放課後、エレベーターで異世界に通う

春宮 絵里

菓子袋




駅前の古いビルのエレベーターのボタンを特定の手順で押すと、異世界に行ける。


偶然見つけたそれは放課後の娯楽と変わり、私は暇な時は曜日ごとに別の異世界に行っている。

今日は月曜日。ボタンを手順通り押したあと、1のボタンを押した。


そこはまるで現代が荒廃したような世界で、荒れ果てたビルや瓦礫に緑が侵食し、鹿や犬と思われる動物も点々と地上に存在していた。

人の気配はなく、ただ全てが滅びたような痕跡が残っている。

制定鞄の中に常備されているレジャーシートを取り出して屋上に広げる。硬い鞄を机替わりに数学の課題を解き始めた。喧騒もないこの世界はノイズキャンセリングのイヤホンをするまでもなく静寂で、課題がかなり集中できる。

屋上でだらりと勉強して過ごしているも、動物が建物の中に入ってきたこともない。そこまでの知能はないようで、屋上は今のところ安全地帯だ。

課題を終わらせて、うんと伸びをしているとふと思い立った。鞄から友だちにもらった個包装のクッキーをレジャーシートの片付けた所に置いてみる。袋を開けるという動作が出来る“もの”がいるのか気になったのだ。

勉強道具を鞄に仕舞って、ぽつんと存在しているエレベーターに乗り込む。


カシャリ……


背中の方から菓子の包装の音がした。風では決してないと断言出来るほど、しっかりとした音だった。

後ろを振り返らずにボタンを逆の手順で押す。

その間後ろから続くビリビリと袋が開く音を無視して、閉のボタンを連打する。やっと扉が閉まり、ガラス越しに人影が見えた。

ゆっくり目を閉じて鞄の持ち手をぎゅっと握る。

両扉制で良かったと心底思った。

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