カクヨム企業案件はオススメしない

ちびまるフォイ

神が死んでから始まる世界

「うちはサブスクのお弁当宅配サービスをやっていましてね」


「はあ。それが僕の執筆活動となんの関係が?」


「うちのお弁当サービスを使いたくなるような

 そんな宣伝小説を書いてほしいわけですよ」


「そんな無茶な……」


「なんでもいいんです。弁当食べて強くなるとか」


「いやでも僕にも作者としてのプライドがあります。

 小説家を目指したのもまだ世にない不思議を伝えるためーー」


「もちろん報酬ははずみますよ」


「やります! やらせてください!!!」


こうして企業案件小説の執筆がスタートした。


好き勝手書ける自分のオリジナル小説と異なり、

企業案件ともなると相手の顔も立てなくちゃいけない。


「うーーん。結構むずかしいなぁ。

 サブスク弁当で栄養と時間を効率的に手に入れたことで

 学校でモテモテハッピーという展開は思いつくけど……露骨すぎるか」


事前に企業側からは"あくまでもバレないように"と釘を刺されている。

露骨すぎるとかえって印象操作企業だと思われるから避けたいとのこと。


だからってバレないように隠しすぎると、

今度はそれはそれでアピールできなくなるので

企業案件の商品PR小説としては不十分だろう。


この塩梅が意外にむずかしい。



数日後、完成した作品を企業担当に見せた。



「すばらしい! 露骨すぎず、ちゃんとアピールできてます!」


「本当ですか。よかったです」


「ヒロインも主人公も料理が下手。

 でもヒロインは自分が料理上手と見せるため

 うちのサブスク弁当をそのまま横流しするという設定。

 

 うーーん、キャラの個性もたてつつ、うちの商品アピールにもつながってる。

 あなたは天才です! よっ! 国家主席!」


「ははは。照れますね」


「こういっちゃなんですが、あなたは小説家としては二流でも

 企業案件小説家としては超一流かもしれませんね!」


「褒めてます?」

「褒めちぎってます」


その賛辞はほんもののようで、この仕事ぶりが評価され

次々に他の企業からのオファーが止まらなくなった。


「うちの洗剤を使って小説を!」

「うちの大型テレビを!」

「うちの十徳ナイフをぜひ!」


「おまかせください! どんなゴミでも書き上げてみせますよ!」


小説そのもの評価は真剣なゼミについてくる

おまけの漫画くらいの評価しか得られなかったが、

企業から入ってくる報酬金があるのでもはや気にならない。


企業案件の筆頭小説家として、そのかいわいでは名を馳せた。


しかし、そんな企業案件の小説だともしらない読者が残したコメントがふと気にかかる。



>くそつまんね



たった1文だった。

SNSで気軽にコメントするくらいのノリでも、効果ばつぐんだった。


「ぐ、ぐぬぬぬ……。こちとら企業の顔を立てつつ

 そこそこおもしろいものを書かなくちゃいけない苦労も知らないくせに。

 この小説がどれだけ高等かも知らないくせに!!」


どんなに自己弁護を重ねても、

そんな事情を知らない読者が「つまんない」と評したことが辛かった。


「おうおうおう、それじゃあ見せてやるよ!

 企業案件でつちかった僕の執筆技術を!!

 バカ面白いオリジナルを書いてやるとも!!」


企業案件をいったん置いて、オリジナル小説を書くことに決めた。

自分本来の実力を見せつけるときだ。


二足歩行戦闘ロボットに乗るパイロットたちが、

婚活にあけくれるという作品が数日後に爆誕した。


「これは面白いぞ! まちがいなく最高傑作だ!」


自分の子は自分が一番かわいく見える。

そんな自分のお墨付きを得て、鳴り物入りで公開されたはずが小説は大炎上。



>これは働く女性への差別だ!

>これは働くロボットへの冒涜だ!

>これはコメントを書く私への嫌がらせだ!

>これは小説へのアクセスをした光回線への暴力だ!



評価はもちろん低く、むしろ低い評価をすることが正しい風潮すらできた。


このご時世、センシティブな内容を

安易に取り扱ってしまった後悔もあるが

問題はこれを機に企業案件がぱったりこなくなってしまったこと。


「あの前みたいに企業案件書かせてくださいよ」


「ええ……でも、君アレでしょう」


「アレって?」


「すねに傷があるじゃない。企業の悪いイメージになっちゃいそう」


「そんな人を犯罪者みたいに言わないでください。

 ちょっぴり炎上しただけじゃないですか」


「企業はクリーンなイメージが大事だからね。

 たとえどんなに実力があったとしても

 やっぱり世間によく思われない人は使えないよ」


「そんな! それじゃ僕はこれからどう生きていけばいいんですか!」


蜘蛛の子を散らすように企業は去っていった。

お金の関係というのはあまりにあっけなくそっけないものだと悲しくなった。


もうこんな炎上前科一犯の自分に案件小説を与えてくれる人などいない。


これからはまっとうな仕事について、

もやしを食べながらほそぼそと生きていくしかないのだろう。


「ああ……こんな人生を続けるなんて……」


お先真っ暗。

絶望を重ねがけした転落人生に落ち込んだときだった。


めずらしく自分の家に訪問者がやってきた。


「あなたが〇〇さんですね」


「え、ええ」


「企業案件の小説を書いていたとか?」


「昔の話です。今じゃオリジナル小説での炎上案件で、

 もうすっかりどの案件も来なくなりましたよ。あははは」


「でも腕はたしかだとか」


「一時期はそう言われてました」


「実はあなたに書いてほしい小説があります」


「へ? 企業案件ですか?」


「違います。国家主席案件です」


「えええ!?」


「実はこの国の国家主席はあまり支持率がかんばしくない。

 そこで支持率をあげるために国家主席の小説を書いてほしい」


「はあ……」


「報酬はいくらでも出します。企業案件なんか目にならないほど。

 そのかわり。国家主席が無双&大活躍する小説にしてください」


「わっかりました!! なんでも書きます!」


国の一大プロジェクトの一貫をになることとなった。


企業案件で培われた技術をふんだんに活用して執筆をする。


国家主席が困っている人たちを助け。

国家主席があれた土地を大きく発展させ。

国家主席が美女にかこまれチヤホヤされる。


そんな誰もが憧れるヒロイックな国家主席を小説にして書き上げた。


企業案件の集大成ともいえる大傑作の誕生だといえる。


「どうですか! 国家主席が大活躍しているでしょう!」


「これは素晴らしい! コレを読めば国家主席に憧れ

 ひいては支持率向上につながるでしょう!」


「まちがいないです!」


「ただ……」


「ただ?」


国家主席の補佐は最後にひとつだけ条件をつけた。




「不敬すぎるので、冒頭の国家主席がトラックにはねられて

 死んじゃうってのはなんとかなりませんか……?」

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