第58話 原因
突っ込んできたデビルドラゴンに対して、イレイナさんの召喚獣である虎ががっつりと組み合っている。膠着状態になるのかと思ったが、デビルドラゴンがおもむろに口を開けて魔力を集中し始めた所で、ハナが飛び出してその頭を切断した。
「アーノルド!」
「え、それ虎の名前ですか?」
イレイナさんがなにかの名前を呼んだと思ったら、虎が口を開いてバチバチと音を発しながら雷を放った。デビルドラゴンの身体を貫通してそのままダンジョンの壁を破壊していく。青白い身体から青白い雷を発生させるとは……もしかしてあのもふもふの体毛は雷を発生させるために……いや、絶対ないな。
頭を吹き飛ばされてもずりゅっと再生したデビルドラゴンだが、生えてきたのはドラゴンの顔ではなく悪魔の顔だった。まぁ……まだ生まれて間もない個体なのだから取り込んでいるモンスターの数が少ないのだから、再生しても大したことはないと思っていたが、悪魔の顔が首から生えてくると、流石にドラゴンの身体と比べてアンバランスだな。
「ハナ、バラバラにできるか?」
「これくらいなら、可能だなっ!」
以前に出会ったデビルドラゴンと比べると、この個体は身体も小さい。まぁ……あの最初に出会った個体が20年近くモンスターの貪ってその身体に蓄えていたのだから、あちらの方が異常だと思うが……とにかくこのデビルドラゴンには触手だって生えていないし首も1つしかないので、倒すことは容易い。
アーノルドが前脚で思い切りドラゴンの身体をぶん殴ってから雷を再び口から吐き出して攻撃している横を、ハナが通り抜けて雷を避けながら全身をバラバラに細かく刻んでいく。ハナとアーノルドの攻撃を受けてあっという間に劣勢に追い込まれたデビルドラゴンは、胸の紫色のクリスタルを光らせ始めた。
「やべ、イザベラ!」
「うむ!」
胸の水晶が光ってからの猶予は数秒……流石に自爆がくるとわかっているのならば対処方法は存在している。ハナも気が付いたのか、剣を水晶に向かって投げつけて身体ごと貫通させ、数瞬遅れてイザベラが放ったビームによって上半身ごと消し飛ばされた。
「な、なに?」
「いや……自爆しようとしてたから」
「自爆? そんなことするの?」
「あぁ……報告書とか見ないタイプ?」
「面倒だから書類は見ないのよ」
それでよく組織所属で生きていけるな。
崩れ落ちたデビルドラゴンの下半身についていた目が、ぎょろぎょろと動いていたが……次第に動きが鈍くなって塵になっていった。恐らく、上半身を消し飛ばされた状態からも再生しようとしたのだが、取り込んでいた悪魔たちの力では足りなくて死んだのだろう。
デビルドラゴンのこの生態はとんでもないものだ。海に住むクラゲには、傷ついたクラゲ同士が結合して傷ついた細胞を補いなら2匹で1匹の生命体のような形になるものもいると聞いたことはあるが……デビルドラゴンのこれは一方的な搾取だ。しかも同族ではなく他種を取り込んで、己の身体としている。他の生命体を捕食して栄養源にしているのではなく、そのまま特性を取り込んで自らの身体にするなんて生物としてあまりにも意味不明な存在と言えるだろう。
「で、ここからが本題な訳ですよね」
「そうね。デビルドラゴンが発見されたって言うのが発端ではあるけれど、問題はこの奥で何が起きていて、決壊の原因になっているのかを確認しなきゃいけない。デビルドラゴンはあくまでも前座ね」
デビルドラゴンを倒しにこの悪魔の巣にやってきた訳ではない。悪魔の巣が決壊する前にデビルドラゴンが生まれる原因になったものを探しに来たのだから、ここからが本番だと言ってもいいだろう。
「……これ言ったら本末転倒なんだけど、そもそもダンジョン内のモンスターを殺してバランスを取るなんて馬鹿みたいなことよね」
「そうなんですけど……いきなりどうしたんですか?」
「私は、今回の原因は下にモンスターが溜まり過ぎたからじゃないかと思ってる」
つまり……上のモンスターの数を減らしてバランスを取っていると言っているだけで、実際には下にモンスターが増えているせいでどんどんとキツイ状況になったと。まぁ、確かに言いたいことはわからないでもないんだけども……誰も最下層を見たことが無いのだから言っても無駄なのでは?
「なるべく下のモンスターを倒してバランスを取るように、なんて言われているけれども、誰だって死にたくはないからなるべく上の方でモンスターを倒すでしょう? そうしたら……結局は下で活動できる誰かに押し付けるだけになる。でも下で活動する人は誰に押し付けるの? その結果が……悪魔の巣の決壊なんじゃないかと思って」
「まだ決壊してないですけどね」
決壊したみたいな言い方しないでくれ。俺たちは一応はその決壊を止めに来たんだからさ……言いたいことはわからないでもないけれど、俺たちは俺たちにできることをやるしかないんだから、他人に文句を言っていても仕方がない。
「行きますよ」
「……君は強いね。私は迷わないことは強さだと思うよ」
「俺なんて人生迷いまくりですよ」
元々召喚士になるつもりもなかったんだから、迷わないことが強さの証なのだと言うんならば俺は強くない。迷っても前に進めるのが強さだと、俺は信じているからな。
デビルドラゴンを倒した地点から更に進んでいくと……悪魔と人間の戦闘の痕跡らしきものがまだ存在している。たまたまデビルドラゴンと出会わなかったのか、それとも単純にデビルドラゴンから逃げてこの奥に向かってしまったのか。
「血痕がないってことは……ここら辺の悪魔を傷一つなく倒してるってことですよね」
「もしくは、血痕を残さずに自らの傷を治すことができるか」
「傷を治しても流れた血は消えないでしょうし、それはないですね」
俺たちよりも先に進んでいる人間が、少なくとも1人はいるってことだ。その人が国が用意した人なのか、それと組織が招集した人なのか知らないが、かなりのやり手であることはわかる。
「もしかしたら俺たちが追い付くころには原因が倒されちゃってるかもしれませんね」
「原因が倒されている、ね……そんな単純に倒せる奴が原因だったら楽なんだろうけど、そうじゃないことぐらいは想像しておきなさい」
「夢が無い人だなぁ……つまらなくないんですか?」
「仕事に面白いもつまらないもないでしょう? 早く行くわよ」
えぇ……なんか、仕事人間だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます