呪術系ヤンデレヒロインに愛されて仕方が無い
三流木青二斎無一門
帰還するろくでなし
安い染髪剤で染めたような金色の髪。
自他共に認める容姿と性格難の為に〈ホスト崩れのろくでなし〉と言う蔑称を持つ男、
その八峡義弥の左目部分には、黒の眼帯が取り付けられていた。
元々、一般人である彼は、ある事情故に、裏社会に属する事となる。
何の能力も無い一般人故に、彼は術式を得る為に県外へと足を踏み込んでいた。
京都は式神術式の総本山。
その教師から八峡義弥は本格的な式神術式を継承した直後の事。
八峡義弥は術式の継承を行う為に京都へと渡り、一カ月振りに
「おいおい、雨かよ」
バスから降りた八峡義弥は空を見上げる。
曇天が空を覆い、今にでも雨が降り出しそうだ。
八峡義弥は傘を持ってきていない。学園までまだ距離がある。
「酷い出迎えだな、こりゃあ」
仕方が無いので走ろうかと思った直後。
八峡義弥の目の前で停車する黒塗りの高級車。
窓が開かれて八峡義弥に見慣れた顔が此方を伺う。
「あら、八峡」
そう高飛車な女性が八峡の顔を見た。
琥珀の色をした瞳が八峡を見つめている。
透き通る瞳は蜜の様に澄んでいる、吸い込まれそうな程に綺麗な瞳だった。
「おう、お嬢」
八峡義弥とその女性は知り合いだった。
名前は贄波璃々。
御三家と呼ばれる祓ヰ師の中では最大権力を持つ家系の一つ。
その次期家督を受け継ぐのが彼女だった。
「どうしたのかしら、その左目は、
八峡義弥は自らの左目に触れる。
贄波璃々は八峡義弥の眼窩には何もないと思っているらしい。
しかし八峡義弥が左目に触れると、丸みを帯びた硬い感触があった。
義眼である。それも、八峡義弥の術式に大きく関わる代物だ。
八峡はそれを敢えて教えず、濁す様に言う。
「男は誰でも隻眼に憧れるんだよ、隻眼と言う
八峡義弥の熱弁に贄波璃々は意に介さない。
女性と言う立場か男心など分からない様子。
「どうでも良い事ね…それで、八峡」
贄波璃々が車の扉を開く。
後部座席には、黒色の学生服を着込む贄波璃々の姿があった。
優雅に足を組んでおり、スカートからすらりと伸びる黒タイツの脚部が艶めかしい。
「乗るの?」
贄波の問いに八峡義弥は頷く。
「長旅だったし、流石に歩く気力はねぇや」
そうして、八峡義弥は黒塗りの車に乗車し。
畏霊を祓う者を育てる育成機関。
八十枉津学園、校門前。
警備員が生徒手帳の提示を求める。
備品や施設が多い学園は、内部に侵入する
最近では生徒に化けて学園内に侵入した事件も発生している。
だから生徒は学園から出る時には外出許可を取らなければならない。
八峡義弥と贄波璃々が生徒手帳を提示して本人と判断。
黒塗りの高級車は学園内に入る事は出来ない為に、八峡義弥は運転手に別れを告げて校門の奥へと進む。
贄波璃々は本校舎に用事がある為にそのまま別れる。
八峡義弥は宿舎であるあさがお寮に目指して歩いていた。
すると、グラウンド近くの倉庫から騒音が聞こえ出す。
(あん?あそこは確か…サルちゃんと葦北が居る場所か、丁度良いや、少し顔を出そうかね)
八峡義弥は進行方向を変えて道草を食う事にする。
グラウンドを通過して倉庫前へと八峡は歩き出すと。
「わ、わっ!危ない、退いてっ!」
「あ?うわッ!」
倉庫から飛び出して来るジャージ姿の女性と八峡義弥が衝突する。
彼女の体を支えようとする八峡だが、勢いが強過ぎて倒れ込み女性がその上に圧し掛かった。
八峡義弥の胸板に豊満な胸が押し潰される。
感触は服越しからでも分かる程に柔らかい。
「いたッ痛いッ!痛いわッ!退け、重いッ!」
八峡義弥が声を荒げると、彼女は八峡の身体を起こして八峡の顔面を見る。
「お、重くないしっ!」
表情は赤々としていた。
体重が重いと言われて憤慨しているのか。
男女が抱き締め合う様なカタチになっている事に赤面しているのか。
彼女が体を動かすと同時に八峡義弥の股間が圧迫される。
丁度八峡義弥の股間位置に彼女は騎乗していたのだ。
今の時代では珍しい藍色のブルマを装着している彼女。
八峡と密着している部位に彼女の臀部が圧し掛かる。
「…あれ、八峡だ、帰って来てたんだ、って、どうしたの、その目」
眼帯を見て言うが八峡はそれ所では無かった。
「良いから…退けってッ」
八峡義弥が彼女の腰を持つと「きゃっ」と言う悲鳴と同時に彼女を地面に倒す。
そして八峡が起き上がると土埃を落として彼女に手を伸ばした。
「ほら、慌てんなって」
尻餅を付いたのか彼女は自らの臀部を摩っていた。
八峡の手を取ると立ち上がり、そして彼の二の腕に弱小パンチを当てる。
「なんだよッ」
「なんだよ、じゃないッ女の子に重いって言うの、どうかと思うんですけど!」
「言ってねぇから」
「言ったッ聞いたッ!」
「イテッ、言ってねぇッイテテッ!痛ってェっ!」
連続して殴られる事で二の腕に蓄積されたダメージがジワジワと八峡を襲う。
「やめれッ!葦北ッ」
其処で八峡義弥は、漸く彼女の名前を、
彼女の行動を抑える為に、八峡は葦北の背後に回り抱き締める様に彼女を拘束する。
「ひゃっ!や、やかいッ!く、苦しいッ!」
八峡が強く抱き締めると、拘束された彼女の腕が挟まる柔らかな胸を圧迫させた。
「好い加減にしろお前ッいきなりぶつかって来やがって、なに考えてんだよッ!」
八峡義弥が葦北静月と出会った頃を彼女に攻め立てる。
すると彼女は唐突に思い出す様に藻掻き出した。
「や、ばいッ、こんな事してる場合じゃなかったッ八峡、離して、危ないからっ」
「あ?なにが危ないんだよ」
「なにって―――」
其処まで言って。
倉庫の分厚い扉が破壊される。
中から出てくるのは、人間三人分程の体積を持つ
「あれが、暴走状態なのっ!なんとかしないと、色々壊しちゃうッ!」
そうして、絡繰機巧は曇天の空を見上げる。
何かを探す様に周囲を見回すと、絡繰機巧の頭部が八峡たちを認識した。
どうやら標的を定めた様子で、八峡義弥たちに近づいて来る。
「なんか知らねぇが、俺を殺す気かよ」
八峡義弥は大きな機械の塊を見て笑う。
「やかいっ、危ないから下がっててッ!」
葦北がそう叫んだ。
八峡義弥の弱さは誰もが知っている。
本来ならばいの一番に逃げる筈の八峡義弥だが。
今回は違った。
「上等だ、来いよ」
そうして、八峡義弥は臨核を起動する。
「スクラップにしてやる」
新たな術式を刻んだ八峡義弥が、術式を使役しようとしていた。
両手を重ね、指を絡めて、印を結ぶ。
脊髄に寄生する人工
地面に零れる万物粒子が式神を呼び出す門を作り上げる。
「〈
ガチンッ、と扉が開かれる音と共に、地面からぬめりと腕が伸びる。
地面から生まれる四つん這いの生物。
形状は蛙に酷似し、外皮は猿の様な体毛が植えている。
その顔面は獅子舞の様な顎部が大きく、笑みを浮かべている様な達磨の姿だった。
(気持ち悪っ、なに、あれが八峡の術式!?八峡の事だから、えっちぃ女型の式神とかだと思ってたのに)
「って、早く八峡っ、絡繰が来てる!」
式神を召喚したと同時に暴走状態になった絡繰機巧が八峡義弥たちに向けて走り出す。
蜘蛛の様な八本脚の下半身、その両手は刃物の様に鋭く、立ち向かう者を切り裂き貫き捨てる勢いだった。
式神・考跋がペタペタと周囲を回る。
「おい、そっちじゃねぇよ、あれだ」
八峡義弥が式神を誘導する様に指先を暴走状態の絡繰機巧に向けると。
「そんじゃ、まぁ………跋べや」
その言葉と同時に、八峡義弥の式神が大地を陥没させる程の脚力で飛び出す。
目で追うものやっとの速さで、式神は大口を開けて絡繰機巧を噛み砕いた。
それで終わりだった。式神が絡繰機巧の部位をガチガチと噛み砕きながら丸呑みする。
下半身だけが八峡達の元へと向かうが、次第に速度が殺がれて倒れた。
「還って良いぞ」
八峡義弥は指を振ると、式神は地面へと潜っていく。
堀跡すら残す事無く、水面の波紋が静まる様に何事も無く地面は不変だった。
「どうよ、葦北ァ、俺の式神術式、凄ェだろ?」
八峡義弥は自慢げに彼女の方へと振り向いた。
確かに葦北静月は八峡義弥の術式に驚きを隠せない様子だったが。
「でも八峡のことだし…術式に酷い条件とか、デメリットでもあるんじゃないの?」
「…ふッ」
術式にデメリットがある様子だった。
八峡義弥は持ち前の容姿で不敵な笑みを浮かべて誤魔化す。
「まあ八峡だし、かなり制限を加えたんでしょ?」
「お、教えねぇよ」
式神術式。
調伏(心身共に負けを認めさせる事、降伏状態)した畏霊に制限を設ける事で叛逆不可の駒として扱う術式。
類似する術式では、傀儡術式と言うものがある。
傀儡術式は調伏した状態で畏霊を操るが、畏霊の意志を抑えている状態で操る為、唐突に術式が解けると術師に攻撃する恐れがある。
式神術式は能力こそ調伏する前の状態とは劣るが、術式が解けたとしても術師に攻撃する事は無く、術式が解けると同時に式神も解けてしまう。
危険度は高いが強靭な力を持つ駒が欲しい場合は傀儡術式。
強力とは言い難いが、危険度が低い駒が欲しい場合は式神術式。
八峡義弥は何らかの条件を交える事で式神を召喚する事が出来る。
術式を使役する為に必要な神胤が少ない八峡が、一端の祓ヰ師と同等に式神を扱うには、対価と制限が必要だった。
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