第8話 先輩って、どの誕プレが一番嬉しいですか?!

 前回のあらすじ。今田と誕生日が同じであることを知った部長の中村は後輩女子たちにバレてしまい、急遽誕生日プレゼントを貰うことに。今日はあれからちょうど一週間が経った十一月十五日。さて、一体どんなものが彼にプレゼントとして送られるのか?!

「はあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」

「中村どうしたんや?そんなでかいため息なんかついて。」

 今日は終礼が終わるタイミングが谷口のクラスとほぼ同時だったので、廊下で合流し、部室へと向かっているところである。

「いや誕生日から一週間が経ったじゃん?今日誕プレが貰えるはずなんだけど、絶対まともなものじゃないよなーって。」

「お前、いくら後輩とはいえ女子からプレゼントを貰えるって俺たち陰キャ男子からすればどんなものであろうとご褒美イベントだろ。」

「いやいや、僕のことを恋愛対象と見る人だぞ。何があるか分からんだろ。それに過去にあんなことあれば…。」

「あー、あれは酷かったな……。」

 いずれどこかの話で出てくると思われるので、ここでは軽く触れておくが、過去に中村に対して恋愛感情を抱いてきた女子たちにはまともな奴が一人もいないのである。実例の一つとして、中村は以前かなり重度の風邪を引いて数日学校を休んだことがあるが、その時住所を教えたはずのない同じクラスの女子からお見舞いとしてドロドロに溶けたチョコ菓子が自宅の郵便ポストに投函されていたことがある。もちろんそれに添えられて手紙もあったわけだが、そこには『早く元気になって学校でいつもみたいにお話ししようね。私の声が聞きたくなったらここに電話して!』と下には彼女の電話番号が書かれていたのだが、何が恐ろしいってこの女子とはまともに話したことが無かったこと。あるとすれば先生からの配布物を彼女の元へと届けた時に一言声を掛けたくらいだ。他にもヤバイことは沢山あるんだがこんなもんで。てな訳で異性からの贈り物には非常に敏感になっている。そんなことを思い出している内に、二人は部室の前に到着する。

「あれ、中村?部室の電気ついてないんだけど。」

「え、珍し。いつも誰かしら先にいるんだけどな。」

 もしかしたら開いているかもしれないと思い、部室のドアノブに手を触れた瞬間、勢いよく部室の中からガチャリとドアが開いた。

「部長さん、誕生日おめでとうございまーーーーす!!」

 織田の掛け声と同時に他三人がクラッカーを鳴らす。ただ、部室の中は真っ暗だ。

「びっくりしたーーーーーー!あ、ありがとう!!」

 これまでの十五年間の人生でやられたことのない祝われ方をしたので、どう反応したら良いのか戸惑ったが、暗闇の中から彼女たちが出てきたのは心臓が止まりそうになるくらい本当にびっくりした。谷口は声は出なかったが、腰を抜かして廊下に倒れ込んでいた。なんで僕より驚いているんだ。

「くっそぉ、俺の誕生日祝いじゃねえのにめっちゃ驚いたわ。まーじで腰抜かしたわ!!笑」

「お前何してんねん、ほら谷口、立ち上がれ。」

 谷口を連れ、いつも通り荷物置き場に通学鞄を下ろす。

「じゃあ部長さん、目を瞑って私の手を握りながらついてきて下さい。私が誘導するので。」

 松本の言う通りに僕は目を瞑って、彼女の手を優しく握る。

「じゃあ行きますよ。谷口先輩は目を開いていてもいいですけど、黙っててください。」

「うぃっす。」

 なんやその返事とか思いながら、僕の目にはただただ暗闇の状態で彼女へとついていく。少しすると、床が少し柔らかくなった気がする。恐らくここは器具室であろうとか思っていると、松本が僕の手を放す。

「じゃあ部長さん、目を開けていいですよ。」

「もういいのか?それじゃあ開けるぞ?」

 目を開けるとそこには、器具室いっぱいに風船やシールなどでデコレーションされ、部室から持ってきたであろう机の上に四つのラッピングされたプレゼントとそれぞれのプレゼントの後ろに一人一人並んでいた。

「改めて、誕生日おめでとうございます!!!」

 四人で息を揃えて言ってくれた。嬉しいねぇ。

「本当にありがとう!てか、この装飾すげえな…。」

「これは私たち四人で提案して、部長と今田くん以外の部員で協力して先週から今日まで暇な時間見つけてやってました!」

 鶴見のその発言に驚いたのと同時に、女子たちに祝ってもらえず、この企画にも参加させてもらえない今田君が可哀そうになった。

「え?渡辺とかの男子たちもやってたの?」

「そうですよ!なんなら私たちよりも張り切って作業してましたよ。」

「鶴見さんが男子たちに手伝いを求めたからあいつら頑張ったんじゃない?」

「いやいや、先週部長と今田君が先に帰った後に友梨佳の元に『俺たちも手伝えないか』って言ったみたいですよ。ね?友梨佳。」

「そうなんですよ!なので手伝ってもらいました!人が多い方が準備も早く終わるので!笑」

「まあ俺も手伝ったけどなー。」

 谷口からまさかの発言。

「マジか、お前もか!ホントにありがとうな!それに渡辺たちにもお礼言っとかんとな。」

「まあその話はこれくらいにして、わたくし織田より誕プレあげてもいいですか?本来の目的はこっちですし!」

「そうだったな。じゃあ、遠慮なく頂こうとするか。」

 貰う順番は今彼女たちが左から並んでいる通りに、織田、仲本、松本、鶴見の順。

「じゃあ私から。はい、部長!お誕生日おめでとうございます!」

「ありがと~~。これって今開けてもいいの?」

「もちろんです。むしろ開けてくれないと面白みに欠けるじゃないですか!私たちもみんなが何を買ったか把握してないので。」

「把握してないなら開けるべきか…?じゃあこちらも遠慮なく。」

 織田から貰ったのはどこかのお店であろう名前が書かれている紙袋。中を見ると、おしゃれなお菓子が二つ入っていた。

「もしかしてこれあれか!博多駅にあるお店のスイーツか!」

 このお菓子はここ最近インスタやツイッターなどのSNSでよく紹介されているバスクチーズケーキのお店で、先日地元の放送局でも取り上げられたため非常に人気が高まっている。

「正解です!これ試食したんですけど、滅茶苦茶美味しかったので是非先輩にもって。」

「いやーこれ食べてみたかったんよ。マジでありがとう。」

「いえいえ。」

「帰って食べてみる!感想は後でLINEで送るわー。」

 織田は僕の満足そうな顔を見て安心したのか、ニコッと微笑む。一方、美味しそうなお菓子を手に入れた僕を後ろにいる谷口が睨んでくる。

「美味そうやな…そのお菓子…。」

「お前にはあげないからな!!これは織田が僕にくれたやつ!」

「わかっとるわ。」

「じゃあこっち見るな!」

「へいへーい。」

 友人が誕プレを異性からもらう場面を見るのがきつくなったのか、谷口は部室へと戻っていく。正直さっきから変な視線が後ろから送られてきており、気まずかったので正直ありがたい。なんせ僕自身も異性からプレゼントを貰うことはやっぱりなんだか恥ずかしく感じるからな。

「じゃ、じゃあ次は私から…。」

 お次は仲本。人見知りな彼女が頑張って僕へとプレゼント選んでくれたんだ。この時点でもう嬉しいんだが、彼女はもじもじとしながらも小さな青いギフト袋を渡してきた。

「じゃあこれも開けさせてもらうな。」

 すると中には青を基調とした縞模様のハンカチが入っていた。僕は毎日手洗い場で濡れた手をふくためにハンカチを持参しているのだが、小学生の時から使っているためやや幼稚な感じがしていたため、ちょうど新しいものが欲しいと思っていたところだった。

「これ実用性あってマジでうれしいわ!しかも青って好きな色だし。」

「た、谷口先輩に教えてもらいました…。部長さんの好きな色が青だって。」

「そこまでしてくれたのか…。本当にありがとう!明日から早速使わせてもらうな!」

 仲本も僕の満足そうな顔を見て安心したのか、ニコッと微笑む。

「じゃあ美玖が終わったので次は私ですね!はいどーぞ!」

 松本はこれまでの二人と違ってすっと渡してきた。しかも片手で僕に差し伸べるように。ただ何故か彼女は曇った表情をしている。

「はい、どーぞ。」

「ありがとう…。」

 渡されたのはコンビニで切手を買った時に貰えるような小さな白い封筒。

「あ、開けてもいいんだよな?」

「もちろんいいですよ。」

 封筒の封を剝がすと、中に入っていたのは図書カード。意外なものが来たため、思わず松本の方をじっと見つめてしまった。

「じ、実は私男の人に贈り物をした経験が無くて…。それで何を買おうか考えていたら前日になってまして。それで部長さん漫画とか好きだと入部したときに聞いたことがあったので、これにしました…。」

「いやいや全然嬉しいよ?!松本さんは何も悪くないし、第一誕プレくれるだけで嬉しいからね?」

「ほ、ほんとですか…?」

「ああ、これで今度出る漫画の新刊買わせてもらうわ!ありがとうな!」

「はい!」

 松本も渡すまで不安な顔をしていたが、安堵したのかその不安げな表情は消え去りいつものかわいい笑顔へと戻ったのであった。

「いよいよ最後か、鶴見。」

「はい。」

 僕に渡してきたのは松本のより一回り大きい茶封筒。

「ん?鶴見も封筒なのか。さてさて中はなんだろうな…。」

 鶴見も悩みすぎて選べなかったから図書カードとかクオカードになっちゃいました!って言うのかなとか思っていたが、中から出てきたのは折り畳まれたルーズリーフの紙が一枚。なんだこれと思いつつ、僕はその折り畳まれた紙を開く。すると、そこに書かれていたのは僕へと宛てた手紙であった。

「手紙?」

「はい。読みあげてもらっても大丈夫ですよ。」

「え?いいの?」

「はい。おふざけなしで真面目にちゃんと書いてきたので。」

『中村先輩へ。十四歳のお誕生日おめでとうございます。先日、私と先輩が特別な関係であったことが発覚しましたね。』

 この一文で他の三人が鶴見の方を向き、

「陽、特別な関係ってどういうこと?!」

 織田がすぐさま鶴見に問いかけるが、鶴見は

「まあまあ続きを聞いてよ。」

 と冷静に返答する。

「…。続き読むぞ?」

「気になるのでお願いします。」

 織田の合図で再び僕は手紙を読み始める。

『まさか転校する前の学校のヒーローとこんなところで再び会えるとは思えませんでした。改めて本当にあの時からいつもお世話になっています。』

 手紙の前文はこの前鶴見と図書室で話したことが書かれていた。

「転校する前のヒーローって陽、昔に部長とあったことがあるの?」

「え、ホントに?」

 織田と松本はそれが事実なのかを確かめる。仲本も口には出していないが、非常に驚愕した表情を見せる。

「本当だよ。部長は昔いじめられていた私を助けてくれたの。」

「え、すご!奇跡過ぎん?!」

「部長さんカッコよすぎでしょ。」

「ですです。奇跡過ぎるでしょ。」

 三人とも事実であることが分かり、さらに驚いている。

「でしょー。けどまだ手紙は続くよ。」

 そう言って、鶴見は僕に手でどうぞどうぞとジェスチャーをし、続きを読むように合図を送る。

「つ、続き読むぞ?」

『そんな部長さんのことを私はここ数年ずっと想ってきました。恐らく三人は私が部長のことが好きだなんてことはこの手紙を読むまで知らなかったと思います。なのでこの場を借りて言わせてください。私は先輩のことが好きです。大好きです。返事は先日先輩が言ったように後からで構いません。ただ言いたかったことは、友梨佳、花、美玖に負けないくらい私は先輩のことが大好きってこと。そして、私が先輩を必ず好きにさせてみせます!改めてお誕生日おめでとうございます。』

「あのー、僕これ読むの滅茶苦茶恥ずかしかったんですけど。」

 自分で『先輩が好きです!』とか言うの意味が分からなくてずっと困惑していた。それに正直言うとこれが誕プレか?独特だなあとか思っていた。僕が読み上げてから数秒の沈黙の後、鶴見が会話を切り出す。

「私がこれを書いたのは理由は、部長が読み上げたように私が中村先輩を好きなことを三人に知ってもらうこと、そして先輩への本当の誕プレは、これから先輩を巡ってバチバチに争ってやるという予告です♡」

 彼女は堂々と宣告でき満足しているように見られるが、そんな様子の鶴見に織田が言葉を返す。

「非常に言いにくいんだけど、私たち陽が先輩のこと好きなの知ってるよ?じゃないと自分から合唱コンを一緒に組みたいとか言わないでしょ。それに陽が居ても居なくても私たちは先輩のことガチで落としに行くから。」

 織田の言う通り。正直鶴見のここ最近の行いを見ていれば何も知らない第三者が見ても中村のことを想っていることは何となく伝わってくるだろう。そんなこと鶴見本人が一番わかっているだろうと本人の方を見てみると、非常に慌てた様子だった。

「う、噓でしょ…?バレていないと思ってたのに……。」

「いや滅茶苦茶わかりやすいって。それでバレていないって思うの逆に心配になるよ。」

「そんな…。」

 鶴見は本気でバレていないと思っていたらしく、織田からそう言われかなり凹んでいる。

「けどね、陽。私たちは前々から陽をライバルだと思っていたし、本当の親友だと思っているよ。だから先輩を掛けてこれからガチで戦おう?ね?」

 織田は鶴見と向かい合い、手を差し伸べる。合意の印だろうか。

「うん!!」

 鶴見と織田は互いに握手をし、無事に中村を狙うメンバーの仲間入りを果たしたのであった。(言っている意味が分からないぞ作者。)そして、終始彼女たちの言っていることが理解できなかったが、これにて無事に最初で最後の誕プレ会が閉幕した。

「てな訳で、部長。これからは四人で、ガチで落としに行きますので覚悟しといてくださいね!」

 やはり僕のことを想う女の子は変な子ばかりだ。



第9話へ続く。

------------------------------------------------------------------------------------------------

【お知らせ】年末年始及び2025年2月までの更新日のお知らせ


 2024年もあと少しとなりました。皆様は年末をどうお過ごしになるでしょうか?私はバイト三昧ですかね…。

 そんなことはさておき、現在ご覧いただいております『先輩って、今彼女いるんですか?!』ですが、普段は毎週土曜日19時に更新となっておりますが、2025年2月までは以下のようにさせていただきます。


■2024年

12月21日(土) 第8話更新(今日)

12月28日(土) 第9話更新


■2025年

01月04日(土) 休載

01月11日(土) 第10話更新

01月18日(土) 休載※1

01月25日(土) 休載※1

02月01日(土) 休載※1

02月08日(土) 第11話更新※2


※1 大学がテスト期間につき、執筆時間が確保できないため。

※2 テストの状況次第で休載となる恐れがあります。


 年明け初更新は11日(土)から、その約1か月間更新をお休みさせていただきます。何卒ご理解いただきますようお願いいたします。



2024年12月17日 中野航希

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 土曜日 19:00 予定は変更される可能性があります

先輩って今、彼女いるんですか?! 中野航希【先カノ毎週土曜19時更新中!】 @nakka_anime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画