先輩、部活の時間です
薄明 黎
プロローグ 先輩、部活の時間です
とある日の放課後、
夏陽は誰一人来ることのない屋上でだらだらと放課後を謳歌していると、さび付いた音とともに扉が開き、一人の男子生徒――
「先輩、部活の時間です」
「えー、行きたくないー」
近寄ってくる涼樹に夏陽はふてぶてしくそうつぶやくと、彼はその顔を怒りで少し歪ませ、冷え切った声で彼女に
「先輩、今日は何日かわかります?」
「えーっと、10月10日だけど……」
「この日付を聞いて思い当たる節はありますか?」
「え、なんかあったっけ」
「体育祭のハイライト動画、提出明日です」
「あ……」
二秒のフリーズを経て、今しがた思い出しましたといった様子で慌てる夏陽に、涼樹は呆れ切ったため息をつく。
「じゃ、部室行きますよ先輩」
「はい」
ぶつくさと愚痴を言いながら歩く夏陽に、それを後ろからなだめる涼樹。
◇ ◇ ◇
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「先輩、急に奇声を発しないでください」
部室にて、夏陽は一週間前に行われた体育大会のハイライト兼外部向け広報動画を作成していたところ、あまりの負担に奇声を発し、次に控える文化祭の宣伝用のチラシとホームページを作っている涼樹がすかさず制止する。
部員が一年の涼樹と二年の夏陽ので構成されている、このICT部は学校のホームページや広報動画、チラシなどを学校からの指示で作っている。まぁ、言ってしまえば学校業務の押し付け先である。ちなみに部員が2名で、部活動構成人数を下回っていても廃部にならない理由の建前は「生徒に意欲があるから」だそうだ
「これ二日じゃ終わらないじゃん!」
「それは一週間放置していたからでは?」
「グハッ!!」
取り乱す夏陽に涼樹がさらっとツッコむと、夏陽はセルフ効果音とともに大げさに机に倒れこむ。「いいすぎたかもな」と思った涼樹は苦笑いしながらカバンをあさり、個包装されたドーナツを夏陽に差し出す。
「これ食べて頑張りましょ。僕、先輩はやればできるってわかってるんで」
そういった涼樹の優しい表情に少し呆然とした夏陽はすぐにまぶしいぐらいの満面の笑みで返す。
涼樹はその表情に自然と心臓の鼓動が大きく速くなるのを感じる。
「ま、頑張りますか!私、やればできるからね!」
ドーナツを口いっぱいに頬張り、パソコンに向き合う夏陽の目は先ほどまでのものとは違い、まさに真剣そのものだった。
涼樹もその表情に今一度見とれては一言小声で
「ずるいよなぁ……」
そう呟いては、自分の作業に戻る。夏陽にこの呟きは聞こえていない。
◇ ◇ ◇
あれから3時間弱が経過し、外はすっかり暗くなってしまっていた。
お互いのちょっとした独り言とキーボードの打鍵音だけが聞こえていた部室に夏陽の喜びに満ちた声が響き渡る
「よっしゃぁぁぁ!おわったー!」
「お疲れ様です、先輩」
「あ、ごめん涼樹」
あまりの嬉しさに叫んでしまった夏陽だったが、涼樹がまだ作業を続けているのを見てすぐに声量を絞る。
「僕も少し気になるところ修正してるだけなのでそんなに気にしなくてもいいですよ」
「あ、そう?でもまぁ、一応静かにしとくね」
「ありがとうございます」
それから10分も経たぬうちに涼樹の方も完成したようで少しほっと息を吐く
「先輩、こっちも終わりました」
「おつかれー、やっぱそっちが多くてむずいでしょ」
「僕からすれば先輩のほうが相当きつそうですけどね……とりあえず、時間も時間なんでチェックして提出しましょ」
「そうだね」
そういって、お互いの制作したものを確認する。
涼樹担当のホームページと数枚のチラシはどれも時間をかけてしっかり作りこまれているのが一目でわかるもので、夏陽は涼樹をほめちぎっていた。
そして、肝心の夏陽担当の動画のほうはというと、思わず一つの作品として見入ってしまうレベルのクオリティで、圧巻の一言に尽きる代物であった。
最後まで見終えた涼樹は思わず言葉を失っていた。それを見て夏陽は感想を問う
「どうだった?」
「やっぱ、先輩ってすごいなって」
「でしょ?これが私なんだよ」
「少しは謙遜してくださいよ……って言いたいところなんですけど、謙遜されたらもう僕の居場所なくなっちゃうんで、もっと誇ってください」
「まぁ、私天才だからね――ってまぁ、そろそろ下校時間だしさっさと提出して帰ろうか」
「まぁ、そうですね」
そうおどけて笑って見せる夏陽に涼樹もつられて笑顔になる。
2人は生徒会と担当教員にデータがきちんと提出されたのを見届け、帰路につく
「でも、よかったほんとに間に合って」
「そう思ってるなら次からちゃんとしてくださいよ?」
「……善処はします」
「それしないやつじゃないですか……」
涼樹はそう力なくツッコミを入れると、何か思い出したかのように続ける
「そういえば、文化祭って来月末ですよね」
「まぁ、そうだね」
「この部はなんかするんですか?出し物とか」
「出し物はないね、というかできないね」
何やら含ませたような夏陽の物言いに、涼樹は食い下がる
「え?やっぱり部員が少ないからですか?」
「いや単純に、ほかのところから仕事が無限にわいてくるから」
「あぁー」
遠い目でそう答えた夏陽にその光景を少し想像した涼樹もつられて遠い目になる。
「まぁ、今はとりあえず終わったことを喜んでおこうか」
「そうですね」
夏陽がそういうと涼樹もそれに乗っかって、二人は一度現実逃避することにした……
~あとがき~
閲覧ありがとうございます
久しぶりのラブコメ連載の新作です、続けばいいなーって思ってみる。
展開は未定!
あとがきは以上!
続きも読んでいただけたら幸いです!
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