~ ITO ~ (糸)

伊賀ヒロシ

~ ITO ~ (糸)

― 報せが届いた。その瞬間の気持ちは正直「無」だった。


年を重ねても、「友達」とか「恋人」という言葉の意味や感覚的なモノがいまいち分かっていないのかもしれない。

そんな自分でも、振り返ってみると、自分が出会った仲間や昔の恋人の顔がたまに浮かぶ事がある。

その思い出せる事のほとんどは「楽しい」事だ。

前向き思考なせいか、嫌な事はほとんど考えないし思い出す事もない。

どこかで心の中にある嫌な「重い」は消し去ろうとしているのだと思う。

同じ「おもい」でも、自分に必要な言葉だけを残したいという我儘な性格からなのかもしれない。


― そう・・・「想い」だけが残ればいいから。


そんな中でも、「男性」という生き物は昔の恋人をアルバムの中に残しておけるが、それとは逆に、「女性」という生き物は毎回綺麗に捨てる事が出来る。

「保存」と「消去」の違いだが、かなりの差がソコにはあるように思える。

結局は、動物的な感覚の違いだと思うが、男性は「想い出」にし、女性は「重い出」にする事も出来るから、寧ろ女性の方が前向きで良いのかもしれない。


良い想い出、悪い想い出、どちらも沢山あるが、最近ではそれら全ての出来事の数々が過ぎ去っていく時間が、あまりにも早過ぎると感じる事が増えたような気がする。


「つい、この間だったのに・・・。」


と、思う事が多くなった。

だからこそ、一日を大切にしたいと思えるようになったのかもしれない。

何となく過ごしていた時間を、深く噛みしめながら進めるように・・・。


目を閉じ、頭の中で思い出そうとする映像の数々を並べると・・・。

お互いが笑っていた姿だけが映し出される。

つまらない事で喧嘩をした事も、それら全てが今となっては笑える出来事だったような気がする・・・、というか喧嘩の理由すら思い出せない程に。

その笑顔が今では「想い出」というアルバムの中だけに残されているのかと思うと、もう「それ」を他の誰もが見る事が出来ないのだと考えると・・・、不思議と言葉にならない気持ちが湧き上がってくる。

それは虚しさなのか、悲しさなのか、懐かしさなのか・・・時が経った今でもまるっきり分からない。

勿論、「友達」や「親」のそれとも違うのかもしれない。

きっとそれは、自分にとって良い「想い出」だったから。

現に、笑顔しか思い出せないから。

(線のように)なった君の目しか思い出せないから・・・。


切れていた縁を、不思議とその(出来事)が「ITO」の様に結び付けてくれた。

そして、忘れていた記憶をまた紡いでくれる。

だからこそ、この気持ちを言葉にするのも受け入れるのも難しいのかもしれない。


この瞬間、その「笑顔」が皆の心の中に映し出され、「想い出」と共に皆が心でお酒を酌み交わしているのが目に浮かぶ。


― 誰にとっても、「楽しい想い出」として ―


そして、今度は病気の存在しない世界で会えると良いよね。


初めての「恋」に感謝して・・・。

初めての「別れ」に思い募らせて・・・。


次に会う時は痛みのない、誰にでも優しい世界で会えるのだと信じて。


最初に笑顔を見せてくれて・・・ありがとう。


R.I.P






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