鎌倉・伊豆旅行記 3
夏休み。みんなと休みを合わせたのは、長期休暇を利用した3泊4日の旅行を計画したからだ。
「どこに行く?」
「っぱ海っしょ!」
「海! 行きた~い」
「いいねえ」
「良いですね」
「決まり、だな」
「おやつは300円までだよ!」
「先生~、バナナはおやつに入りますかぁ~」
すっかりテンションが上がった僕たちは、軽口を叩きながらワイワイと行き先や予定を立てたものである。限られた時間を少しでも有効利用しようと、出発当日は早朝に集合した。僕たちメンバー17人に、栗岡と、その女友達が3人。総勢21人。免許を持つメンバーの所有する、5人乗りの車3台。それに7人乗りのレンタカーを1台借りた。運転できるメンバーは多いので、運転手を交代しながら向かう。目的地は神奈川県、鎌倉市。立派なホテルではなく、小さめの旅館を選んだ。ここで2泊する。
「大仏見たい!」
「銭洗い弁天って知ってる?」
「っぱ江の島っしょ!」
「うーみー!」
出発前からテンション上がりっぱなしの一行。車内でもそれは変わらなかった。僕は免許がないので、後部座席と助手席でナビ役、兼、音楽担当を務めた。サザン、湘南乃風、リップスライム、TUBE、桐谷健太、米津玄師、キマグレン、あいみょん、ジュディマリ、センチバ、家入レオ、AKB……神奈川の歌手や、海に合いそうなハイテンションな曲を中心にセレクトした。玲人と医師の兄弟。僕たち三兄弟。みんなが好きな曲を選んだのは言うまでもない。アゲアゲのミュージック。みんなとの初旅行。まだ暗い国道を、窓を全開にして走った。
僕たちが乗る5人乗りの車は、玲人のものだ。二十歳の誕生日プレゼントに父から贈られたものである。僕と玲人の兄弟の中で、免許を持っているのは野心、玲人、医師の3人。僕は持っていないし、與範はまだ免許を取れない年齢。野心は免許を持っているが、ペーパードライバーなので運転役は控えめにして欲しいと言う。つまり実際に運転をするのは、玲人と医師の2人だ。
この2人は昔から車や乗り物が大好きで、小学校に上がる前は電車や飛行機などの『早くてカッコいい』ものが大好きだった。2人は16歳になるとすぐに原付の免許を取り、18歳の誕生日を待たずして教習所に通って普通免許も取得した。全く乗り物に興味がない僕や、僕の兄弟とは対照的である。積極的に「運転したい」「俺に任せろ」と争うようにハンドルを握ったので、むしろ野心にハンドルを握らせるものか、という勢いであった。
まただ―――何だろう、この感じ。
ここ一ヶ月ほど、眩暈のようなものがする。それほど頻繁に起きるわけではないのだが、頭を思いっきり殴られたような。脳震盪かなにか、脳が揺れるような感覚。最近もあった。寝る前や少し考え事をした時など、世界がぐらぐらと揺れるような。ものすごく気持ちの悪い感覚に陥る。少し休めば治るので、あまり気にしてはいない。変な病気などではないだろう。ただこの時は後部座席のすぐ隣に野心と與範もいたので、頭を抑えて
国道129号を南下する。早朝という事もあり、通りに車の影は少ない。2時間の快適なドライブ。夜が白み始める頃、道の先が開けてきた。「見えた!」「海だぜ、海」テンションが上がり過ぎて、ややお疲れ気味だった面々は、遠くに見える水平線に再びテンション最高潮になる。海岸線を右手に、今度は134号を東進。午前7時。最初の目的地『江の島』に到着した。島へ続く門はもう空いている。島内へと進み奥の駐車場に車を止めた。後ろの3台も続く。
「着いたあ~!」
「まだ早かったか」
「ちょうど良くない?」
「取り敢えず泳ぐか!」
「そうだな」
「賛成!」
「だと思って、下に水着履いてきてるし」
「私も私も!」
「みんな準備いいな」
「あっ、サンダル忘れちゃった~」
車の陰で手早く着ている物を脱ぐ。女性陣も恥じらう様子はなく、ババッと上下着替えた。マネージャーの栗岡は蛍光グリーンの、やや大胆とも思えるハイレグ。普段の栗岡とは全然違う姿にドキッとしてしまった。他の女性陣も、白や濃紺のビキニだったり、ワンピースだったり。色鮮やかで目に毒である。
タオル、小銭、携帯、浮き輪など必要な物だけを持って、来た道を歩いて戻る。途中のショップはまだ開いていない。9時か10時になれば開くだろう、まずひと泳ぎしてからだな、そう言って橋下へ続く階段を下った。
朝早い時間でも、それなりに人がいた。僕たちしかいないのではないかと思っていたので予想外だった。水温はやや低い。まだ気温も上がっていないので、泳いでみると少し寒かった。沖の方まで行ってみたり、パラソルの下で仮眠を取ったり、砂の城を作ろうと試みたり、ビーチサッカーを楽しんだり。各々、思い思いに海を満喫した。
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