人は剣と魔法とハズレスキルで全宇宙を救えるか?

プリズムおにく

第一章

第1話 冒険、終了のお知らせ



宇路円巳うろ まるみにあたえられしスキルは――【空白ブランク】!」



 その日、ダンジョン攻略学園(通称・ダン攻)では、高等部へ進級した生徒のスキル授与式が行われていた。


 中世以来のダンジョンの出現に呼応して、現代の人類に再び覚醒した力。

 それらはスキルと呼ばれ、冒険者には必須の能力である。

 人間が一定の年齢に達したとき、中世から受け継がれる儀式――聖堂における神託――によって最初のスキルを習得できる。

 ちなみに、現代科学では未だにこの仕組みを解明できていない。


 冒険者を志す少年・宇路円巳は、自分に与えられた謎のスキルに困惑していた。


「あの、【空白】って、どういう……」

「百聞は一見に如かず。これを持ってみたまえ」


 そう言って神官――正装した学園長――は、儀式用の杖を彼に差し出した。

 杖を握った瞬間、円巳の視界に青白く発光する文字列が浮かび上がった。



 ―――――――――――――――――――


 スキル【光の加護】は無効化されています


 ―――――――――――――――――――



「……なんですか、これ」


 すでに嫌な予感を覚えつつ、円巳はすがるような思いで尋ねた。


「このような装備品に付与されたスキル、および君自身が今後習得するあらゆるスキルを無効化するスキル。それが【空白】だ」


 学園長は露骨に視線を逸らしながら淡々と答えた。


「やれやれ……これほどひどいデメリットスキルは迷信だと思っていたが、自分の生徒から出るとはな……」


 他にどんなスキルを付け加えても、すべて無にしてしまうスキル――。

 それはつまり、冒険者としての適正が未来永劫、ほぼ完全に失われたということを意味している。



「ウ……ウソだろぉおおおおおおおおおおおおお!!?」



 その叫びは、広大な大聖堂の隅々まで、虚しいほどによく響き渡った。

 彼の冒険は、始まる前に終わっていたのである。



* * *



 地球より約250万光年、

 ――アンドロメダ銀河、

 ――モルフェウス腕、

 ――第870338095太陽系、

 ――十五番惑星付近。



 星々の光の饗宴きょうえん

 極彩色の宇宙空間に、小さな影が箱舟のように浮かんでいる。


 その乗り物には、黄色い雨合羽を着た人間が跨っていた。

 真空の宇宙空間で、殺人的な宇宙線の降り注ぐさなか、つややかな褐色肌の素顔を晒して。


「いま、確かに反応があった……」


 呟いたのは、まだあどけない少女だった。

 宝石のような紫色の瞳が、遥か彼方の目的地を見据える。


 ――夢見たものが、待ち焦がれた瞬間が、そこにある。


 彼女は祈るように強くハンドルを握り締め、マシンの進路を定めた。


「多重転移ヴァニッシュ、開始」


 ――キン。


 無音の空間に、星間物質エーテルの破断音が木霊する。

 その瞬間、すでに少女とマシンの姿は消えていた。


 ……終わりなき冒険の日々を、終わらせるために。



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