彼女に捨てられた俺は、雨降る道端で君を拾う
棺あいこ
彼女に捨てられた俺は、雨降る道端で君を拾う
1 失恋と出会い
「私、好きな人ができたから。別れよう———」
俺の名前は
久しぶりのデートにテンションが上がっていて、今日何をしようかなとずっと悩んでいたけど、突然彼女に「別れよう」って言われた。それに別れる理由が好きな人ができただなんて……、そのとんでもない理由に一瞬頭の中が真っ白になる。
そして彼女はそれを堂々と話していた。
つまり、俺は今まで彼女に弄ばられたってこと。
「…………」
その場でじっとしていた。言葉が出てこなかった。
でも、どうして先輩が泣いているんだ? どうして? 振られたのは俺なのに。
「悪く思わないで、千秋もきっといい人と会えるから」
「は、はい……」
「それじゃ、バイバイ。千秋。今まで楽しかった……」
「はい……」
それは……、あっという間だった。
彼女は同じ学校の先輩で、偶然同じ部活で出会って、偶然同じ趣味を持っていて、そうやって俺たちは付き合うことになった。そして先輩と一年間付き合った俺は、恋をするのがどれほど楽しいことなのか教えてもらった。
付き合う前まではよく分からなかったから、女子たちと距離を置いていたけど。
先輩はそんな俺にさりげなく声をかけて、俺との距離を縮めた。
そして今は……、別れの痛みを教えてくれた。
「…………」
まあ、そうだな。
先輩は大学生になったから、そして大学にはカッコいい男がたくさんいるはずだから、高校生の俺を捨てるのは当たり前のことだ。悲しいけど、そうだと思っていた。
そして先輩がカフェを出た後、俺は我慢していた涙を流す。
まさかの失恋———。
誰かに……後頭部を殴られたような気がする。マジで。
でも、俺は面白くない人だからさ……。いつかこうなるかもしれないと思っていたけど、それが本当に起こってしまった。
「…………」
そして帰り道、駅から出てきたら大雨が降っていた。
ついてない。
傘は持ってきたけど、この大雨を見るとなぜか心が苦しくなる。変だ……、俺。
落ち着け、そして深く考えるな。千秋。
先輩と付き合う前の俺に戻ってきただけだから、先輩のことを思い出して自分を傷つける必要はない。忘れるんだ……。最初から女子なんか興味なかっただろ、千秋。でも、どうしてこんなに心が苦しいんだろう。本当にバカみたいだ、俺は———。
もう……、俺の人生に女はいらない。
そう思っていた。
そしてそう決めた。
「…………」
そう決めたのに……、俺はこの状況をどう受け入れればいいんだろうな。
大雨の中……、そして電柱の下。女の子一人が後ろの壁に寄りかかって、傘もなしにぼーっとしていた。どうしてあんなところで何もせずじっとしているんだろう。着ている制服はすでにびしょ濡れになって、そのまま放置したらすぐ風邪ひきそうだった。
二十分前までもう俺の人生に女はいらないって誓ったけど、なぜかこの人を無視できない。
しかも、うちの制服を着ている。
「…………」
仕方なく、傘を差してあげた。
そして彼女に声をかける。
「何をしているんですか? こんなところで。風邪ひきますよ?」
「…………」
顔を上げて……、俺と目を合わせる彼女の目は死んでいた。
何があったのか分からないけど、聞きづらい事情でもありそうな顔をしていた。
そして……彼女はじっと俺を見つめるだけ、何もしない。何も言わない。
「何を……、しているんですか? こんなところで」
「…………」
「風邪ひきます。早く家に帰ってください」
「私には……、もう帰る場所がない」
「だから、このままここでじっとするつもりですか? 大雨が降ってますよ? 今。それに……」
いや、それは本人が一番よく知っているだろう。余計なお世話だ。
でも、同じ学校に通っている人を無視してそのまま家に帰るのは気に食わない。
「じゃあ、雨が止むまでうちにいます?」
「…………」
そう言いながら、彼女に手を差し伸べた。
「…………」
「この手を握ったらすぐうちに連れていきます。そして風呂も貸してあげます。どうしたいのかよく考えてください。二分待ちます」
「…………」
そしてじっと俺を見ていた彼女は、そっと自分の手を乗せる。
その手はすごく冷えていた。
「はい、行きましょう。あっ。念の為、言っておきますけど……下心とか一ミリもありませんので、緊張しないでください。同じ学校の制服ですから、理由はそれだけです」
「うん……」
「カバン、俺が持ちます」
「うん……」
この人……、学校で会ったことありそうな気がするけど、名前は分からない。
そういえば……、以前校舎裏で誰かに告られたことを見たことある。顔は可愛いからさ。でも、そんな人がどうしてあんなところでぼーっとしているのか分からない。もしかして、俺みたいに失恋でもしたのかな。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……」
雨のせいで彼女の体が震えていた。
ずっとここにいたから、仕方ないか。
「すぐこの前です。もうちょっと我慢してください」
「うん……」
髪の毛からぼとぼと……、水滴が落ちる。
「ちょっと待ってください。タオル持ってきますから……」
「…………」
よく分からない女子をうちに入れてしまったけど、どうせ同じ学校の人だから気にしないことにした。
それにびしょ濡れになった女の子をほっておくのは可哀想だから。
「あ、ありがとう……」
「すぐお風呂入ってもいいですよ。着替えとかいろいろ用意しておきますから……、風呂上がった後はそれを使ってください」
「うん……」
そして彼女がお風呂に入っている間、俺はココアを作った。
それを居間のテーブルに置いて、しばらくソファで目を閉じる。
てか、先輩と別れたから……、アルバムの中にある写真とか、イ〇スタとか、全部消さないといけないのに。今は疲れて仮寝をしたい気分だ。そうすると、少しは楽になるかもしれない。
もう何がしたいのか、俺にも分からなくなってきた。
つらい……。
「…………」
やっぱり……、振られるのは悲しいことだな。
くっそ。
「先輩…………」
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