第22話

「璃星」


後ろにいたのに気付かずに、振り返る前に壁へと追いやられる。


「っ」


「何このピアス」


「それは潮留社長が贈ってくれたもので…」


つま先でトントンと壁を蹴る音が、私の焦りを増幅していく。


下を向く顔は今どんな表情をしてるのか、私は芹の顔に手を伸ばそうとすると、


「よく似合ってる。璃星は何でも似合うね」


パッと顔を上げて、穏やかな笑みを深める。


耳をそっと撫でて、ピアスを触っていく。


「でも、そうだなぁ」


優しい声音の奥に、触れてはいけないものを感じる。


「よく似合ってるのに、ここが抉れて焼け爛れそう。なんでだろ?」


シワひとつないジャケットが、芹が握りしめる手によってグシャグシャになっていく。


左胸にあるポケットチーフは無惨な形に変形していた。


「ねぇ、なんでだと思う?」

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