第6話 唐突な異世界転移

「アニメ化にしろ、最初の目標はアニメ化作家になることだ、いいな」


 「最後の目標を達成するために狙ってアニメ化作品を作り上げられるようになれ」

 「いや、ツッコミどころが多すぎるんですけど…まず、最後の目標ってなんなんですか」

 「今のお前に言ったところで意味のないことだ、時が来たら教えよう」


 そう言われると気にならない訳がないのだが、教えてくれそうもないので大人しく引き下がる。きっと私のようにラノベ以外の作品も書けるようになれとかそんな感じだろう。


 「勿論師匠になったからには最大限のサポートをしよう、ただ実際に物語を作るのは君だ、私を失望させないでくれよ」

 「私が教える以上そんなことはあり得ないがな」

 「はぁ…」


 あまりの自信に言葉がでない、この人と出会ってから何度言葉がでないことがあったか数えるのもめんどくさい、そしてこれからも回数は増え続けるだろう。

 「何か質問はあるか?」


 とくにないが何も聞かないと機嫌を悪くしそうなのでふと思いついたことを聞いてみる。


 「じゃあ一ついいですか」

 「いいよ」

 「なんで初めて会ったとき俺に話しかけてくれたんですか?普通初対面の人間に自分の素性語るなんてあり得ないでしょ」

 「九重君にしてはなかなかいい疑問を持ったね」


 安定にうざいのは置いといてこの感じ…俺自身でも気づいていない潜在能力に興味を持ったのではないだろうか。隠された才能に目を奪われたみたいないい話がくるぞ。


 「君の才能に一目置いた…とかでは全くない」

 「うんう…ん?え、違うんですか!?!?」

 「当たり前だろ?」

 「え、じゃあ本当になんで…?」

 「君が爆音で垂れ流していたVtuberを私もよく見ているから仲良くなれると思っただけだよ?」

 「はい…?」


 それは話が違う、想像以上にどうでもいい内容じゃないか。


 「マイナーな子だから同志が見つかってテンションが上がってしまってね」


 なんだそれ、師匠と弟子の邂逅は運命的なものって相場が決まっているはずなのに出会いがVtuberだと…?俺の純粋な期待を返してくれ。


 「他に質問はあるかい?」

 「もうないですよ!さっさと稽古つけてください!」


 泣いていても何も始まらない、悲しみの涙をひっこめる。とにかくアニメ化される作品を書くため修業あるのみ。きっとこれから書いては没書いては没を繰り返す特訓が始まるのだろう。がむしゃらに頑張ろうと決意を固める俺に出された課題は想像もつかないものだった。


 「とりあえず今から異世界転移してもらう、その世界を救うことが最初の授業だ」

 「は、はい…?」


 ポカンと頭上に?を浮かべる俺を無視して話はドンドン進んでいく。


 「では行くぞ」


 そのセリフと同時に家のベランダからよくわからない謎の空間に瞬間移動する。真っ暗の中に青の椅子に座った長い白髪を揺らす絶世の美女が佇んでいる。その美女はゆっくりとこちらに近づき師匠に話しかける。


 「千、やっと呼び出しに応じてくれたんですね」

 「久しぶりエリラ」

 「おや?隣の方はどなたですか?」

 「紹介しよう、私の弟子の九重龍君だよ」

 「あ、よろしくお願いします…」


 誰だか分からない人に流されるまま挨拶をすると新山さんからはみることの出来ない優しく癒やされる笑顔で挨拶をしてくれる。


 「私は女神のエリラです、これからよろしくお願いします九重さん」


 これがきっと俺の求めていたお姉さんなのだ、優しく綺麗で美しい笑顔で癒しを提供してくれる。俺のお隣さんになってほしいものだ。


 「あなたが弟子を取るなんて珍しいですね、それより千に救ってもらいたい世界があるのです」

 「どこだい?」

 「アルデカーナといいます、三人の魔王と人間の四つの派閥の戦争が続いてこのままではそこの土地が持ちません、あなたならすぐにでも平和をもたらすことができるでしょう」

 「いいけど一つ条件がある」


 完全に蚊帳の外で二人の会話をボーっと聞く、会話内容よりも女神様に対してもその態度で接している師匠への驚きのほうが強い。この人が敬語を使うことなんてあるのだろうか。


 「今回世界を救うのは九重君だ」

 「「はぁ!?」」


 二人して同じことを言うのも当然、俺に一体何ができるというのだ。


 「九重さんの勇者としての適性はけっして低くはありませんが、あなたが動いた方が最善です、千お願いします」

 「丁重に断らせてもらうよ、今回は九重君にやらせる」


 空気がピリピリしている、二人の表情は穏やかだが目から火花が散っているのがよく見える。そもそも俺の意見くらい聞いてくれてもいいのに。


 「一つの世界が破滅に近づいているのですよ!あなたは勇者としての務めを果たすべきです!」

 「そんなこと私の知ったことではないね、地球が存続していて弟子を鍛える環境が整っていればそれでいいんだよ」


 師匠…そんなに俺のことを気にかけてくれるなんて…いや待て、この人俺に勇者とはって教えを説いていたよな?その真逆を突き進んでいるが…?


 「とにかく今回私がするのは彼のサポートだ」

 「あ、あのー…なんで俺が?」


 勇気を振り絞り質問を投げかけるがそれを一蹴。


 「鈍い、この愚図が」


 言いすぎだろ…


 「それがアニメ化作家への一番の近道だからだよ」

 「はぇ…?」

 「まだ分からないのか?世界を救う体験を参考にして小説を書くんだよ」

 「なるほど…?」


 今回置いてきぼりにされた女神さまはプルプル震え怒りをあらわにしている、ぽっと出の男が世界を救うことになったのだそれも当然だ。


 「分かりましたもうそれでいいです、九重さんには私から好きな能力を与えます」


 これが流行りのチート異世界転移というやつか…こんな時が来た時のためにどんな能力を貰うかの脳内シミュレーションは何回もしている、転生系のラノベを読む人間は誰しもが通る道だろう。ただ実際に好きな能力と言われると迷ってしまうな。


 「エリラそれもだめだ」

 「「はぁ?」」


 また被った。


 「彼にはその時その時で困難を突破できるギリギリの力を私から授ける、無双しては作品に活かすことはできないからね」

 「いや…無双系の作品の参考になると思うんですけど…」

 「君はそれで何度駄作を産み出したんだ、その手の作品を書くのは技量が上がってからだ」


 返す言葉が見つからない、またしても会話についていけないエリラさんがすかさず待ったをかける。


 「流石にそれはダメです!確実に世界を救ってもらわないと困ります!」

 「大丈夫だ、保険として私も同行する」

 「まぁそれなら…」


 女神様も納得させるとかどれだけの実績が師匠にあるのか想像もつかない、10個の世界を救ったと言っていたし相当な貸しがあるんだろう。


 「では行ってくる、準備はいいかい?」

 「もうどうにでもなれ!」

 「よし出発だ」




あとがき

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