ガラス玉と魔法術

冷たい果実

第1話「好きなものの探求活動」

 窓を開けたら汗ばむ暑い風が入ってきていたのに、窓を開けたら涼しい風が入ってくるようになった、私は冷や汗をかきそうなくらい一人迷っていた。

 『自分が好きなものを探求しよう』

そう書かれている黒板を見て、私は配られたプリントと睨めっこをする。また黒板を見て、プリントと睨めっこ。この動作をさっきから何度も繰り返している、もう何度繰り返したのかは解らない。途中、先生が書いているのかを見に回ってくるが、私は書いているふりをして誤魔化していた。

「自分の好きなもの、か…」

別に好きなものがないわけじゃない、好きなものがありすぎて選べないのでもない。ただ、自分の好きなものを正直に書くべきなのか迷っているのだ。授業が終わるまであと二十分、もうそろそろ決めないと、自分のプリントが埋まらず遅れてしまう、けれどなかなか決められない、決断ができないのだ。だが時間は刻々と迫って来る。仕方なく私は二つある内の一つであり、みんなに受け入れられやすい『読書』を選んだところでちょうどチャイムがなった。

「はい、じゃあこのプリント次回までに仕上げておいてね。じゃあ、起立、礼。」

「ありがとうございましたー。」

先生の号令が終わった瞬間、私は焦りを覚えた。提出は次回なのに好きなものを決めただけで終わっていない、しかもそもそも書き始めていないからだ。

「次回っていつだ…?待って、明日じゃん!うわぁ、今日寝るの遅くなる…!」

そんな焦っている由良のもとに、小学4年生の時からの幼馴染である宮地萌夏がやってきた。

「ゆーらっ! 好きなもの何にした?やっぱり読書⁉︎アニメ⁉︎ 魔法⁉︎」

「最後の二つは萌夏のでしょ(笑)。私は読書にしたよ?でも、決めるのに時間がかかっちゃって、プリント書き終わらなさそう…。」

「そっか、頑張ってとしか言えないな…。でも、間に合わないっていうのは由良の満足のいくところまで持っていくのに、でしょ?私毎回思うけど、そこまで…」

「いやいや、ちゃんとやるべきでしょ、授業だし、成績つくんだよ?それに今回好きなもの決めただけで終わったから!」

「まぁ、そうだけど…。真面目かっ!」

そう言って萌夏は急に私を小突き、小突かれた私は痛がったフリをした。

「あ、そうそう、今日も駅近のカフェ行かない?」

「いいよ、萌夏の部活が終わるのここで待ってるね。頑張って。」

「ありがと~!行ってきます!」

そう言って彼女が美術部へ行ったのを見送ると、私はさっきの授業の続きをやり始めた。

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