空間が本で溢れ返る、なんていう不可思議な現象が起こるとでも言うのかい? しかし呆れ返るね、君は確か『常識を弁えろ』が口癖だった筈では? だというのに全く……」
「なんで全部屋本で埋め尽くされてんだって言ってんだよ」
「全ての部屋を本で埋め尽くしたからだが?」
あ、キレそう。
伊達は思う。
「こんな量の本を何処で手に入れてきたんだよ。古本だとしても1万2万じゃ手に入らねえ量だろ」
「それは君、頭を使いたまえ」
「というと?」
「先月近くの古本屋がとうとう潰れたろう。山岡さん地だ。すると、無論本が多く遺されることになる。山岡さんは滅多にない位の本狂いであったから、居住スペースにあった7000冊弱、売り場に並んでいた9000冊弱、倉にあった2万冊。それらすべてが回収に出される訳だ。だから、回収される前に回収してきた」
「ひとりでやったのか?」
「見てわからないかい?」
富澤は筋肉痛に震える白すぎる手足を見せつけた。
「努力家の馬鹿は恐ろしいな」
「ところで君、仕事はあるかい」
「あるぜ」
◆
「針屋敷っつって、ここら辺じゃ有名な心霊屋敷だったらしい。Wetuberなんかもたまに来てたらしくて、管理人の名簿には『○月○日 Wetuberの××××さんが来訪』なんて5つくらい書いてあったぜ」
「ほーん。そうかい」
「管理人が死んだ途端、中高生やらフリーターやら大学生やらがわんさか訪れたらしいが……そのいずれもが奇怪な死を遂げている」
「管理人の死因は?」
「純粋に病気。享年89歳だったらしい」
「おお、長生きだね」
「針屋敷は2009年12月に一家心中があった。失業した男が家族を道連れにしたんだな」
「一家心中かァ。そういうタイプはあれだね、交渉には応じてくれなさそうだね」
「しんどそうだな」
「いや……大した事はないさ」
「ほう?」
「力の伊達と知恵の富澤が肩並べてるんだ。無敵だろ」
「そうかい。……そりゃ良い」
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