先輩って今、彼女いるんですか?!
中野航希【先カノ毎週土曜19時更新中!】
第1話 先輩って今、彼女いるんですか?!
第一章 部長決定
「二学年の各部活動の新部長に連絡です。新部長会議を行うので、二年三組の教室に放課後集合してください。」
終礼が始まる数分前に、学年主任の野太く大きな声が放送で校内に鳴り響いた。
今日は九月二日、二学期初日。夏休みの大会を最後に先輩達が引退したため、部員が著しく少ない部活動を除いては、僕たち二年生が新部長、新副部長に就任する。新体制としての部活動がまた一年、再スタートするのだ。
そろそろ終礼が始まる頃だったので、廊下で他クラスの友達と雑談をしていた僕は教室へ戻ろうとした時、ある二人が同時に僕の名前を呼びながらこちらに向かってくる。
「中村ー!!」
「中村くーん!」
僕と同じ放送部に所属している谷口と松木だ。僕のもとに来ると、谷口が身を屈して、息を荒げながらこう言った。
「ふちょう、、、、だれが、、、、」
走り疲れて声を上手く出せないのだろうか、正直何を言っているのかよく聞き取れない。そもそも谷口は放送部にいるくせに滑舌が悪いので、正常時でも何を言っているのか聞き取れないのだが。
「谷口、あんたじゃ何言ってるか分かんないわ!」
松木が谷口に突っ込む。
「ねえ、中村君。私達放送部、誰が部長やるか決まってないけどどうする?」
「............。」
一瞬だけ静寂に包まれたが、松木の言う通り、放送部では部長会が始まる直前だというのに部長はおろか、副部長すら決まっていない状況なのであった。そんな中、松木がこう提案した。
「早く決めないと部長会、迷惑かけるよね。とりあえず、部長会行く人だけ決める?」
これに納得した僕ら2人は
「そうしようか。」
と息が合うように同じことを言った。誰が行くかを話し合おうとした途端、教室の中から担任教師が僕を呼ぶ。
「終礼始めますよ、教室に入りなさい。」
そんなこと言われても、終礼よりも大事なことを決めないといけないというのに。終礼に行かなくてはならない僕は、廊下にいる二人に咄嗟にこう言い放つ。
「部長会、とりあえず僕が行くから部長とかの役職はあとで決めようー!!」
二人は了解という意味で親指を立てて、各々の教室へと戻っていった。
席に着き、脳内で部長会行くの怠いなとか考えていると、気づいた頃には終礼が終わっていた。
「では放課後に部長会があります。各部の部長となっている人は、放送であった場所に行ってください。また明日。」
担任教師がこう言うと、クラスの全員が席を立ち、教室から出ていく。気づけば教室には僕一人となっていた。僕も重い腰を上げて、そろそろ部長会の会場である二年三組へと向かおうかな。
会場に着くと同時に、二年三組も終礼が終わった様子だったので、さっさと教室に入ろうとした。その時、二年三組所属の松木が再び終礼終了と同時に教室から飛び出して話しかけてきた。
「中村君ありがとね。顧問の先生には部長代理で行ってくれてるって言っておく。私は先に部室行っておくよ!」
そう言い残して、颯爽と階段の方へと消えていった。そんなに部活が楽しみなのか?と感じるように、彼女の姿はもうなかった。
すぐに終わるだろ、と思いつつ僕は指定された座席に着席した。全員揃うのに時間が掛かると思っていたが、二年三組以外とっくに終礼が終わっていたためか、案外すぐ揃ったため部長会が開始した。
「机上に置かれた資料を見てくれ。まず部長心得だが、部長になったからには全員のお手本であることを自覚して行動して頂きたい。そして…」
学年主任の話が止まらない。部長に決まった訳でもないのにこの会に参加してしまっている僕には関係の無い話なので、しばらく経つと僕は目を瞑ってしまっていた。
目が覚めても、まだ話が続いていた。開始から既に四十分が経過し、時刻は既に十三時三十分を過ぎていた。今の僕の頭の中は空腹しかない。実は我らが放送部、部長は決まっていないのに、今日の部活が始まる前、部員全員でお昼を食べようということだけは決まっている。どうでもいいことは決めて肝心なことを決め忘れているのは非常に謎だが、今の頭の中は『他の部員達は、お腹空かせてるんだろうなあ』などと思っていると、
「それでは、第1回部長会を終わります。」
学年主任が言った。この言葉が放たれた途端、全員すぐに離席した。皆そんなにお腹が空いていたのか?という疑問を持つのも不思議でないようなスピードで、気づいたらこの教室には僕一人となっていた。僕も荷物を抱えて部室へと向かう。ちなみに部長会は六十分ほど掛かってようやく幕を閉じたということを、後日同じクラスの陸上部部長から聞くのであった。
部室に到着すると、部室のドアは完全に閉められており、中には部員全員と森田先生、柳先生二人の顧問が着席した状態で何かを話している。廊下に面した部室のドアと部室内とで二重扉になっているため、こちらには何も聞こえない。
「おつかれさまでぇーす!!!!!」
僕は話し合いを崩壊させるほど、俗に言ううるさいくらいに大きな声で、挨拶をした。顧問は普段大人しい僕が出すとは思えないような声量の挨拶を聞いてびっくりしたのか、少しの間の後、森田先生がこちらに話しかけてくる。
「部長会お疲れ様です、中村君。」
「おつかれさまです!今どんな話ししてたんですか?」
「今はねぇ………」
森田先生が続きを言おうとした瞬間、柳先生が割り込んで来て
「今日から放送部の部長は、中村君です!」
「…………。え?」
状況が読み込めず、思わず入口のドアの前で立ち尽くしてしまった。
「どうしたの、新部長さん。あなたの部活なんだからしっかりしてよ!」
何故か怒っているような表情で松木が僕に言ってきたが、そもそもさっき松木と部長会開始前に交わした話と違うじゃないか。
「いや、部長会に行っただけで部長になるとは一言も…。それより後で決めるってさっき言ったやん。」
「さっき自分から率先して部長会に行ったんだから、もう部長でよくない?それに私、お仕事あるからそんなに部活来れないし、谷口は滑舌悪いし消去法で中村君になるんだけど。」
ぐうの音も出なかった。言い忘れていたが、学外の活動として、松木は芸能事務所に所属している。時々ドラマ出演やモデル活動などを行っているせいか、松木の存在は全校はおろか地域でも知れ渡るくらいには有名だ。その仕事の影響もあり、今日みたいに最初から部室にいることは実は珍しいのだ。となると、谷口は消去法で消えて僕が部長になるのは仕方無いのかもしれない。僕は気怠そうな声で
「はぁ……じゃあ…やりますよ………。」
と返事をしてしまった。
「その代わり、この部活を無茶苦茶楽しい場所に変えてやるからな!お前らついてこいよ!」
「じゃあ私副部長するわ!」
松木が副部長に立候補し、僕の宣誓と共に部室内では再び拍手と大歓声が起こった。
実はこの選択が後に僕の人生、この部活動を180°変えてしまうのである。
第二章 先輩って今、彼女いるんですか?!
部長が僕に正式決まり、顧問の先生から資料が配布された。そこに書いてあったのは『一年間の目標』である。
僕達の住む地域の中学校放送部の大会は、朗読部門、アナウンス部門、番組制作部門などに分かれ、それぞれが市大会から始まり、県大会、そして全国大会へと進んでいく。大会は年2回、夏と冬に行われる。市大会金賞を取ると県大会へと進めるのだが、僕らが在籍しているこの三和中学校では毎年、取れても朗読部門の市大会銅賞で、その他の部門では賞を取ったことがないレベルで創立以来ずっと弱小校なのである。これは環境が悪いだとか、指導者が悪いとかの話ではなく、単純に練習をしなさすぎているだけなのだが。そんな学校が全国目指して日々練習励むか、あるいは賞などは気にせずにのんびり部活を楽しむかの二択の目標、どちらがよいかをこれから部員達に問う。
結果は満場一致で後者だった。それもそうだ、今までそうであったのだから。そもそも、前者が選択された場合、この話は日々練習に打ち込む部員たちの様子を描くストーリーがこの後展開されていくだろう。読者の方々はお忘れであろうが、これからラブコメストーリーが展開されていくのです。(まだラブコメ要素何も無いけど??)
「では、今年一年間の目標は『のんびり部活を楽しみ、学校行事の際は放送係として学校に貢献する。』に決定したいと思います。」
僕がこう言うと、拍手が沸き起こった。この瞬間、僕は心の中で誰一人として練習を真面目にしたいというやつはいないのかと疑問が湧いたが、それは口には出さないでおこう。
新体制での目標も決まったので、今日中にやるべき事は終わった。
「じゃあ、部活終わったことだしそろそろお昼みんなで食べますか!」
僕の腹はペコペコだ。すると部室の奥の方から明るく高く元気の良い声で突っ込まれた。
「もう部長以外食べ終わってます!」
「えっ?」
「部長会がこんなに長引くとは思わず、空腹に耐えられなかった皆は食べ終えてます。」
彼女と僕の掛け合いに、部室は笑い声で包まれた。彼女の名前は織田友梨佳、一つ下の女子で後輩。一つ下の友達から以前聞き入れた情報だと、周囲からの信頼や評判もよく、何より顔立ちがよくかわいいと同学年の男子の中でも人気だとか。これまで接点は部活が同じであるというくらいにしか無かったし、会話もほぼしてこなかった。おそらく彼女と話したのは、仮入部初日以来であろう。
僕が二年生一学期の頃のお話。一年生の入学式から約一ヶ月が経った頃のこと。仮入部初日、織田友梨佳、松本花、仲本美玖の女子三人と、井川優希の男子一人の計四人が仮入部と言う名の部活説明会を聞くために部室に来てくれた。
この仮入部では、新入生に対してこの部活では一年間どんなことをして、大会でこんなことをしてなどの説明に加え、放送部独自の仮入部活動として、毎日給食時間中のお昼の校内放送体験などをさせる。これを本来は部長が仮入部期間中毎日やるのだが、全期間に渡って当時の部長を含む三年生全員が欠席をした為に、部長代理として僕が全部説明をした。当時僕は新手のいじめか?とも感じたが、新入生が和やかに楽しんでもらえたらという願いで、自分のキャラに合わないようなパフォーマンスで計5日の仮入部期間を全うした。
その成果もあってか、僕ら二年生は三人、三年生も四人しか部員が居なかったのに、新入部員は女子六人、男子五人の計十一人となった伝説の物語。
そんな仮入部の話はどうでもいいのだが、織田との掛け合いの後、僕以外の部員は持参した弁当を食べ終えているとのことだったので今日の活動は終了し、解散させることにした。
「それでは今日の部活を終了します。気をつけ、礼。」
「ありがとうございましたー。」
部員達は声を揃えてそう言うと、足早に帰宅していった。僕も帰宅しようとしたが、あまりにも空腹だったので、一人で残って部室で弁当を食べてから帰ることに決めた。
全員が帰宅したのを確認してから、弁当箱の蓋を開けて呟く。
「いただきます。」
こんな静かな空間でご飯を食べるのなんていつ以来だろう。母さんが朝作ってくれただし巻き卵をスタートとして、白米、おかずのハンバーグ、サラダを交代交代にモリモリと食べ進めていると、あっという間に中身が残り半分となっていた。すると静寂であった部室のドアをノックする音が聞こえて来た。思わず
「はーい。どうぞー。」
と言ってしまったが、一体誰だろう。
「こんにちは。」
静かに扉が開くと、そこにいたのは織田だった。
「あれ?帰ったんじゃないのか?」
「い、いえ…。」
そう僕が聞くと、織田は何かをボソボソと呟いている。
「わたしも……………てもいい……すか…。」
「えっ?なんて?」
彼女は数秒間、下を向いたまま黙り込んでいたが、ようやく顔を上げて口を開く。
「私も、一緒に食べてもいいですか!」
「おっ、おう……。」
彼女は顔を赤面させながら、僕の目の前に静かに着席し、小さな弁当箱を通学鞄から取り出す。ここで僕は一つ疑問があったので、彼女に聞いてみることにした。
「さっき空腹に耐えられなかったから皆で先に弁当食べたって言ってなかったか?」
彼女は再び黙り込んだが、少しの間のあとこう述べた。
「先輩と、食べたかったんです。」
「なんで?」
「なんでって……、先輩が一人で食べるのは可哀想だなーって思って!笑」
「なんだよそれ笑」
それから彼女と二人で弁当を食べ進めて行く最中、雑談で盛り上がった。アニメとか漫画を見るのが趣味らしく、意外とコイツとは気が合いそうだとか思っていると、両者共に弁当を食べ終えた。
「じゃあ食べたことだし、僕達も帰ろうか。」
「そう……ですね。」
食べ終えた空の弁当箱を通学鞄にしまい、部室から出ようとした時、織田がこう尋ねてきた。
「あの、先輩。私がさっき皆と一緒にお弁当を食べなかった本当の理由、気になりませんか。」
「僕と弁当食べたかったんじゃないのか?」
「それもあります。ただ、本当の理由はそれじゃないです。」
彼女は再び顔を赤面させ、両手の拳を握りしめながら早口で言い放った。
「私、先輩のことが好きなんです!普段部活動以外で見かける先輩は真面目だけど、部活に来たら人が変わったかのように面白い人になる。そのギャップが、中学に入学して、部活に入部した時から今までずっと面白くて好きなんです!だからその…」
熱でもあるのではないかというほどに、さらに顔を赤面させながら、さらに彼女が少しの間を開けて僕に問いかける。
「先輩って今、彼女いるんですか?!」
第2話に続く
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