32 おせっかい

 朝から俺のそばで猫の動画を観ている花柳。

 起きたら先に準備をしてもいいのに、さっきからずっと動画を観ていたような気がする。その音が聞こえてきたからさ。そして目を開けた時……、薄着姿の花柳がこっちを見てニコニコする。


 一応俺が買ってあげた部屋着なんだけど、急に捨てたくなった。

 てか、小春さん。これほぼ下着じゃないんですか? 今更だけど……。

 そしてじっと花柳を見るのもあれだから、すぐ彼女から目を逸らす俺だった。


「千秋くん、おはよう」

「おはようございます。小冬さん」

「朝ご飯! 何食べる?」

「えっと……、何でもいいです。適当に作ってください」

「分かった……!」

「そしてシャツを着てください。小冬さん」

「なんで?」


 本当に知らないのか……。

 でも、こっちを見て首を傾げる花柳になぜかすぐ言えない俺だった。

 それに俺はちゃんとシャツまで買ってあげたのに、どうしてそれだけタンスの中に入れておいたんだろう。分からない……。そして花柳ははっきり言ってあげないとすぐ気づかない人だからさ。


 仕方がない。


「その格好がエロいからです」

「えっ? エロいの? 私が?」

「はい。少なくとも俺にはそう見えますので、必ず上にTシャツを着てください」


 花柳が美少女なのは否定できない。

 そんな可愛い女の子が薄着姿で目の前でじっとしているのは、多分……男である俺に幸運かもしれない。それに毎晩同じベッドで寝てるし、朝起きると美少女の無防備な姿が見えてくる。そんな生活を過ごしていた。


 すごく恥ずかしいけどさ。


「どこがエロいの!? 分かんない! 別に全裸を見せてるわけでもないし……! 私……、お姉ちゃんと住んでいた時もこんな感じだったからね! 女の子は普通こんな格好してるの!」

「そ、そうですか……?」

「そうだよ……。それにそう言ってる千秋くんこそ! き、昨日……! バイト先で私に半裸を見せたんでしょ!? そっちの方がもっとエロい! そもそも女の子の前で何気なく脱ぐなんて! 正気なの!? 千秋くん!!!」

「えっ?」


 急に声を上げる花柳に眠気が覚める。怒られた……。

 てか、それは花柳も一緒だった気がするけど、怒られたくないからそのままじっとしていた。


「でも、男の体はそんなにエロくないですから……。なんか、まな板みたいな感じじゃないですか?」

「それがいいの!」

「はい?」

「な、なんでもなーい!!!!! 早く歯磨きして! 洗顔して! そして朝ご飯食べなさい!」

「はい……」


 また怒られた……。よく分からない。


 ……


「ねえ、千秋くん」


 そして一緒に登校をしている二人、そばにいる花柳が俺の脇腹をつつく。


「ど、どうしましたか?」

「私、最近悪夢を見ないようになった。これはすごい変化だと思う!」

「そうですか、よかったですね」

「全部、千秋くんのおかげだから……! ありがとう」

「俺は何もしてませんよ」

「そんなことないよ! 不安が消えたのは、千秋くんが私と一緒にいてくれたからだよ」

「はい……」


 朝からそんなことを言われると恥ずかしくなるけど、それでも悪夢を見ないようになったのはいいことだな。花柳……起きている時には明るいけど、寝る時は悪夢にうなされているような気がしたからさ。


 それは言葉で上手く表現できないけど、俺の腕を抱きしめたままずっと耐えているような感じだった。

 そして息が荒い。


「じゃあ、休み時間にそっち行くから……! 千秋くん」

「はい」


 手を振ってくれる花柳、渡り廊下で別れた俺たちはそれぞれの教室に入る。

 すると———。


「望月くんだ!!!」

「望月くん!」

「やっと来たの……? 望月くん」

「えっと……、どういうことですか? これ」


 なぜかクラスの女子たちが俺の周りに集まってくるけど、怖いな。

 なんだろう、一体…………。


「昨日、女の子と一緒にいたって聞いたけど! 本当なの?」

「えっ? ええ…………」


 昨日、花柳と一緒にいるのを誰かに見られたのか?

 まあ、家までけっこう距離があったから見られるのも仕方がないと思うけど……。そんなことより、どうしてそこまで気にするんだろう……。俺が女子と一緒にいるのがそんなに驚くことなのか? でも、女子たちはそんな顔をしていた。


「朝から女子たちに囲まれていい人生だな。千秋」

「健斗……」

「ところでみんなここで何してるんだ?」

「澤田くんは望月くんと仲がいいよね?」

「い、いきなり!? そ、そうだけど……、どうした?」

「望月くんが昨夜女の子と手を繋いだって話を聞いたけど。それ……彼女かな!?」

「へえ……、マジかぁ。まあ、千秋はカッコいいからさ」

「澤田くん!」


 すると、肘で健斗をつつく小林。


「あはははっ」


 朝からくだらない話が始まって俺はそのまま席に着いた。

 正直、気持ち悪い。みんなの前でそんなことを言われる俺の立場も少し考えて欲しいけど、あいつらにそんなことを期待していた俺がバカだった。普通に手を繋いで歩いていただけなのにさ。


「ごめんって……!」

「もう!」


 てか、今日は小林と一緒に登校したのか。

 二人釣り合うから早く付き合ってほしいけど……、どうして付き合わないのか分からない。あんなに仲良く話しているのにな。


「おはよう! 千秋くん」

「おはようございます。小林さん」


 なぜか、俺に声をかける。なぜだ……?


「みんな、朝から変なこと言ってるけど……。大丈夫! あんな話、無視して! 千秋くんはそんなことしないよね?」

「…………」

「うん?」


 まあ、これも健斗のためだから……。


「いいえ、それは事実です。昨日は友達と一緒にいました。どうやら同じ学校の人に見られたようですね」

「えっ? そ、そうなの……?」

「はい」


 ここではっきり線を引く。

 そっちの方がお互いのためだと俺はそう信じていた。


「…………」

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