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そこから警察とカーチェイスしたり、それに有矢さんが走って追いついてきたりと、いろいろとあったわけだけど、無事に目的地にたどり着くことができた。
車を降りる。ナンバーは押さえられているだろうし、帰りは別の車を拝借しないといけない。
めちゃくちゃやって、少しだけばつが悪い。後ろを振り向くことができない。逃げよっと。
眼鏡をずらして、裸眼で世界を視る。額縁の中のように平らな世界。そこに自分を溶かし、重ねる。私はここに居る。
眼鏡を戻し、もとの正常な世界を捉える。障害物さえなければ、これだけで視線の先にワープできる。原理は前に説明された気がするけど、覚える気も起きなかった。
それを何度か繰り返すと、皆の視界から完全に消え去ることができる。しばらくしたらしれっと現れよう。
「さて――」
これから何しようかな的な雰囲気を醸し出しているが、これからの行動目標はすでに定まっている。
例の女の子を探さないといけない。確か、苗字は天音だったか。
一応、あの婆の頼みだし、逃げるわけにはいかない。まことに不本意だけど。すっぽかしたりしたら例の屋敷に封印再度されてしまう。そんなことになったら私の精神が朽ちる散る落ちるなので、最後だけ冗談。
さて、イナイ×イナイになってしまった女の子を探しに行くとしましょうか。
と言っても、私は警察でもないし探偵でもなければ、便利な魔法が使えるわけでもない。人探しなんてうまくできるはずがない。
よって、何かやってる感を出して私働いてますよアピールに努めようと思う。大切なのは真実に向かおうとする意志だから。
「はい。天音さんです。——あ、そうですか。はい、すいません。ありがとうございました」
まずは聞き込み。知り合いの魔法使いに電話をかけてみる。成果なし。
次は当てもなく歩き回ってみる。すごく寒い。
——おや、目の前に不審人物発見。雨も降っていないのに真っ赤な傘をさして歩く、中学生ぐらいの女の子。
そして、その正面から紗幸さんが歩いて来る。みんなとははぐれたのだろうか、というか、私結構な距離を移動したはずなんだけど、知らないうちに地球一周して戻ってきたりしてるのかな。
紗幸さんは携帯の画面を見ながら歩く。一方少女も傘を前向きにさして、前は見づらそう。
衝突の寸前、互いに体をずらす。——同じ方向に。
「あ、——っせん」
軽く頭を下げる紗幸さん。私ならここで胸ぐらにつかみかかっていた。冗談。
それで二人の短い会合が終わり、私が紗幸さんに声をかけようと口を開きかけた瞬間、紗幸さんの体が前向きに倒れる。
理由は明白。女の子が足を引っかけた。
「——」
喧嘩の予感。わくわく。
紗幸さんが女の子に詰め寄る。鬼が浮かんでいるような恐ろしい背中。はてさて、どんな罵詈雑言が飛び出すのやら。
振り向いた女の子には、なんの表情も写っていない。紗幸さんはその氷のような面に、拳を叩き込んだ。
うわぁ……。ちょうど十三歳ぐらいの幼い女の子に、容赦なくグーで行った。暴力はいけない。詭弁だけど。
「何……?」
殴ってから用件を尋ねる紗幸さん。そのセリフを言いたいのは女の子の方だと思う。
「——そう」
会話が進んでいるようだけれど、女の子が口を開いている様子はない。
『気分。なんとなく、そんな感じ』
聞こえるぞ。私にも声が聞こえる。これは、テレパシーの類だろう。この女の子、魔法使いだ。——ん? この子、天音さんとこの子なのでは。
「わかった。殴るね」
紗幸さんはいったい何がわかったのかは知らないが、もう一発殴るつもりらしい。一歩踏み込んで。そして、裂けた。
水風船が破裂したかのように、赤い粒が宙を舞う。
紗幸さんの横腹を、何かが貫いていた。あれは、おそらく、水。
『おはよう。見て、雨よ』
瞬間、世界が切り替わる。眼鏡をはずした時のように、あくまで地続きの世界に全く別の風景が映る。
透明な無数の線、それは雨。アスファルトを叩く。
――さて、考察タイム。
私はあまりに魔法に詳しいわけではないが、それでも雨乞いぐらいは知っている。そして、今のが雨乞いではないことも理解している。
根拠は二つ。一つはあまりに急すぎること。雨乞いはあくまで自然現象を呼ぶための儀式。急に天気を変えれるような便利な代物じゃない。
二つ目はあの女の子のさしていた傘。雨が後から呼ばれたものなら、普段から傘を広げて歩く必要はないはずだ。ここから導き出されるのは、あの女の子には初めから雨が降っているように見えていたという答え。
認識の異常。いわゆる超能力。わたしとおなじ。
そして、その彼女が見ている世界に取り込まれたという形なのだろうか。これに関してはさっぱりわからない。
はい、考察おわり。
今の状況としては私が二人の間に割り込み、絶賛熱い視線を向けられている最中。
いやぁ、雰囲気が悪い。こわいこわい。
「二人とも、ちょっと落ち着いてください」
殴り合いなら見物してもよかったのだが、殺し合いを見過ごすわけにはいかない。脇腹を裂かれた紗幸さんもそれなりに重傷なようだし。
「話し合いましょう。ね」
「わかり合いましたよ、私たち」
脇腹を抑えながらふらつく紗幸さんが言う。
「だから、あいつをぶっ飛ばす――」
紗幸さんが大きく横に飛ぶ。突き出された指先には、既に魔法が装填されていた。
——ああもう、なんで戦っちゃうのか。どう考えても勝てないでしょ。
女の子の目線に合わせ、無数の水滴が渦を作る。
眼鏡をずらす。視界を、世界を、私をずらす。
そして、戻ってきた私は紗幸さんの目の前。
「だめです」
突き出した腕を掴み、投げ飛ばす。
背後に振り返り、もう一度ワープ。そこから足払いをし、女の子の動きも封じておく。
所詮は素人。二人とも、ちょっと変な力を持っただけの普通の女の子だ。いきなりバリバリ戦える人たちの方が異常なのだ。誰とは言わないけど。
「はーい。紗幸さん。みなさんは?」
「近くに居ると思いますけど……」
不服そうな紗幸さん。
「先、帰っててください。私はちょっと、用事済ませてから帰ります」
さて、なんだか無視できない感じになって来た。那古野奏、動きます。夕食までには帰れるといいな。
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