六埼

「ちょっと、話がるんだけど……」


 家に帰ると、俺はソウジとミツキの二人を家の裏へと呼びだした。


「どうした? 有矢」


 腕を振り、ソウジの首を切り落とす。間を置かず、ミツキの首も切り落とす。

 力を込めなくとも、首は簡単に胴体と離れて、切口は血潮を撒き散らす。重たい音を立てて首が地面に落ちる。さっきまで人だった体が崩れ落ちる。

 俺はその場に蹲り、胃の中身を全部吐き出した。零れる涙も、余計な意識も、まとめて出て行けばいい。

 立ち上がる、袖で顔を拭う。

 ——もう引き下がれない。もう泣かない。躊躇わない。


 二人を最初に殺したのは、二人が一番好きだったから。実際はどうかは知らないが、小さなころを一緒に過ごした記憶がある二人。この村の中では、二人以上に特別な人間は六花さんを除いていない。だから最初に殺した。そうすればもう引き返せないから。俺が立ち止まるならこの二人の前だと確信していたから、——殺した。


 次に、商店街の人たちを殺した。商店街の人たちは俺に気さくに話しかけてくれて、みんないい人たちだった。

 

 突然、息が止まる。喉が思うように動かなくなって、空気が吸い込めなくなる。頭の中で、だれかが叫ぶ。——もうやめろ。家に帰れ。と。

 ——ああ、あの時と同じ。逃げ出そうとした夜と同じ。

 頭を殴る。殴って、自分の頭を叩き割る。脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜて、地面に捨てる。

 ——ああ、やっと、すっきりした。

 息のできない喉に爪を立てる。皮膚を突き破り、気道に穴をあける。

 ——これで息がしやすい。これで万全だ。何一つ問題ない。


 目の前になにか異形が見えた気がするが、既に黒色が覆いつくしてしまった。たぶん、もともと何もいなかったんだろう。


 次は村長を殺した。正直、俺はこの人が苦手だったけど、あの時の話は何よりも印象に残っている。

 顔を知っている人を全員殺した。顔を知らない人も殺した。泣き叫ぶ子供も、寝たきりの老人も殺した。

 さて、全部終わったから、六花さんを迎えに行かなくちゃ。

 鏡に映った自分と目が合った。

 ——ああ、なんて、酷い顔。

 黒色で自分を覆いつくす。虚ろな目には光を、口元には笑みを、血まみれの服はまっさらに、塗りつぶす。


「行こう、六花さん――!」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る