第75話 有名人になった
ニュース番組で俺がやったことがめちゃくちゃ大きく取り上げられている。その光景をを食堂のテレビで山城、遊作、そして桜井さんの3人と一緒に眺めている。
「……すごい取り上げようだな。お前、有名人だな」
「それは俺のことを揶揄ってるのか?」
山城はテレビに映っているニュースを見てから、少し笑いながら揶揄って来た。
「それにしてもどういう心境の変化なのかしら? 貴方はもう少しやる気のない人間だと思っていたんだけれど」
「合ってるな。確かに、今までの俺はマジでやる気のない人間だったな」
「合ってちゃ駄目だと思うけどね……僕としては、いきなりやる気になってくれて少し嬉しいけど、ライバルとの差が広がってるのは少し悔しいかな?」
「は? こいつと競ってるのか? やめとけって。湖に浮かぶ満月に手を伸ばしても溺れるだけだぞ?」
「なんでちょっと詩的な表現使ったんだよ」
三者三様の反応。だが、どれも俺のことを馬鹿にするようなものではなく、むしろ肯定的な反応だった。
俺がニュースに取り上げられている理由は……グリズリーさんに対して好き勝手にやる宣言から数日後に起こった日本国内での巨大地震の復興に、召喚士としての力を使ったからだ。
今まで、誰かが勝手に
「免許は持っているから人を傷つけなければどんな魔法の使い方をしても怒られることはない、か……確かにその通りだね。君が持っている召喚士の免許は、ダンジョン内での魔法の使用を認めるものではなく、魔法そのものの使用を認めるものだから、災害救助に使っても誰も文句は言えないってことだ」
「屁理屈言ってる自覚はあるけどな。実際、世間では賛否両論……いや、どっちかって言うと反対の声の方が大きいか?」
「けど、それは
「……遊作、お前って人間嫌いなの?」
「そこまで好きではないかな?」
知らなかった。遊作のことだから「僕らは力なき者の為に力を使うんだ」みたいな高潔なこと言うのかと思ってたけど、案外人間が嫌いな感じだったりするんだ。
「結構批判されてっけど、これからも人助けに力を使うのか?」
「勿論、これ1回で終わりにするわけないだろ。これから何度でも、頼まれようが頼まれなかろうが俺は人助けをし続ける……ダンジョンの攻略だってやるけどね」
「……覚悟はあるみたいだけど、君はこれから沢山の人々から注目されるようになる。それがいいことなのか悪いことなのか、僕には判別することなんてできない。でも、その考え方は素晴らしいものだって共感するよ。僕にも力があれば……手伝ったりもできるんだけど、ね」
「いいんだ。遊作には遊作の事情があるだろうし、勿論桜井さんも山城も……個人の事情がそれぞれあるだろうから、俺の生き方を誰かに押し付けたりするつもりはない。誰かを助けたいと思ったのは、ガキみたいな正義感と使命感からの行動でしかないし、その行動が世間的に正義と呼ばれる行為ではないかもしれないことだって俺も自覚している。それでも、自分が正しいと信じる道を歩んでいるつもりだ」
他人から見て正しいのかどうか、という指標は確かに大切なことだと思う。人間性は社会性を大切にする生物だし、他人がやっていることを自分もやれば安心できると言うのもあながち間違っている訳ではない。それでも俺は、自分の心に従って生きることが大切なんだと思った。だから、自分が正しいと信じる道を進み続ける。
「……ちょっと羨ましいな。魔術師科にいると、魔術師になれなかった奴は自分たちよりも下なんだって考えの奴が沢山いる。多分、卒業したあともずっとそんな思考を抱えながら魔術師をやっている連中も沢山いると思う。けど……こうしてお前らみたいなやつと関わってると、どれだけ小さいことに拘っているのかよくわかるって言うか……なんか、自分なりの目標を見つけて前に進むお前らが、ちょっと羨ましく感じてしまう」
「別に今から見つければいいじゃん」
「僕もそう思うよ。山城くんがどう思うかが大切なんだから……環境を言い訳にすることもなく前に進もうと思うなら、僕はそれを応援するよ」
「男の友情ってやつなのかしら……私は、そもそも襲われたことのある今岡君が山城浩介のことを許していることがちょっとおかしいと思うのだけれど」
「まぁ、そんな細かいことはさ……ちくちくとずっと言い続けても仕方ないから」
「そうだよ。俊介にとっては小さなことだったってだけなんだから」
「事実なんだが、実際に面と向かって言われると自分の弱さが情けなくなってくるからやめてくれ」
いや、今のは遊作が勝手に言っているだけだが?
しかし、こうして食堂で飯を食っているだけでも周囲から視線を感じるようになったのはデメリットかな。目立ちたくてやっていたわけではない……いや、地位向上の為なら目立った方がいいのか? まぁ、色々とあるけど、とにかく学内で目立っても意味はないからデメリットかもしれない。
授業中なんかも遠巻きに色々と言われるようになったし、元々遊作と桜井さんしか話す相手がいなかったのに、可能性を自分で潰してしまったからな。
「でも、そうするとますます、君は学生らしくない生活を送ることになる訳だろう? 僕とも定期的に戦ってくれるんだろうね?」
「いや、別に学園に帰ってこなくなるわけじゃないからいいけどさ……なんなら、俺は定期的に山城と組手してるから」
「え? 聞いてないんだけど?」
「いや、だってこいつがいきなり俺に「近接戦闘を教えてくれ」って言うから、成り行きでな? 俺は別にどっちもでよかったんだけどよ」
「僕も近接戦闘できるのに?」
「流石に山城の方が上だもん」
「へぇ……山城浩介、僕と勝負しろ」
「面倒ごとを増やすな! 俺に対してももっとも人助けの精神で優しく接しろ!」
いや、桜井さんも言っていたけど、襲われた相手に対してこうしてまともに接している時点で俺は慈愛に満ち溢れているレベルだろ。
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