第1話 交差点
春先の交差点にサイレンの音が響き渡った。
歩行者用信号機の脇に人だかりが出来ていて、数メートル離れたところには、前部をひしゃげ、ガードパイプを『く』の字に押し曲げた乗用車が止まっている。そして先程まで、信号待ちをしながらスマホを触っていた一人の若い女性の姿が見当たらない。
「救急車来た!」
「警察はまだか? 誰か110番したかぁ?」
「さっきしました! 119番を先に掛けたので」
善意の怒号が飛び交う。大破した乗用車と人だかりの間には一人の老人が所在なさげに立っていて、人だかりの隙間からあらぬ方向に曲がった脚が見える。
間もなく救急車が横付けし救急隊員が降りて来た。素早くストレッチを脇に付け、周囲の人の声に耳を傾ける。
「意識ないけど息はあるんだよ」
「頭打ったんだよ、ガードレールに飛ばされて」
「なるほど」
「頭動かすな! そーっとだ、そうそう、あ、OK」
ストレッチャーが慎重に救急車に収容され、その被害者の荷物だろうか、リュックとスマホを周囲の人が救急隊員に手渡した。パトカーも到着し、先程の老人を警官が取り囲んでいる。救急隊員と警察官は二言三言、言葉を交わした後、救急車はサイレンを鳴らして交差点から遠去かって行った。
警察官が交通誘導を始め、人々は何もなかったかのように横断歩道を行き交い始める。鑑識が現場調査を終え、大破した乗用車がレッカー車で搬送されるのに、1時間もかからなかった。
統計によると、このような交通事故は年間30万件にのぼると言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます