第163話 期待してる
次々にカードを手の中に生み出して召喚してからそれを即座に消す。
俺の目の前で遊作も同じように召喚魔方陣を描いてキマイラを召喚してから即座に召喚をにカードを手の中に生み出して召喚してからそれを即座に消す。
俺の目の前で遊作も同じように召喚魔方陣を描いてキマイラを召喚してから即座に召喚を解除して再び召喚魔方陣を描く。
「ふぅ……本当にこんな技術を使いこなしてる人間がいるのかい? 実践してみたけど、正直に言うと人間業とは思えないんだけど」
「悪魔の名前を自称してた人間だからもしかしたら人間じゃないかも」
「は?」
「いや、冗談だって……そんなに怒るなよ」
「怒ってないよ。つまらない冗談にちょっと呆れただけさ」
それにしては空気が重くなった気がしたんだが……本当に怒っていないのだろうか。
俺と遊作は向かい合って、ブネと名乗っていた男が行っていた超高速の召喚魔方陣による召喚と召喚解除を利用したヒット&アウェイ戦法を試していた。あの男は片手ずつ2つの召喚魔方陣を利用してやっていたが、これが試してみると両手で1つの召喚魔方陣で試してみても上手くいかない……らしい。と言うのも、俺のカードを利用した召喚魔法は元々大量の召喚獣を一気に召喚することなんて簡単にできるので、召喚解除をさえ高速にできてしまえばブネの真似はできるのだ。もっとも、その召喚解除をするには俺が意識的にカードに戻さなければならないという思考の流れがあるので、はっきり言ってこっちを高速化するのは俺には無理な気がしてきた。
俺が操っているカードを用いた召喚魔法の解除はあくまでもカードに召喚獣を戻すイメージで、通常の召喚魔法による召喚解除はこちらから一方的に契約を打ち切るようなものらしく、解除の高速化は簡単らしい。
「それにしても、こんな技術を惜しみなく教えてくれるなんて……僕のことを評価してくれているのか、それとも舐めているのか、どっちなんだい?」
「人の親切ぐらい素直に受け取れよ……俺は別にお前に強くなって欲しいとか思っているわけでもないし、だからって弱いままでいろとも思ってないぞ。ただ、珍しい技術を見たからそれを教えてやろうってただの好奇心みたいなもんだろ……お前にはそういう気持ち、ないの?」
「ないなんて言わないけど……もし僕がこれを使いこなせるようになったら、僕は君より強くなるかもしれないよ?」
「ないだろ。だってこの技術を使ってた奴より俺の方が強かったんだし」
召喚士の勝負なんて確かにテクニックが介在する余地はあるだろうが、最終的には召喚獣がどれだけの力を発揮できるかで決まるものなんだから、俺のハナとイザベラが負けることはないから問題なんて起こりえるはずがない。
今度は明確な挑発の意を込めた言葉だったのだが、返ってきたのは見事な笑顔だった。何も知らない同年代の女性が見ればキャーキャーと喚いてしまうかもしれないようなイケメンスマイルだが、召喚士や魔術師として生きている人間ならばその内心を表すかのような燃え上がる魔力を見て顔を青褪めるかもしれないな。
「絶対にこの技術も吸収して君より強くなってみせるよ」
「期待してる。裏組織の人間が強くなるぐらいならお前が強くなってくれた方が楽しいからな」
「楽しい楽しくないで仕事してるの?」
「仕事にも楽しい仕事と楽しくない仕事ぐらいあるだろ」
「うーん……犯罪組織との戦いは楽しんじゃ駄目な部類だと思うけど……本当に俊介は変わった人間だね」
「変わってない」
そもそも上の方にいる人間なんてのは基本的に人間を辞めている奴らばかりなんだから、ちょっと戦うことが楽しいぐらいだったら全然大丈夫だ。
遊作にブネが使っていた技術を教えたのは、彼が力に飢えていると前から思っていたからだ。勿論、語った理由は嘘なんかではなく、本当に思っていることばかりだが……それ以上に俺はやはり遊作のことを気にしているのだ。
あいつならば俺のことを超えてしまうかもしれないとか、遊作ならその技術を体系化して将来に繋げることができるかもしれないとか……信頼しているからこそ彼に教えたのだ。本当は俺が自分で体系化して広めていくぐらいの気持ちを持ちたいものだが……残念ながら俺にそっち方面の才能はないのでどうにもできない。俺にそっちの才能があったら、とっくにカードを用いた召喚魔法だって確立できていたはずだ。まぁ……稲村先生すら解析するのが難しいと毎日唸っている俺の魔法が、簡単に体系化できるかどうかはわからないのだが。
俺の行動は基本的に6割の打算と4割の思い付きで成り立っている。裏組織の問題に首を突っ込んだのだって、タナトスを人間として連れ帰ってきたのも、遊作にさっきの召喚魔法を教えたことも含めて……打算と思い付きでやっているだけのことだ。
何が俺の得になって、何が俺の損になるのか……それが瞬時に判断できるだけの人生経験はないので、打算って言葉もおかしい話なのかもしれないが。
「街中で派手な戦闘をするぐらいなんだから、組織についての手掛かりを掴んだりしたんじゃないかい?」
「そう見えるか?」
「んー……そうは見えないね。決定的な手掛かりを掴んでいたら、君はここに帰ってくることも無くさっさと1人で乗りこんでるだろうし。でも、なにも無かったってことはなさそうだよね」
「お前、俺のことはなんでもわかるのか?」
「やめてよ、気持ち悪いこと言うの」
「気持ち悪いことしてるのお前だって自覚してないわけね」
なんで俺の思考をそこまで読み切っているのか知らないが、普通に気持ち悪いのは遊作だろ。俺は他人の思考を盗み見る様な精度で内心を言い当てたりできないんだからな。
「……もし、本当に敵の全体像が見えてきた時には、僕のことも頼ってくれていいんだからね?」
「それは言外に俺に1人で突っ走らないでくれって言ってるのか? そうだとしたら心外だから反論しておくが……俺はなんでもかんでも1人でやる人間なわけじゃないぞ」
「世の中に説得力って言葉があるんだよ。そういう言葉はちゃんと過去に誰かに頼ってきた人間が言ってこそ感動できるものであって、今まで誰にも頼らずになんでも1人で解決してきた人間が言っても、ただのその場しのぎだからね?」
誰が嘘つきだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます