30 バイトがしたい③

 やっぱり店長のお店は女子高生や女子大生に人気だな。

 さっきまで女子高生四人くらいいたような気がするけど、花柳に仕事を教えてあげる間……たくさん客が来ていた。そしてめっちゃテンションが上がっている二人の間で俺はドリンクを作っている。店長はいつもこんな感じだったけど、そばにいる花柳もテンションが上がっていてさ。俺だけ冷静だった。


 まあ、いいことだと思うけど……。


「これどうかな? 千秋くん」

「いいですね」

「へへっ、やったー!」

「レシピをすぐ覚えるのは無理だから、ゆっくりでいいよ」

「はい! 店長!」

「うん! 明るい! 可愛い!!!」

「じゃあ、俺は今から在庫を確認しますから……。店長、小冬さんのことをお願いします」

「はいはい〜」


 くすくすと笑う二人。今日初めて会ったのに、もう仲良くなったのか。

 さすが、店長だ。人とすぐ仲良くなれるのはうちのお母さんと一緒だな。

 まあ、姉妹だから当然か? 二人が仲良く話している間、俺は静かに在庫を確認していた。正直、店長の前では言えないけど、俺は接客苦手だからこんな風に裏でこっそり仕事をするのが好きだ。


 注文を取る時、いろいろ面倒臭いことがたくさん起こるからさ。

 ここは静かで、平和———。


「ブルーベリー、これ少ないな。でも、この前に店長が注文するって言ってたし、もうすぐ賞味期限切れだし……、食べるか」


 そのまま五十分くらい裏で在庫管理表を書いていたら、「千秋くん!」と俺を呼ぶ店長の声が聞こえてきた。いきなり客がたくさん来たのかな? とはいえ、今日は花柳がいるから問題ないと思うけど……、一応店長に呼ばれたからすぐキッチンに向かう俺だった。


 すると———。


「あっ! 千秋くん!」

「望月くん……」


 そこになぜか小林と小林の友達がいて、花柳はあの二人にバレないようにしゃがんでいた。そうか、この前のこと———。

 でも、そんなことを考える暇はない。

 まずは笑みを浮かべて、二人に挨拶をする。


「いらっしゃいませ!」

「へえ、ここでバイトをしていたんだ……。全然知らなかった」

「そ、そうですね、ご注文はお決まりですか?」

「ううん……。じゃあ、バナナスムージーとイチゴスムージー頼む!」

「かしこまりました……」


 すぐそばでじっと床を見つめている花柳が可哀想に見えた。

 やっぱり小林のことを怖がってるよな。

 そして店長もそれに気づいたみたいだけど、顔に出ていない。上手いな。こんな小さい女の子を殴るなんて、マジで最悪だけど……、ここで問題を起こしたくなかったから何も言わなかった。


「ありがとうございます、お好きな席へどうぞ」


 そう言いながらこっそり花柳の頭に手を乗せる。


「ねえねえ、千秋くん。バイトいつ終わるの?」

「そうですね。今日は……、遅くなるかもしれません。どうしましたか?」

「私の友達とカラオケ行こう! 澤田くんも呼ぶから!」

「すみません。今日は店長に頼まれたことが多いんで、また今度にしましょう」

「ええ……、一緒に行きたかったのに〜」

「ねえ〜」

「もし、前のあれで」

「あれですか?」

「な、なんでもない!」


 そう言った後、友達と席に座る小林だった。

 そして俺のそばに来る店長が耳打ちをする。


「千秋くん、今の状況……私が考えているあれかな?」

「何を考えているのかよく分かりませんけど、そういう感じです」

「そうなんだ。一応小冬ちゃんを裏に連れて行くから、ここ頼むね」

「店長、賞味期限ギリギリのブルーベリーがありますけど、飲みますか?」

「うん、それも頼む」

「はい」


 店長との話が終わった後、すぐ小林たちのスムージーを作り始めた。

 確かに、ここは女子高生や女子大生に人気があるお店だから、現役女子高生であるあの二人が来るのも当然だよな。とはいえ、何もなかったように声をかけるのか。ある意味ですごいな。今頃、健斗は何をしているんだろう。


 早く小林と付き合ったらいいのにな。


「お待たせしました。バナナスムージーとイチゴスムージーでございます」

「わぁ〜、美味しそう」

「ねえねえ、もうちょっと考えてみて一緒にカラオケ行こうよ〜」

「すみません、今日は忙しいので」

「…………」

「ゆあちゃん、必死だね」

「う、うるさい!」

「ごゆっくりどうぞ……」


 そのまま二人が帰るまでしばらくキッチンでじっとしていた。

 こうだから、接客はあまり好きじゃない。


 ……


「はい。ブルーベリースムージーです。これ店長のレシピだからきっと美味しいはずです」

「おお〜、いいね〜。ありがとう」

「ありがとう、千秋くん。そしてごめんね。あの! 店長にも……迷惑を……」

「いいの、いいの! 気にしない! あはははっ」

「そんなことないですよ。あんな人は無視してもいいです。堂々と行きましょう」

「うん……」


 と言っても、そう簡単になかったことにするのは無理だよな。

 そんなことより店長……さっきからめっちゃ花柳の頭なでなでしてるし、そんなに気に入ったのか? 花柳のことが。まったく、大人なのに……可愛い女の子に気を取られるなんて。あり得ない……。


 でも、花柳が嬉しそうに見えるからいっか。


「店長、なでなではやめてくださいよ。小冬さん飲めないから」

「あっ、ごめんね〜。可愛すぎてつい……」

「あ、ありがとうございます。店長。話を聞いてくださって……」

「いいよ、いいよ! これから三人で楽しくバイトをするだよ!」

「あっ、これ在庫管理表です」

「ありがとう〜。そうだ、あの子たちは?」

「帰りました。そして掃除も終わりました」

「いいね! じゃあ、二人上がってもいいよ。シフトは明日送ってあげるから」

「はい」

「はい……! か、帰ろう! 千秋くん」

「小冬さん、ゆっくりでいいです。そんなに急がなくても……」

「いいの?」

「はい」

「じゃあ、私は席を外しま〜す。ふふふっ、ごゆっくり〜♪」


 そう言いながらまた花柳の頭を撫でてあげる店長だった。

 なんか、子猫みたいだな。

 

「…………店長」

「ねえ。彼女のこと大切にしてあげて、千秋くん」

「えっ?」


 いきなり?

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