第2話 ドッペルゲンガー
健康診断と提出の手続きを終えた4人は、再びディストピアの街を歩いていた。街の喧騒は変わらず無機質で、人々はただ目的地に向かって無表情で歩いている。カイは考え事をしていた。申請の手続きは滞りなく終わったが、どうも心に引っかかるものがあった。これで本当に未来が変わるのか、何かが良くなるのか——そんな思いが頭を離れない。ふと、モーリスが隣で突然声を上げた。
「そういえばカイ! さっき医療センターの近くで、そっくりな人を見たけんだけど」
カイは顔をしかめ、モーリスに振り返る。
「俺に似たやつ? まさか。見間違いじゃないのか?」
「いやいや、ほんとに似てたんだって! ちょっと年取ってて髪型も違ったけど顔がそっくりでさ、ビビったわ」
他のメンバーもその話に興味を持ち、アナが尋ねる。
「本当に? それって、カイの親戚とか?」
「いや、そんなはずはない」
カイは首を振る。
「俺には親戚なんてもう残ってないし、知り合いでそんな人もいない。」
ザードがからかうように口を挟む。
「もしかして未来のカイだったんじゃないか? それかカイのクローン!健康診断と一緒にタイムマシンでも手に入れたんだろ。」
モーリスは笑いながらも真剣な様子で続ける。
「でも、ほんとに似てたんだよ! あの人、僕たちを見て何か言いたそうな感じだったんだけど、すぐに人ごみに紛れちゃった。」
カイは少し不安を感じながらも、そんな偶然があるのかと半信半疑だった。
「似た人ってだけだろ。俺たちの知らない何かを気にするだけ損だよ。」
「うーん、でもなあ…」
モーリスはまだ納得していない様子だったが、周囲の目に気づいてそれ以上は追及しなかった。カイは軽く頷きながら前を見据えた。
「俺たちの生きる世界じゃ、何が起こっても不思議じゃない。けど、気にしすぎるのも危険だ。」
4人は黙々と歩き続ける。カイの心には、モーリスの言葉がどこか引っかかっていたが、今はそれを深く考えることもできず、ただ目の前の現実に集中するしかなかった。遂にヴァスティカップ予選が始まる。
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