閑話 電波が悪い?
安藤
「もしもし」
???
『もしもし、安藤君?』
安藤
「宮崎さん、久しぶり」
宮崎
『安藤君? おーい』
安藤
「……? 宮崎さん」
宮崎
『聞こえてるー?』
安藤
「聞こえてますよ」
宮崎
『アレ? おかしいなぁー』
(電話の向こう側からごそごそと音が聞こえる。その後、すぐに宮崎の声が再び聞こえるようになった)
宮崎
『もしもし?』
安藤
「はい」
宮崎
『あ! 聞こえた! よかったぁー』
安藤
「聞こえるようになりましたか」
宮崎
『うんうん、完璧! なんか電波が悪かったみたい!!!』
(宮崎の大声に顔を顰める安藤)
安藤
「そ、そうですか……。それで、今日は何です? わざわざ電話なんかして」
宮崎
『あのね、一応LINEには送ったんだけどね、安藤君見てなかったみたいだったし、一応電話で教えとこうかと思ってね!!』
安藤
「すみません、仕事が忙しくて見てなかったみたいです。……あの、あと声デカいです」
宮崎
『今度久しぶりに新聞部のみんなで集まろうって話、安藤君も来るかなっ!!?』
安藤
「……? 宮崎さん?」
宮崎
『んっ? 何!?』
安藤
「……今怒ってますか?」
宮崎
『えっ!?? なんで!!?』
安藤
「と言うことは怒ってないんですね?」
宮崎
『う、うん。怒ってないけど』
安藤
「……顔のどちらの耳に携帯をあてていますか?」
宮崎
『えっ?』
安藤
「耳です。どっちの耳で声を聞いていますか」
宮崎
『右耳だけど?』
安藤
「もしかして、最初は左耳で聞いてたんじゃないですか」
宮崎
『えっ? なんでわかるの!!?』
安藤
「電話を掛けた。だけど俺の声が聞こえ辛かったから、左から右の耳に携帯を当て直した。そうしたら、今度は俺の声が聞こえるようになった。違いますか」
宮崎
『わぁー! すごーい! まるで名探偵だね!?』
安藤
「宮崎さん。よく聞いてください。さっき電話の音が聞こえ辛かったのは電波が悪かったからじゃありません。俺からは宮崎さんの声がはっきり聞こえてましたし。電話の音が聞こえ辛かったのは宮崎さんの左耳の聴力が極端に低下してるからだと思います」
宮崎
『へっ?』
安藤
「最近耳が聞こえにくいって感じたことはありませんか」
宮崎
『そう言えば、先週から左耳に何か詰ってるような気がするかも?』
安藤
「具体的にいつからその症状が始まったかわかりますか」
宮崎
『い、一週間くらい前……かな?』
安藤
「以前に似たような経験は」
宮崎
『ないけど……。なんか尋問みたいでドキドキするね……』
安藤
「あっ、すみません……。それで、眩暈はありますか」
宮崎
『めまい? ううん』
安藤
「家族に難聴は?」
宮崎
『わかんないけど……いないと思う』
安藤
「何か普段から服用している薬剤などはありませんか」
宮崎
『お薬? 全然ない』
安藤
「……一週間前って、具体的には何日前だったか覚えていますか?」
宮崎
『えっと……、どうだったかなぁ』
安藤
「すぐに病院に行ってください。今すぐ」
宮崎
『え、ええっ!??』
安藤
「できれば大きい病院。それか、近場の耳鼻科ですね。入院設備がある所ならいいんですけど」
宮崎
『そんないきなり……』
安藤
「宮崎さんは突発性難聴を患っている可能性が高い。いや、もっとヤバい病気かも」
宮崎
『トッパ……?』
安藤
「今すぐ治療を始めないと、左耳の聴力を恒久的に失うことになります。時間が経てばたつほど聴力を失うリスクが高くなる。だから一刻も早く病院に行くべきです」
宮崎
『……』
安藤
「宮崎さん?」
宮崎
『……す』
安藤
「す?」
宮崎
『すごーい!!』
安藤
「……」
宮崎
『まるでコナンみたい洞察力だった! 安藤君ってお耳のお医者さんなんだったっけ?』
安藤
「いや、俺は脳外……。とにかく、早いとこ病院に行ってくださいよ」
宮崎
『うんわかった、いくいく!! ありがとね、安藤君!!』
(勢いよく電話が切断される)
安藤
「……」
(座っていた椅子の背もたれに沈み込む安藤)
安藤
「すごい声量だった……。聞いてるこっちが難聴になりそうだ」
安藤
「確か、宮崎さんって声優になったんだっけ」
安藤
「……新聞部か。懐かしいけど」
(安藤、スマホで予定表を見ながら)
安藤
「同窓会、行けそうもないな……」
(終)
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