第10話 兄弟

「あ、あの……はじめましてお兄様」


「お久しぶりです、兄さん。病気が治ったそうで」


教育の話の後、俺は別室で待機していた弟二人と会わされた。

片方は10歳ほどで、もう片方は7、8歳ぐらいだろうと思われる。


名前は兄二人と同じで、ガイツとタスクな訳だが……


勿論初対面の俺にはどちらがガイツで、どちらがタスクなのかの判別すら出来ない。

ほんと誰だよこいつら。


「7年間も顔を合わせていないから、殆ど初対面の様なものだ。お互い、自己紹介でもしないか?」


知ってないのは若干不味そうなので、とりあえず相手の事を把握するため自己紹介しようと誘ってみた。

流れで名前を把握できるかもしれない。


「そうね。一緒に居た時間よりも、離れていた時間の方が長いんだもの。それがいいわね」


俺の提案に母親が賛同した。

因みに病気の設定や、どこで生活していたかなどのレクチャーは軽く受けている。

なので俺はそれをそのまま説明するだけでいい。


「じゃ、じゃあ僕から」


小さいほうの弟が真っ先に名乗りを上げる。


「ふふ、じゃあタスクからね」


母が名を呼んでくれたおかげで、とりあえず弟達の名前が確定する。


一番知りたい部分が分はもうわかった。

なので正直、もう自己紹介を終わらせてもいいぐらいな訳だが……まあ当然そうはいかないわな。


「ぼ、ぼく魔法が使えるようになったんです。属性は風で、だから得意魔法は風魔法です」


「その歳でもう魔法が使えるのか。凄いな」


「は、はい」


俺が褒めると、タスクが嬉しそうに笑う。

どうもこいつは人懐っこい性格をしているようだな。


年齢的に、生まれてすぐ辺りに俺は閉じ込められている事になる。

だから少なくとも、こいつは俺の事を全く覚えていないはずだ。

普通なら赤の他人に近い相手にもかかわらず積極的にきてるので、そう考えて間違いないだろう。


「それと最近、ひぃーちゃんを飼う事になったんです」


「ひぃーちゃん?」


「小鳥の事ですよ」


母親が補足してくれた。

笑顔で名前だけ言われても困る。


「はい!青くて小さくて、とっても可愛いんです」


俺の中での鳥は、食べ物に分類される存在だ。

コイツも鳥ぐらいは食べた事があるはずだろうに、よくそんな物を愛玩動物として飼う気になれるものである。


……まあ食用とは種類が違うからという区分なのかもしれないが。


「それでですね」


弟の飼っている鳥の話が続く。

果てしなくどうでもいい事なので、その辺りはさらりと聞き流しておいた。

完全に時間の無駄以外何物でもないからな。


しかしコイツ、よくもまあこれだけ延々しゃべれるものだ。

ある意味感心する。


「それでですね」


「タスクそれぐらいにしておきなさい。貴方のお話だけで日が暮れてしまうわ」


「あ……そうですね。お兄様と会えたのがうれしくてつい……」


母が止めた所でやっと話が終わり、つぎはガイツの話に移る。


「えっと……僕は将来、立派な騎士になりたいと思っています」


ガイツの話は、将来騎士になり、俺の右腕として支えていきたいといった無難な感じだ。

人懐こいタスクと比べ、こいつからは強い警戒に近い壁の様な物を感じる。


まあ7年前なら既に三才な訳だからな。

その当時の記憶があるのなら、俺が本当は病気ではなく別の理由で閉じ込められていたって事に感づいているのかもしれない。


ひょっとしたら、何らかの形で俺が闇属性である事すら知っている可能性も……


流石にそれは考え過ぎか。

まあ仲良しこよしをする気もないので、警戒されていても問題はないので壁は放置でいいだろう。


「さて、最後は私だな。お前達も父上達から話を聞いて知っているとは思うが……」


俺は自分がどういう病気で、どういう生活をしていたかと言う作り話を淡々と話す。

そこに余計なアレンジは加えない。

そういうのはボロが出る要因になるだけだからな。


まあそこまで強く警戒する必要はないだろうが、余計な事はしないに限る。

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