第55話
「ぼくは常々思うんですが、みんな集合が早すぎるよね。」
ついに2回めのアルバイト合宿の日が来た。今回のメンバーは、ぼく、園山さん、吉田さん。
よーし、なんかもう深く考えなくても良い気がしてきたぞ。
高校生くらいになると、連れ立ってアルバイトとかやる気がしてきた。
ぼくが今まで経験してなかっただけで、世の中の高校生はみんなやってるんだろう。
あ、ほら、マックとかも高校生グループでやったりするじゃない?多分。
「おはよう、あなた。」
「おはよう、園山さん。今回もよろしくね。」
「ええ。」
園山さんは二回目ともなれば慣れたものなのか、澄ました顔でいる。
対照的に、ものすごい緊張が伝わってくるのが吉田さん。
「お、おはよう、ございます!!」
「おはよう、吉田さん。そんな緊張しなくても大丈夫だよ。」
「は、はい!がんばります!」
「全然、緊張が取れていない……。」
わかっていたことではある。初めていく場所、初めてやるアルバイト、緊張しないわけがなく……。
いずれにしても、行くだけで時間がかかるのでその間に緊張はほぐしてもらおうじゃないの。
「じゃあ、出発しようか!」
「……おー。」
「お、おー。」
大丈夫か?
□□□□□
新幹線ほどではないにしろ、快速で進んでいく列車に乗って、ぼくたちは進んでいく。
吉田さんは、だんだんと緊張もほぐれて、笑顔も見えてきた。良かった。
ここでガチガチになってるようだとアルバイトに影響あるからね……マジで。
「だんだん、いい雰囲気の風景になってきましたね。」
吉田さんが言う。車窓の外を見やると、ロードサイドは終わり、山の風景が圧倒的に視界を覆うようになってきていた。
「そうだね、これだけ自然だらけだともう逆に諦めがつくというか。」
「フフフッ、そうですね。自然を楽しまないとって気持ちになりますよね。」
そう笑う吉田さんの笑顔は素敵だ。
しかし、次には少し怪訝そうな顔をして、こう言う。
「でも、なんで園山さんが隣に座ってるんですか。」
そうなのだ、最初にボックスシートに着席したとき、園山さんは迷わずぼくの隣に腰掛けた。
そして、ぼくによりかかって窓の外を眺めている。
窓の外を見たかったら、窓側に座ればよかったじゃないの。
「なんでだろうね、なんで?園山さん。」
「たまたまです。」
「たまたまじゃないでしょう?!だって、まだ選択肢が3つある状況から悩まずに1番をチョイスしてたじゃないですか!」
「そんなことありませんよ。0番も悩みました。」
「0番って?0番は選択肢にないよ!?あ、もしかして彼の膝の上に座るつもりだったの!??そんなチョイスあります?」
吉田さん、朝からテンション高いなあ……。そもそも、園山さんのせいである気がするけど。
ぼくとしても、膝の上に座られるのはちょっと、いや大分まずい気がする。
「もう、園山さんもこっちに座って!」
園山さんはいつもの無表情だ。
でも、露骨に嫌そうな雰囲気を出している。
「嫌そうな顔してもだめ!自制心!自制心!」
「仕方ありませんね……。」
不承不承という感じで、園山さんは吉田さんの隣に座り直した。
……二人の顔がよく見える。
ぼくは美少女ふたりを目の前にして、少し落ち着かない気持ちを持て余している。
「ちょっとお菓子でもつまもうか、みんなで食べようと思って持ってきたんだ。」
「ありがとうございます。アルバイトに押しかけたのに……。」
「いいんだよ、みんなでやったほうが楽しい、と思う。」
そんなことを言っている間、園山さんはぼくの持ってきたポッキーを黙々と食べていた。
「もう一つください。」
「あんまり食べすぎると、お昼ゴハン食べられなくなるからダメ。」
「むう……。」
不満そうな園山さん。ぼくは小さくため息をつくと、カバンからもう一つ出した。
「……あたりめ。」
「あたりめ、好きだって言ってたでしょ。これなら、ゆっくり食べられるから。」
「ありがとうございます。」
ぼくからあたりめを受け取ると、ゆっくりと咀嚼しはじめた。
その様子を吉田さんが見ている。
「あ、ごめんね、仲間はずれみたいにして。」
「え、いいえ、全然、そんなことないですよ。」
「あ、あたりめ食べる?」
「あ、あたりめ、じゃあ、はい。」
そういうと、吉田さんは、口を開けて待っている。
あ、これ、あーんじゃない?あーんしろってこと?どういうアレなの。ぼくに対するハードル高い。
ぼくがまごついていると、園山さんが、ぼくの手からあたりめを受け取ると、吉田さんの口に入れた。
「むう……。そうじゃないんですけど。」
「おいしいあたりめよ。」
吉田さんは少し不満そうに口をもぐもぐ動かしている。
これ、あれ?百合ってやつ?ちょっとドキドキしちゃうな。
□□□□□□□
「れーくん!久しぶり!」
「美智夏さん、今回もお世話になります。」
「いいってこと!あ、あなたが吉田さん?可愛いわね!え?でも、彼女二人目!?」
「は、初めまして。よろしくおねがいします。」
「……彼女じゃありません。」
「なんで風香ちゃんが否定するの?あ、彼女の座は渡さない的な!?」
「園山さんも彼女じゃないから!二人とも友達!吉田さん、こちら、ぼくの叔母さんの滝沢美智夏さん。」
「吉田美優です、お友達です。」
「はいはい、よろしくね!じゃあ、みんな車に乗って!オーバーライド!」
美智夏さんは相変わらずすごい勢いだ。
そして、ぼくたちは、またあのコテージへ。
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