第25話
「私、今までずっと静かな優等生美少女だったじゃないですか。でもこれだとまずいって思って。キャラかぶってるって。」
「いやあ、かぶってないと思うよ。」
吉田美優ちゃんは私の友達だ。
本人が最初に述べたように、おとなしい優等生キャラで売ってた(というか、それが素らしい)んだけど、キャラ変に挑戦しているようだ。
またなんで?と思って話を聞くと、どうも美優ちゃんのことを助けたカレに関係しているらしい。
カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。
放課後のコーヒー・ショップで、今は私と美優ちゃんだけ、テーブルに座って話している。
「ていうか、自分で言っちゃうんだ、優等生って。」
「あくまでイメージですけど……コホン、それはともかくとして……。なんか、彼、助けてくれたときにすごく怪我しちゃって、それで申し訳なくって。なんかお礼しなきゃって思ったんです。」
「そうだね、カレ、ものすごく頑張って美優ちゃんのこと助けてくれたみたいだね。」
「だから、ホントはもっとお礼したかったのに、ただお昼をごちそうすることになって。」
「いいじゃない。本人がいいって言ってるんだしさ。あんまり優しくしたらつけあがっちゃうよ。」
「そのお昼だって、本当に頼み込んでやっとそれでいいって言ってくれたんですよ。」
カレ、本当に欲が無いな。
ていうか美優ちゃんは普通に可愛いし、性格も優しくて穏やかで、ハッキリ言ってつきあいたいと思ってる男の子が一山いくらでいるんじゃないかな。
私のもうひとりのお友達、園山風香ちゃんに告白して、フラレて、それ以降、カレが誰かを好きだとか、告白したって話しは聞かない。
なんだろう……特殊な好みの人……?でも風香ちゃんを好きになったんだから普通だよね……。
「それで、おでかけして、お昼をごちそうすることになったんですけど。」
「ああ、うん、知ってる……。」
「あ、そうでしたね、
ごめん、美優ちゃん。私達、あなたたちをずっと見てたの。覗いてたの。
でも私がやりたかったんじゃないんだよ?風香ちゃんがどうしても、どうしても見届けないとって言うから!
私のウデ、もげそうになったからね、それで。
「彼、待ち合わせして、会った時に、すごい自然に服を褒めてくれて……。」
「そうなんだ、割と、気遣いできるんだね。」
「それで、ピオンモールに着いたら、『寒くない?』ってすごい自然に訊いてくれて。」
「……それ、彼女もちでもなかなかできないことだよ。」
ホントどうなってんだ、カレは?ジゴロスキル高すぎないか?
「そ、それで、元はといえば身体張って助けてくれたんですよ?これ、好きになるなって方が無理じゃないですか?」
美優ちゃんの顔が真っ赤になっている。
そ、そうだね、これだけ優しくしてくれて、嬉しいこといっぱい言ってくれたら、好きになっちゃうかもね。
これ、美優ちゃん、チョロすぎたかなって思ってたけど、カレの女たらしレベルが高すぎるわ。
「なんか、でも、園山さんと仲がいいですよね……。」
「風香ちゃん、カレから告白されてるし。」
「そうですよね、やっぱり付き合ってるのかな。」
「え、風香ちゃん、断ったって言ってるよ。」
美優ちゃんが、そんな馬鹿なって顔で私のことを見てる。
そうだよね、そうなるよ。なんで、フッた相手と仲良くお昼食べたり、一緒に帰ったりしてんのって思うよね。
でも、それについては安心してください。
私もわかりません。
「じゃあ、私にもまだチャンスがあるってことだ。」
「すごいいきなり前向きじゃん。」
「どうしたらお付き合いできるでしょうか?」
「すごいガツガツ来たじゃん。告白されまくって迷惑してた子が。」
「だって、知らない人から告白されたって付き合えるわけないじゃないですか。いきなり告白されたってこわいだけですよ。」
「それもそうだね。」
「だから、あの人のこと、もっと知りたいんですけど、なんか、女の子として意識されてない気もして。」
いや、女の子だと思ってなかったら、服を褒めたり、体調を気にしたりしないと思うな。
なんか、自然と女の子と付き合うスキルが高すぎるのか?意識せずにやってるかも。
「大丈夫だと思うよ。」
「本当ですか?」
「うん、多分。ていうか、美優ちゃんと一緒にいて好きにならない男の子なんていないよ。」
「そうかなあ……。」
勢いがあったかと思ったら、不安になっている。カレが、はっきりしないからだ。
いや、実は今の所ハッキリしている。カレは優しすぎる。誰にでも優しい。
だから、誰もカレの特別ではないのだ。
「どうしたらいいでしょうか。」
「そうだなあ、やっぱり女の子として意識してもらうのが大事じゃない。」
「なるほど。ってやっぱり意識されてないって思ってたんですね!」
「まあ、ちょっと自信なくて。それはそうと、一回はデートに行ってるんだから、またデートしてみたら?さすがに二人きりで何度も出かけたら意識すると思うよ。」
「そ、そうですね。でも、どうやって誘いましょうか。」
「そ、そうだなあ……。」
あれこれと二人で誘う口実を考える。
悩みの渦中にいる美優ちゃんだけど、そうやって次のデートについて考えているときの彼女は今までで一番可愛い表情だった。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
今までの私ならこんなことで悩んだりするだろうか。この締め付けるような胸の内を、どうしたものかと持て余して。
そして、昼休み、私は屋上で懊悩していた。
そもそも、私、高須花江には同性の友人が少ない……。
それは、今までの私の生き方に問題があるということだろう。
クラスメイトたちが友人を作って友情を深める中、私はといえば、自分の興味があるシミュレーション・ゲームの部活を立ち上げたり、それに付随して勉強をしたり、あとは、生徒会の手伝いをしたりといったところか、自分の気が赴くままに突っ走っていたら周りには誰もいない、そんなことに気がついたのはついぞ今なのである。
「おまたせ、
「おお、来てくれたか、不動。」
灰色がかったショートヘアが特徴を持つ美人の彼女は、何を隠そう生徒会長の
私が生徒会の手伝いをやらされているのも、ひとえに彼女のせいでもあるのだが、まあ今はいい。とにかく、相談できる相手が欲しかったのだ。
何を相談するのか。
それは……そう、私のことを助けてくれた後輩のことだ。
弁当を二人で広げながら、私はポツポツと話し始める。
「その、だな。なんと言うか、最近、自分の気持ちがわからないのだ。」
「あの何でも断言して、すべて実行に移してきた花がそんなことを言うなんて、明日は雨かしら。」
口元をそっと手で隠して上品に不動は笑う。笑われた私としては癪だが、今までの振る舞いを思えば仕方ない。
「部活のだな、後輩くんは、なんでも無い、ゲーム友達みたいなもんだったんだ。私ひとりだけ息巻いて作った歴史研究会に入ってくれて、私の相手をしてくれていた。」
「そうね、それまで、ずっと活動らしい活動はできてなかったものね。去年は三年生の人たちがいたけれど。」
「だから、親切なヤツだな、くらいしか思っていなかった。」
ブロッコリーを箸でつつく。ぽろりと小さな房が別れて落ちる。
「だが、この前、天野に呼び出されて、交際を申し込まれたときに……。」
「え、天野くん、そんなことしたの。へえ、あの天野くんが。天野くん自体、女子から人気だったはずだけど。」
「そ、そうなのか、ついぞ知らなかった。」
「そりゃ、花はそうでしょうね。興味なさそうだったし。」
「それで、その、交際は断ったんだが……そのあとが良くなくて……。」
自分の失敗を詳らかにしなければならないというのは、これはバツが悪い。しかし、不動は信頼できる友人だ、話してしまおう。
「つい、あれこれと天野を責めることを言い立ててしまったんだ。それで、天野も怒って。」
「花、あなたそういうところあるけど、今回ばかりはやらかしたわねえ。」
「う、ま、まあそうなんだ。それで怒った天野を止めてくれたんだ。」
「その、後輩くんが?」
「そ、そうだ。部活のことで迎えに来てくれたんだと思うが、天野と私の間に割って入ってくれて。」
「へえ、随分と勇気があるのね。」
そうだ、後輩くん、いつもは穏やかにしているが、あんな荒事に割って入る勇気があるとは思ってもみなかった。
「天野を止めてくれたばかりか、言い過ぎた私にも諭すようなことを言ってくれて……。」
「なんか、さっきから聞いてると、花、後輩くんのこと……。」
「ああ、そうなんだ、気になって仕方ないんだ。どう思う?これは、いっときの気の迷いだろうか。」
あれからもう、後輩くんのことばかり気になってしまって、何も手につかなくなってしまったのだ。
別に今まではなんてこと無い、同じ部活の後輩だった彼のことが、ふとした瞬間にあれこれと思い浮かんでしまうのだ。
「これは重症ですね。」
「じゅ、重症か?」
「そもそも、花は男の子と交際したいなんて思ったことなかったんじゃないっけ。」
そうだ、恥ずかしながら私、高須花江は、今のいままで誰かを好きになったことなど無かった。だからこそ、この気持ちが好きなのか、それとも別のなにかなのか、確証が得られなくてずっと悩んでいるのだ。
「男女交際など、学生の本分に反するとかってことも言ってたような。」
「ああああ、やめてくれ!そのことを言うのは!!!」
穴があったら入りたい!得意になってそう言い放っていた私を殴りつけてやりたい!
まさか、自分が言い放った言葉に苦しめられることになるとは!!
「リア王だってこんな苦しめられなかっただろう。」
「いや、リア王と比べちゃダメでしょ。」
「ところでどうだと思う?これははしかみたいなもんで、いずれ治るもんだろうか。」
「そう言ったところで、花は納得できるの?」
「……わからないが、正直、納得できるまいね。」
私の答えをきくと、不動はため息をひとつ大げさに吐いた。
「恋なのかどうか、それはもう確かめてみるしかないんじゃない。」
「恋」、その言葉を聞いたとき、私の心臓は大きく跳ねた。
「確かめるって、どうやって……。」
「それはもちろん、デートよ。」
「で、ででで、デート?」
「しばらく二人きりで遊んだり、ご飯食べたりして過ごして、もっと一緒にいたいって思ったらそれはもう恋よ。」
「ふ、ふふふ、二人きり?」
「当たり前でしょ、保護者同伴でいくデートなんてありえないし。」
「いや、まあ、もちろんそうだが、二人きりじゃないとダメか?二人きりになったら、死んでしまうかもしれない。」
「なんでそんな、ミステリものみたいなことになるの。」
「そういうわけじゃないんだが、だいいち交際してないのにデートなんてしていいのか?」
「別にキスしたりするわけじゃあないんだから、いいと思うけどなあ。」
「き、キス?き、キス?」
「なんで二回言ったの。」
「い、いや、なんでもない。」
私の視線は、さっきから泳ぎっぱなしだった。せっかく相談に乗ってくれている不動ですら見ていられない。
空は美しい。花壇には綺麗な花が咲いている。
だが、私の目は何も見ていなかった。
「し、しかし、デートか……。」
「そうそう、まずは同じ時間を過ごすところから。」
行くと決まったわけでもないのに、私の気持ちは浮ついて、どこに行くのかを考えていた。
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