第187話 異常者の集団
帝釈天のことをまるで知っているかのような反応に俺は警戒しながらも、魔力をごっそりと持っていかれたせいで片膝をついて荒い息を吐いていた。
片腕を消し飛ばされたベレトは天へと昇っていく帝釈天を見てから、俺の方へと視線を向けた。
「やはり危険だな。ここでしっかりと殺しておかねばならんというボスの判断も納得できるというものだ、なっ!」
「させんっ!」
残った片腕で俺を殺そうとしていたベレトにハナが戻ってきて防御する。重い攻撃を防いだハナは、両足がコンクリートに陥没するほどの衝撃を耐えていたが、ベレトがその腕を上げてから足で攻撃する、ように見せかけてから消し飛んだはずの右腕を修復させてハナを殴り飛ばした。ハナは別にダメージを受けたわけではないが、吹き飛ばされてしまえば俺の元に戻ってくるまでに時間がかかる。その隙にベレトが俺の命を奪おうとしてくるのだが、空から帝釈天が高速で降ってくると、逃げるために距離を取った。
帝釈天は地面に激突することも無く俺の前にやってくる。俺のことを守るようにしてくれているが、マジで息が苦しい。一気に体内の魔力を持っていかれたことで身体の中がぐるぐるしている。それでも、召喚するだけで気絶していた過去に比べると、俺も成長したもんだ。
「わ、悪いな。まだお前に、完全に自由にやらせるぐらいには俺が、成長できていない、みたいだわ」
それでも、限定的に戦わせることなら可能だ。
召喚さえしてしまえば、それからの継続的な消費魔力などそれほど多くない。帝釈天は普通の召喚獣ではないからそれでもゴリゴリ削られていくのだが、それでも戦えるようになっただけでもマシだろう。
ベレトは油断なく構えていたが、ハナが飛びかかった。
「お前の相手は私もいるのだぞ!」
「貴様なんぞ、相手にも──」
帝釈天の目がきゅぴんと光ると、ベレトの全身に複数の穴が開いた。
ハナも驚いてその場から飛び退いたが、ハナが離れると今度は遠慮する必要がないと言わんばかりに口を開いて小さな光の球を生み出し、前方に射出した。
目にも止まらぬ速さで加速した球はベレトの上半身を消し飛ばして、その背後にあった直線状の全てを消し飛ばしてしまった。
「ベレトっ!?」
「……ふざけたのが出てきましたね」
バアルとパイモンがすぐさまこちらに気が付いたが、残っていたベレトの下半身はそのまま地面に倒れ込むことも無く、炎を纏って復活した。
「フェニックスを名乗った方が良いんじゃないか?」
「そう簡単に何度も復活できると思うなよ! 貴様は絶対に殺す! パイモン、バアル、手を貸せ!」
なんか復活したら顔も性格も変わってるんだけど、やばくない?
もしかしてゴエティアの人間はみんな澪みたいな感じなのかと思ったが、どうやらベレトは何度も復活できる訳ではないらしい。パイモンとバアルがベレトの近くに寄り、アバドンとイザベラ、そしてハナが俺の近くにやって来た。
「主様、妾は何をすればいい?」
「帝釈天のフォローなんていらない。稲村先生の方を……アバドンでいいか。アバドンは自分の主の方を頼むよ」
「主様、首を振っているぞ」
「なんでだよ……まさか俺は主じゃないから命令は聞かないとか思ってるのか? 稲村先生が俺に頼むって言ったから?」
「頷いているな……主様、妾の仕事はこいつを消すことか?」
「違うって!」
なんて融通の利かない召喚獣なんだ……しかし、命令に忠実なのは良いことかもしれない。
「イザベラ」
「なんで妾なのだ!? おかしさしかない! 今の流れはどう考えてもなんとか説得してこの赤肌悪魔が行くところで──」
「イザベラ」
「うぐっ!? ぬ、主様の馬鹿っ!」
可愛いこと言いながら向かうな。
ハナもちょっと引いてるぞ。
「帝釈天、いいぞ。俺の魔力をやる。今まで我慢させて悪かったな……存分に暴れろ」
言葉を発することはない金色の龍。その口がにやりと笑った気がした。
バアルが雷撃を、ベレトが青い炎を、パイモンが金色の光を手から放った瞬間に帝釈天はそれらの攻撃を正面から受けながらも平然とそのまま突っ込んでいき、全員を吹き飛ばした。そんなちまちまとした攻撃に意味などないと言わんばかりの堂々としたその立ち振る舞いに、パイモンが即座に切り替えて俺の命を狙ってきた。しかし、アバドンが口を開いて放たれた閃光がパイモンを吹き飛ばす。そして、その真上にいた帝釈天がバアルとは比較にならないほどの雷撃を放ち……その場に骨も残らなかった。
「くっ!? こうなったら──」
バアルが対抗しようと雷撃の威力を上げたところで、帝釈天の前脚が振るわれて全身がバラバラに切り刻まれ、その状態から身体をぐるぐると巻いてから竜巻を放ち、その全身を空に舞いあげ……雷撃で消し飛ばした。
「ふ、ははははは!」
ベレトは笑っている。
「ここまで、とはな」
それだけ言い残して、今度は塵も残さずに消し飛ばされた。
たった数十秒の戦いで地獄の王たちが処されていき、塵も残さずに消し飛んだ。俺の魔力は確実に減ってきているが、まだ帝釈天が暴れるぐらいは残っていた。
「お前が自由だ。行け」
俺の言葉を待っていたと言わんばかりに帝釈天は空に舞い上がり、光の速さで消えた。直後、東京の各地で黄色い龍が空を走って悪魔を駆逐していった。
それを見送ってから、俺は稲村先生とアスモデウスに視線を向ける。
「ごえ、てぃあも……終わり、か」
イザベラと白鯨の助けもあって、稲村先生は額から血を流しながらもアスモデウスの首に手を伸ばしていた。
既にパイモン、ベレト、バアルが死んだことを察しているのだろう。アスモデウスは笑顔を浮かべてから俺に視線を向けた。
「ボスに、気を付けた方がいい。あの人は、人間を捨てている」
「強さがってことか?」
「倫理観の、問題さ。君を殺す為に、国を滅ぼしても問題ないと、考えていると思うよ」
「とんでもない奴だな。地上の文明を洗い流すのはちょうどいいってか?」
「そうだ、ね……そうかも、しれない。もしボスに会ったら、伝えておいてよ。アスモデウスは最期まで、楽しそうだったってね」
それだけ言い残して、アスモデウスは自らその命を絶った。
稲村先生の手を払いのけてから自らを黒い炎で焼いたのだ。本当に楽しそうに、笑いながらその身体が燃えて消えていった。
ゴエティア……やっぱり異常者の集団だ。
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