13 騒ぎ④
「どうしてあんたが千秋くんと仲良くしてんだよ。なんとか言え! さっきから聞いてるんでしょ! 私が!!!」
「…………」
「体もあざだらけで、人の男に手を出すからそうなるんでしょ? なのに……、クッソ〇ッチが今度は千秋くんに手を出すのか? ああ? なんとか言えよ! このクッソ〇ッチ!!!」
五階の旧生徒会室、今は倉庫として古い机や椅子などを保管するために使われている。そこで聞こえるのはゆあの大きい声だけ。小冬を人けのないところに連れてきたゆあは、その場でずっと彼女を脅かしていた。
「いや、小林……。やめようよ、学校でこんなことをしたら先生にバレるって」
「澤田くんは黙ってて。私がどれだけ我慢していたのか、知ってるんでしょ? やっとあの先輩と別れて私にもチャンスができると思ったら、いきなりクソ〇ッチが現れて……千秋くんに甘えてんじゃん!!! くっそ!!!」
「わ、私は……何もしてないよ! そしてクソ〇ッチだなんて! 私は……!」
「黙れ! 花柳!」
そう言いながら手のひらで思いっきり小冬の顔を叩くゆあだった。
そのまま床に倒れてしまう小冬。
「こ……、小林……!」
「ああ、本当にムカつく、ムカつく! ムカつく!!! どうしてこんな女と一緒にいるんだよ!!! 千秋くんは……」
「うっ……、うっ…………」
「うわぁ、泣いてんのかよぉ。うざい」
「私は……何もしてないのに…………。どうして……」
「はあ? 今なんって言った? 聞こえねぇよ!」
倒れている小冬のお腹を蹴り続けるゆあ。
その時、誰かの足音に気づいた健斗がゆあの手首を掴んだ。
「ど、どうしたの?」
「小林、早くこの場から離れないと……! 誰か来ている!」
「…………はあ?」
「反対側の階段まで急げ!」
「どうしてこんな時に……!」
そう言いながら、急いで旧生徒会室を出る二人だった。
……
五階の教室はほとんど空き教室だから、一つずつ自分の目で確認するしかない。
てか、うちの学校こんなに広かったっけ。そして廊下も長すぎる。
それにさっき誰かの声が聞こえたような気がするけど……、広すぎてどこから聞こえてきたのかよく分からない。でも、嫌な予感がした。だから、一秒でも早く花柳がどこにいるのか見つけ出さないと———。
そして最後は……旧生徒会室。
ここにいるのか? いや、ここが最後だから…………。ここにいてくれ。
「…………」
そして扉を開けた時、膝を抱えている花柳がその場で涙を流していた。
「は、花柳さん? こ、こんなところで何をしているんですか?」
「…………」
「いや、ちょっと待ってください。俺、ティッシュ持ってますから」
何があったのか分からないけど、まずは花柳の涙を拭いてあげた。
その時、片方の頬が真っ赤になっていることに気づく。誰かに殴られたのか? そうじゃないと説明できないよな。この状況———。
「ごめんね、迷惑かけちゃって……。ごめんね、ごめんね……」
「何を言ってるんですか。てか、どうして……ここにいるんですか? 廊下でちゃんと待っていた———」
いや、今はそんなことを言う場合じゃない。
まずは落ち着くまで…………。
「いいえ、なんでもないです。あの……立てますか?」
「うん……」
「帰りましょう。そして……、すみません。全部俺のせいです」
「私のせいだよ。だから、大丈夫……」
「…………」
多分……、これは小林の仕業だよな?
俺に嘘をついて、俺がいない間……、花柳を旧生徒会室に連れて行ったとしか思えない。俺が推測できるのはそこまでだった。
でも、どうして? そこが分からない。
……
家に帰ってきた俺たちは、しばらくソファで話を続けていた。
「頬、大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「うん……」
「…………」
「ごめんね。そこで待つつもりだったけど……、いきなり……小林に声をかけられてね。そして話したいことがあるって言われて———」
やっぱり、花柳を殴ったのは小林だったのか。自分より弱い人をいじめるなんて。
そして健斗……、お前はどこにいたんだ?
「そうですか、俺が……なんとかしますから」
「ダ、ダメ……! わ、私は大丈夫! 誰かに殴られるのはもう慣れているから、何もしないで。お願い……」
「…………」
どうしてだ? 俺にはよく分からない。本当に分からない。
あんなことをされたのに、なぜか小林のことを憎んでいなかった……。
そして慣れてるかぁ。
「次は何があってもそこで待つからね、怒らないで……。望月くん」
「いいえ、俺は花柳さんに怒っていません」
「か、顔が怖いから……」
そう言いながら両手で俺の腕を掴む花柳だった。
「すみません……。俺は……、心配していただけです」
「お、怒ってないの? 本当に?」
「はい。怒ってないです。だから、ちゃんと連絡できるように……ちょっと待ってください」
「う、うん……!」
スマホが壊れて使えなくなったってことは、スマホさえあれば連絡できるようになるってことだよな。壊れたのはスマホだけ。それに今の花柳はお金がないから中古のやつを買うのも無理だ。
仕方がない。
「…………」
確かに、ここら辺にあった気がするけどぉ……。
まだ捨ててないからさ。
「な、何してるの? 望月くん」
「えっと……、これ使います?」
「何それ?」
「えっと。これは前に俺が使ってたスマホです。三年前のモデルなんですけど、それでもまだ使えると思います」
「えっ? 三年使ったのに、こんなにピカピカするの?」
「機械を大切に扱う癖があって、これ……よかったら使ってください」
「いいの? こんな高いのをもらっても」
「はい。むしろ、今日みたいに連絡ができなくなるとこっちが困りますから」
「あ、ありがとぉ……」
涙を流しながら俺に抱きつく花柳。
こういうの苦手だけど、しばらくそのままじっとしていた。
「あっ、ご、ごめん……。つい…………」
「いいえ。これ、俺の電話番号です。登録してください」
「わ、分かった……!」
あの日の夜は花柳と電話番号を交換して、もしまた今日みたいなことがあったらすぐ俺に連絡するように言っておいた。そして小林がなぜあんなことをしたのか、それも聞いておかないと———。
本人にさ。
「うわぁ、このスマホめっちゃ綺麗……! ありがとう! 本当に…………」
「いいえ……」
でも、今は花柳と二人きりの時間を過ごすことにした。
「スマホ! えへへっ」
「そんなに嬉しいですか?」
「うん! ありがと! 本当に……、ありがとう……! 大切にするから!」
「はいはい」
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